6・神々の利用券編
[御前たち]
[もう終点ぞよ、御前たち…
……霙、苣、アディル、リーヨウ!]
ネイが名前を呼ぶも、誰からの返事も無い。
団員が揃って気絶しているのである。
キミも考えてみよう、
気を失うのも当然!
[…
横たわる四人には届かない声。
途方に暮れて、ネイは柄にもない発言をした。
[彼らを死なさないでよ、神様……………]
そう祈る花が居る、霙の襟元。
そこには沢山の血が滲んでいた。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
この国とは少し離れた王国は、王が大層嫌われていた。
かつての階級"奴隷"を再建したからである。
王の血迷った行動を広めるべく、
口封じに処刑された。
学者の執念もむなしく、貧しい国民から順に奴隷商へ売られていく。
ただ一人、元は店を経営していた奴隷が
その件により、やはり止めなくてはと考える民が集まり、
主導者を筆頭に革命が成されていった。
沢山の国民が死に、内乱も起きた。
そんな事は置いておいて、カミサマの話をしよう。
付喪神というのは本来、フラフラ国境を彷徨うものだ。
その移動のため、常に何かに憑いている。
瓶とか林檎とか裁縫箱とか、血液とかな。
…おや。丁度いいところに、沢山血を流し横たわる人が。
そんな訳でワタシ達付喪神は、憑く身体の争奪戦をしたのだ。
早い者勝ちの勝者たちは…
楽観的な【朽葉】・幼いが平和主義の【氷柱】・冷酷無慈悲の【石土】、
カオス好き特殊性癖持ちの【火種】…
国内のあちこちで、勝者たちが血に憑依した。
ドク、ドク、ドク……
血は、酸素を運ぶ。酸素は、心臓を動かす。心臓は…
――ひとの"生きる意思"を呼び覚ます。
襟、額、足などに滲んでいた血が、体内に戻っていく。
ドク、ドク、ドク、ドク……!
赤血球が巡り、酸素が届き、呼吸が戻ってくる。
そして彼らは、目を開いた。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「んー…もう朝?」
[リーヨウ…!よかった……]
隣を見ると、目を覚ました霙の袂からネイが。
「ネイ!どうし…いッッッだ!!!」
リーヨウは起き上がりたくても、背中の激痛でどうにも…。
「リーヨウうるせぇ…もうちょい寝ろや」
「…あ、おはよ~リーヨウたん可愛いね~…」
「からだ痛いーー!」
「リーヨウ大丈夫⁉…って、俺もとんでもない傷に……」
[霙、苣、アディル、リーヨウ、
心配した……っ!]
ぎゅっと目を瞑ったネイ。
「「「「ネイ」
四人はじっとネイを見つめる。
「悪い、心配かけたわ」
「そうだよリーヨウたんが無事で良かったよ!」
「大丈夫!今度から一人で行動させない!」
「それはアディルもだよ!」
「…ていうかここ、何処?」
[電車の上部ぞよ]
「ええ⁉ボクらなんてとこに寝て…」
「み、見つかる前に降りるよ!」
今頃気付くとは、相変わらずのマイペースめ。
しかし、付喪神が憑いてくれてよかったな。
コイツらは未来永劫"失血死"を免れられるのである。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「は~~~!疲れた!」
ルーはおぶっていたリーヨウと一緒にソファへ倒れ込む。
「おつかれ~…うぅ、今日のご飯担当、私」
苣も二人と同じくソファに身を預けたい所だが、
仕方なく台所に立つ。
「デパートに買い物行くだけのはずが、大変な目に遭ったねぇ……」
「皆死にかけたけど、怪我大丈夫?」
「ボク動けなーい」「オレも…血の跡は無いけど、湿布は欲しいかも」
食卓テーブルより、口を開く霙。
「そうだよ、気絶した俺たちを運んでくれたの霙だよね?」
[霙はな、階段から落ちても尚
御前たちが自分のせいでホットミルクを飲めなかった、と零しておったぞよ]
ネイがサラッと暴露。
「み~ぞ~れ~~!
