3・金の生る花編

「名義も消印も確かに『プロジェクト・L』だ…

これおれだよ。手紙だしたの。」

「⁉」

しれっと話すルドに四人は驚く。


「まさかおまえらが

おれの集めたメンバーだったとは…」

金属のような色をして、『¥』が刻まれた目を向けるルド。

「私達も知らなかったとはいえ、顔合わせくらい

してくださいよ…」


ルドラッシュが、担々団体のボスだったのである。


取り返したコルクを大事に抱えて、

「ボスとして言わせてもらうけどね。

おれが指示したのは『事務所での生活になれろ』だよ⁉なんで誘拐とかするかなぁ」


「っ俺も言わせてもらうけど、生活費がこれで四人分!!?

どう生活しろってんだ!ふざけんな!」

誘拐作戦の提案者・アディルもすかさず返す。


「そうだそうだ!ボクだってお腹いっぱい食べたいし!」

「リーヨウたん可愛い!」

「じゃあお前今まで何してた?オレらを放っておいた奴が急に説教すんなや。」

四人はボスに対し…いや主に給料に対して文句を垂れる。


「は~~~~!分かってないようちの団員は!

おれが!居場所を!用意してやってんの!」

ルドの言い分は正しい。

一度命を落とし、故郷に居場所が無くなった四人をここに住まわせた。

それは第二の人生を与えたと言ってもいいだろう。


しかし彼らは、死後周辺のことは覚えているのやら…。

「それにお前ら神のお陰様で生き返ったのに、まさか神を"使って"

やがったとは…さっきの【石土セキド】なんか、不本意な使われ方だろうに」

ルドは四人以上に、付喪神たちに詳しい様子。


「それより電話借りていい?」

「は?お前やたら五月蠅く拒否してただろ…」

「親はね。ミル…いとこに迎えに来てもらう。」


事務所についていた家電いえでんで、連絡をとるボス。

「…私達のボスってさ、あんな少年だったの?」

「ボクとそう変わんない年だよね!」

「つーか『プロジェクト・L』ってルドラッシュのLかよ」

ルドが手元で何かやったのには気付かずに、


「すぐ来るって。住所教えたとき驚いてた」

「ボス、大丈夫だったら帰る前に給料の話を」

「やだね。」

「あんまりだよ!スマホとPCはあるのに、電気代が払えないって!」

「だっておれ、コルク傷つけた

おまえら信用してないし…」

と言って、コルクと共に出口階段から外に出て。

高そうな車が二人を迎えにきた。それを見届けたのち、

「こっちこそ信用できねー…

ボス、オレらよりタチ悪いじゃん」「おいおい」


「まーた成果なしだねー…」

ルーの一言で、一気に現実と会議室に引き戻される。

「真面目に資金カツカツになってきたな」

「うう…お腹すいたよぅ」

「リーヨウたん可愛いね…」


ふとアディルが立ち上がり、

「今後の担々団体に、先立つものは!!?」

「「「「金」

「よし大丈夫、志はみんな一緒だね」

満場一致の「金」発言。


…今、声が多いような気がしたが。

「楽して金稼ぎーなんて碌な仕事じゃないし…」

「なんかドカン!と稼げる依頼ないの?」

[ある]

「マジ⁉……ん?」



「今誰が喋ったの?」

「?私違うよリーヨウたん」

「俺は大丈夫」

「オレこんな声高くねぇよ」

リーヨウは首を傾げる。


「んー…おかしいな、霙の席から聞こえたけど」

「だから違ぇって」

[あたくしは此処ぞよ]


苣がハッと気づいた。

「霙!懐見てみて!」

そう言われて、たもとを覗く霙。


すると―――ほお!



色を失ったヤサシ草が、ひとりでに動きだしたとは!