大けがしてその台詞出てくるとか、可愛いかよ~!♡」
「まぁだ気にしてたの!!?大丈夫だって言ってるのに!」
「新しいマグカップで飲もうね、ふふ…」
「~~~~!!!ネイっ!!!///」
団員にあたたかーい視線を向けられて、一気に紅潮する霙。
その様子を見てリーヨウはニヤニヤ。
ネイは満足げな笑顔。
「あーもうっ!お前らも打撲してんだから湿布持ってくるわ!」
霙は照れ隠しに席を立ち、戸棚へ。
「確かに、みぞれには助けられたなぁ」
[労わってやると良い]
台所でふと疑問に思う苣。
「そうだ…私達に恨みがあって攻撃してきた
あの二人、何者?心当たり無いな…」
「ああ、俺もね……知らない!」
「元気よく言い切るな!…ったく」
「『担々団体』を狙ってたし、ボスにきいてみればいいんじゃない?」
「…名案だねリーヨウたん!可愛い!」
「善は急げ、すぐかけよう!」
スマホを取り出し、早速電話することに。
『………なに?』
「一言目それぇ…?」
ルドの疑り深い第一声に、リーヨウは絶句。
「ボクたち昨日、ヤッバイ奴に襲われたの」
「あの、私達が港を燃やしたことを恨んで襲ってきました」
「科学組織カカクのことも言ってた」
『ふむ。おれ分かるよそこ』
ボス・ルドラッシュの返答は明瞭だった。
「マジ!!?手っ取り早いなボスに訊くと…」
『そうだな、それを話すには…』
『おまえらの出会いから喋ろっかな』
「「「「!!!」
四人と一輪の注目は、ルドの声に集まる。
『おまえらは、この国に来た時のことどんくらい覚えてる?』
「ボクは何にも…」
「私あんまり…」
『そうだろーね、だって身体乗っ取られたてだもん』
ワタシも吃驚だ。このルドという少年は、神々や他国の事情に詳しい…?
『四人とも身体に神が居て、フラフラ~っていくつか国境を越えて、ここにきた』
「じゃあその話もっと早く教えろや。」
「そうだよっ!俺たち何も知らないまま従わされてたんだから!」
二人に同感だ。これを今まで、黙っていたのだから。
『落ち着けよ。おれ、以前説明したからね?
神のお陰で命が助かったー、って話』
[…………もしかすると、今回生き延びたのも
神…とやらの影響?]
「——確かに!」
ネイの考えに四人は納得する。
『なにおまえら、また死にかけたの?神パワーとかで撃退できたでしょ』
「いやいやいや!そのヤッバイ奴、
超能力使いも居たし!」
『そのヤッバイ奴、ってのも気になるな…
まぁいい、順を追って話す』
三人と一輪はじっと画面を見つめ、苣は耳に集中しながらも手を動かす。
『死んだはずの奴らがピンピンしてるもんだから、普通騒ぎになるけど…
おれの父が
『おまえら捕まえて利用しようとした所を、おれが奪ったの。』
「……話が難しすぎる」
「ね!わかんないよね~」
霙とリーヨウは顔を見合わせる。
『とにかく。おまえらを養ってるのが父じゃなくておれで良かったね。
少なくともブラックでは無いから』
「そうかなぁ…」
『あ、ついでに父の会社に"科学組織カカク"って部署があるよ』
「そっ…それそれ‼俺ら知りたかった情報‼」
「ボスの親父かよ何だよ迷惑な話だな‼」
「私が会った路地裏の三人組、結構いい職だった…⁉」
アディルは身を乗り出していたソファに、腰を降ろし息をつく。
「…はぁ、色々合点いった。みんなも大丈夫?」
三人も理解できた、という顔で頷く。
『んー…そう考えると"ヤッバイ奴"も
多分父の会社"裏紙の裏に書くわ㈱"の社員かもね』
「おい会社名のセンス……」
[汁なし担々団体、も大概ぞよ]
霙のツッコミにネイがツッコむ。
「あの、私達また因縁つけて襲われる可能性も…?」
『あーおれ達の会社、そもそも父とバチバチしてるからなー
あり得る。』
[では、対策を練った方がよいぞよ]
『自分等で頑張んなさい』
「えー!ボス何もしてくれないの⁉ただでさえお金くれないのにー!」
「せ、せめて給料UPくらいは…」
『稼げば?…以前のヤサシ草の件だけど、あれまだ――』
『ルド!9時過ぎてるわよ、急いで』
スマホの向こうで、以前屋敷に侵入したときに会った少女・