「は…⁉は⁉」

「霙、それ持って帰ってたんだ」

「これじゃ売れないけど、一応な。

…いやそれより、コイツなんなの?」

白黒カラーだが艶があるその花は、会議机に乗り会釈した。


[あたくしを摘んでくれたお三方…いえ着物の彼も入れて四方。

 御前おんまえ達にご一緒したく存じる。]

驚いたことに、高い声で堅苦しい喋り方をするのである。

花が喋るだなんて、どこかのアニメかゲームで聞いたような…。



「みぞれー、だってさ」「ご一緒させても大丈夫?霙」

こんな面白い花なら!と受け入れる気満々だ。


「オレに決定権を寄越すなや…

そもそも枯れたんじゃ、ヤサシ草」


[あたくし、ヤサシ草ではござらん

 自身は"テイネイ草"と申す。]

「あー確かに口調が丁寧!苣です、よろしく」

苣はテイネイ草の葉と握手を交わす。


[あの時ヤサシ草は、唐突に触れられて驚きのあまり硬直してしまった。

 それがヤサシ草の性質ぞ。

 あたくしは警戒のため、枯れ色と同色に擬態した所存。]

そういうと、テイネイ草は色を自在に変えた。

どうやらこれが、テイネイ草特有の性質らしい。


「ほー!テイネイさん凄い!ボクリーヨウ。」

「中心に咲いてる目立ってた花、テイネイだったんだ。俺はアディル。

ルーって呼んでよ」

「オレは霙。テイネイだから、ネイでいいか?」

四人とも、順応が早くマイペースな奴ら…


[霙、ルー、リーヨウ、苣、お邪魔する。]

ネイはまた深く会釈した。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「大丈夫?儲かるもんなの?花事業」

[種類によるが、上質な布の原料となるものが売れるぞよ]

「じゃ、ここの庭園からちょ~っと頂いていけば…!」

「お望みの花が咲いてればな。…はぁ、気が遠くなる」


四人と1輪は、今こづち庭園に来ている。

こづち庭園は花を染めたり加工したりという、"観る目的"じゃない花を育てる。

「どれどれ…『こちらのキガ菊は、ランチマットの染色に使用されました』」

隣の看板を読んでみた苣。

「キガ菊」

「気が利く、じゃない?」

「おお~さすがアディル。さすルー」

[ヨク菊は薬の原料らしいぞよ]

「よく効く!」

「クチ菊って紅茶の茶葉になるんだ」

「ん~~口を利く!」

「おいこれ駄洒落じゃ…!!?」

思わず霙がツッコむほどのネーミングセンス。菊がずらりと続き、蓮の池エリアへ。


「…あ。ネイ、お前以外にも喋る花って居るのか?」


[居るぞ。あたくし共は御前たちと同じく呼吸を行い、日光という食事も摂る。

花もみな"生き物"なのだから。

少し耳を澄ませてみよ]


目を瞑り、浮かぶ蓮に耳を傾ける。

「……聞こえねぇ」

「え、なにそれ!ボクもやるー!」

霙につられた三人も、池の方へ身体を乗り出した。

「分かんないな~。リーヨウたんは聞こえる?」



〈———れ…〉


「…!」

何やらハッとしたリーヨウ。

池底から届いた微かな声に、身体を近づける。


〈——…れ…てっ……〉


もっとよく聴こうと、更に水面へ近づくと、

ドボン!


「わッ!!!」

陸に引力が無かったかのように、リーヨウは池に吸い込まれる。

「リーヨウ⁉」「リーヨウたんっ!」「大丈夫⁉」



〈——つれて…って―〉


それが溺れるリーヨウの耳に届いたかは知らないが、リーヨウはとっさに

茎に手を伸ばす。掴んだ茎もまた、リーヨウに絡みついた。

沢山の蓮の葉が水中に影を落とす中、引っ張られるような感覚で一気に上へ。


「リーヨウ!」

お陰でこちらに伸びる苣の手を、しっかりと取ることができたのだ。


「ゼェ、ゼェ、はぁ~~!」

「リーヨウ大丈夫⁉」

「うん、助けて、もらったから…」

「お礼には及ばないよリーヨウたん~」


「いや、ちがく…て、植物に…」

「?」


――連れてって。


確かにその声は、そう聞こえたのだ。

[リーヨウ、御前おんまえの身を救ったのは恐らく…]