ミルの声が聞こえた。
『あーごめん。すぐ行く』
そうして、通話はさっさと切れてしまった。
[……気になっていた事柄の全貌が見えてきたな]
「うん…まだ気になってるけど」
各々が切れたスマホを見つめていると、
「はい、遅めの朝ごはん。召し上がれ~主にリーヨウたん♡」
苣が皿を持ってきた。
「ピザ…!ピザだーーー!!!」
皿に乗っ
たトマトピザと照り焼きピザを前に、リーヨウのテンションは一変。
「やったーやったーピザだー♪」
「リーヨウ、ピザ好きだなぁ」
「いただきます。」
リーヨウチョイスの冷凍ピザを、団員達が囲む。
今日は何も食べてなかったからか、あっという間に平らげた。
「このあとどうする?俺は動いても大丈夫だけど…」
「じゃあ、どっか行くー?」
その会話に食いついたのはネイ。
[あたくし、赴きたく思う場所が在るぞよ]
「え!どこどこ!」
[そう遠くは無い所なのだ。霙にも…]
…当の霙は、ソファに座ったまま寝てしまっている。
「あ~あ♡ご飯たべてすぐ寝ちゃって~…」
「ニヤリーヨウたんも可愛いよ!」
「さっきも電車で寝てたのに…よっぽど疲れてたんだね。」
そんな霙を見守る三人と一輪。
しかし、この幼気な寝顔は本当に幼子のようだ。
あの拙い口調やら19歳にしては幼い発言やら……
なにか関係しているのだろうか。
「仕方がない、みぞれだけ留守番だね~」
「あーそれなんだけど…私も残っていい?」
そこで挙手したのは苣。
「溜まってた洗い物と、在庫点検しちゃいたいからさ」
「わ!ごめんいつも任せっぱなしで!一人だけで大丈夫?」
「私腕力も体力も無いから、このくらいはがんばる。」
苣はしっかりとした口調で言い切る。
確かに、苣の家事分担には床拭き、風呂掃除、ゴミ捨てなど
力をようする仕事は割り当たっていない。
しかしその分、台所や経理などを買って出たので、
苣はやはり一番ちゃんとしている人間である。
「——見直したよ苣~っ!」
「わっ!リーヨウたん…!!」
陽気な声と共に、リーヨウが苣に抱き着いた。
「見直した、だって。良かったねぇ苣」
「…ん?つまり今まで見放されてたって意味…?」
色々考えるのはやめ、苣はリーヨウを撫でる。
[…働き者を残して遊びに出向くのは、気が引けるのだ]
「い、いやいや!気にせず行っておいで!
ちょっと…調べたいこともあるし」
お出掛けにはネイ、アディル、リーヨウで行くことになった。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「うわぁぁぁ…!」
どこまでも広がる草原。揺れる木々。
「すっごいねこの公園!!!」
二人と一輪が森林公園を訪れている。
[そうであろう、自然に囲まれるのは良い事ぞよ]
「空気が綺麗だよネイ…!」
リーヨウは公園を駆けまわり、ルーはベンチに腰掛けた。
[前々から来たかったのだ]
「へぇ!なんか一面の緑って、ネイの居た花畑みたいだね」
[ふむ…言われてみれば]
すると、遠くから呼ぶリーヨウの声。
ルーもそちらへ走って行き、リーヨウの隣に寝転がる。
よく晴れた、昼頃の平和な空だ。
[この景色、霙にも見せたかったのだが…]
「あは、ネイは霙好きだなぁ」
「そーいや、会った頃からみぞれ大好きだよね~
なんで?」
ネイは少し溜めて、答えた。
[……花は皆、顔の良い人間を好いているぞよ…]
「———っあははははは!!!霙、おまえ顔で選ばれたの!!?」
「えへへへぇ~?みんな面食いだって!」
[っ現在は、顔だけでなく性格も評価している…!]
爆笑する二人と、慌てて訂正するネイ。
「分かるよ、霙って仲間想いな奴だよね」
「その上可愛いとこあるんだよな~♡」
[そうだ…。花は自分の美しさ故に審美眼も優れている
だけに過ぎない、人の本質は内面ぞよ]
「うんうん、ネイ美しいよ~」
ルーが青空に手をかざしながら訊く。
「それって、ヤサシ草とかにも当てはまるの?」
[その通り。彼女たちは美男に触れられると緊張して縮こまる]
…思い返してみると、触ると枯れたような反応をしたのもそれ…?
「乙女みたいだね」
「かわいー花だなぁ」
ネイを穏やかな表情で見つめるルーとリーヨウ。
うつ伏せになるリーヨウの、お団子ヘアに目が留まる。
「あのさリーヨウ、おまえの【
神…って存在なのかな」
「んーどうだろ?喋ったこともないから、どういう奴なのか全く…」
…突然『おまえら付喪神が憑いてる』と言われても、うまく理解できないのであろう。
リーヨウも疑問に思い、「ヒダネさーん」と呼びかける。
――それが間違いだった。
ゆらりと立ち上がったリーヨウは、
「ああ、広い空間はいいなぁ。窮屈な思いをしなくて済む…♡」
やはり
「ちょ、リーヨウ?」
「お!丁度よい所に林があるじゃないかぁ♡
ここを火の海にすれば、少しはボクも楽しめるかも…」
[待つのだ。…御前の名を伺いたい]
「ボク?知ってる癖に訊くなよ花ぁ。【
そう言って、いやらしく目を細める。
「さ、どうカオスにしようかな~♡」
「待てって!」
「ボクに命令とは、身分違いだなぁ低民A。」
「……前言ったよな。人に格差なんて無いって」
ここでアディルも、低く怒った声色と変わる。
「火を使うことは許さない。」
「そう言われてもなぁ。あ、遊具!幼児共が一か所に集まっているし…」
「好機っ!」
指を差した先…子供達めがけて、勢いよく燃ゆる火が襲い掛かる!
「———やれ、【
途端、地面から大きく土壁が現れる。
火炎から子供達を守った後、脆いのですぐに崩れる。
「おい」
つまらなさそうにする【
「危ないことするなよ、カオス馬鹿」
「……馬鹿ってなんだよ、ボクを誰だとッ…」
リーヨウの小さな頭へ、思い切りチョップを繰り出すルー!
「何考えてんのっ!!!俺だって人のことは言えないけど、子供傷つけちゃだめ!!!」
本当に、人のこと言えないな。
だってリーヨウ殴ってるし…
「なんでボクって毎回負けるの……?」
確かに霙にもアディルにも毎回容赦なく倒されてるようだ…。
[リーヨウ、自我は戻ったか]
「いてて…自我というか、ボクの意思に【
…いつもと違う調子だが、あれはリーヨウ自身の行動という訳か。
「ほら立て。手は貸さないよ」
「わーんアディルが厳しいよ~!」
当たり前だ、あんな問題起こした後なのだから。
[アディル、御前も何かおかしな所は無いか…?]
「大丈夫、心配しないで。俺は【石土セキド】を使いこなしてる」
[…先程の"やれ"発言が引っかかったぞよ]
「あ、あれ⁉俺そんなこと言ってた⁉」
「はなばたけのでも、『頼んだセキド!』とか」
[それなら、使いこなしてはいるのだな]
団員と、付喪神。
その
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「真面目に費用……尽きるな」
机に一人、お金の管理に頭を悩ませてる苣。
ルドから振り込まれる必要最低限の生活費…
+ヒキノ蓮の収入。
これをコイツら、ゲーム代にあてたのである!
そりゃあ、四人揃ってコントローラーを握るのは初、
面白いテレビゲームに没頭するのは避けられない……
―――なんて言わないから!もう少し考えて金を使いなさい!
ワタシの言葉が、団員たちに届くはずもなく…
四人プレイできるソフトを沢山買い集め、まぁ無邪気に、楽しそうに遊んで…。
コイツらがゲームしている姿は、なんだか見ていて…
……いや。長く語りすぎた。
「良さげな依頼ないかな…できれば楽に」
苣はパソコンを前にマウスを握る。
「…んだこの依頼」
「ほんとだ、楽そうなのに報酬が凄い―――って霙!起きてたの!」
「今起きたとこだわ。」
そう言って、眠そうに苣の肩に頭を乗せる。
「ネイ達どこ行った?」
「リーヨウたんとアディルと、森林公園に出掛けたよ
霙の写真撮ってからだけど~、ふふ」
「あいつな……ったく、物好きめ」
「それより受けないの。この依頼」
「う~ん…だってこれ、」
「ただ館の掃除するだけだよ?」
顔を見合わせる苣と霙。
「…まぁ怪しいわな」
「どうやら、主人が亡くなったから館を改築したいみたい。
それに……」
言い終わる前に、霙は『受諾』をクリック。
「ええ⁉どう見ても怪しいよね!!?」
「ここにルーが居たら、「大丈夫、金に替えられるものは無いよ」とか
言い出す。いいだろ、清掃くらい」
「そうじゃなくて!」
「ここ、やたら危険な現象が起こるって言われて館なの!」
…他でもない金の為、怖ろしい館を掃除しに向かおう。
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