["ヒキノばす"であろう]

「ヒキノ蓮」

リーヨウは自分の腕に絡みついた蓮を見つめる。


「で、そのヒキノ蓮は何だって?」

「…連れてって、だって。」

「凄い!リーヨウには聞こえたんだ!」

アディルの褒め言葉と同時に、大きなくしゃみをするリーヨウ。

その拍子で髪の水滴が飛び散る。


「うう、服もびしょびしょ…」

「そんなリーヨウたんも可愛い!」

リーヨウは思い出したかのように、

「あ、そうだ【火種ヒダネ】」

とたんに火が灯る二つのお団子。

リーヨウは脱いだ服を

「みぞれ、これお団子にかざして」

と霙に預ける。


「別にこれオレである必要は…」

「リーヨウたん、私やろうか~?♡」

「いやボク、単にみぞれを働かせたいだけだから♡」

「ピンポイントなのやめろや!!ったく仕方ねぇ…」

不服そうな顔で、小さく燃ゆる火に服を重ねる。

なんだかんだやってあげる姿には、ワタシも感心。


[霙は大変好かれている様子だな

「好ッ……!」

「そうなんだよ♡」「俺たち皆、」「霙が好きなんだ~」

「ストレートに言いやがって……ッ!//」

お団子越しに伝わる霙の動揺を、リーヨウは楽しんでいる。


「良かったねぇ霙~私も好かれたい…」

「よかねぇよ!じゃあ苣が代われや。」

ちょっと焦げたが、リーヨウの服は無事乾いたのであった。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「これどうしよ?腕から離れなくなっちゃった」

丈夫な茎を指して、リーヨウは尋ねる

[蓮を引き離すとなると、ちぎるか切るのどちらかぞよ]


「………」

ヒキノ蓮は確かに声を発した。話しかけた。

そんな存在を、ちぎってしまうなんて…とワタシは思うのだが。

リーヨウは、

「ねぇアディル、ヒキノ蓮について調べられる?」

「うん。えーと…」

苣、霙、リーヨウが検索結果に目を通す。


ヒキノ蓮:大きく円い葉を持つ、頑丈な蓮。

     ヒキノ蓮特有の茎は、水中をどこまでも伸びることができる。

     空気清浄機のような性質があり、空気のある水上を好む。

     しかし花や葉はともかく、茎が重いため池を離れられない。なので

     その頑丈な茎を張り巡らし、肺呼吸の生物へついていこうとする。

     天然の空気清浄機は貴重。家電メーカーが全て買い取って、商品化を図ろ        

     うとする程である。その額¥500,000


「天然の空気清浄機、か。」

「ちしゃ!これボクの読み間違えじゃなければ…」

「——50万っ⁉」

「ええっ!!!だ、大チャンス!!!」

腕に絡みついた蓮を、興奮気味に見た。


「…切っても、いい?」

リーヨウは静かに問いかける。

耳を澄ますが、何も聞こえない。


「バイバイになっても、いい?」

再び問いかける。すると…!



〈——つれて…って、くれた……さんそ、おいしい…

…ありがとう〉


「…こちらこそ」



こうしてヒキノ蓮との会話を終わらせたのだね。

後に、引き延ばすことはなく…。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「うわ!陰湿なカード持ってやがる…」

「ふふ…屯田兵は霙に使うね俺!」

「あれ、リーヨウたん二連続ゴールじゃん!桃鉄運営にもリーヨウたんの可愛さが

認められたか…」

「ふふん。特急周遊のボクには追い付けないよー!」

[スリの銀二に気を付けるのだぞ]

「あれぇ銀二来た⁉もー、ネイがそういうこと言うからー!」


ソファにぎゅっと座った四人は、テレビを前に奮闘中。

アディルの『みんなでゲームできるくらい稼ぐ』が叶った訳だ。


……生活費より先に、ゲームに散財か…。


そこはまぁ、ツッコまずとして…思わぬ収入で余裕ができた担々団体。

油断していると、運に振り回される。



  翌朝。

「………ふああ…いま何時…?」

[10時ぞよ]

「じゅう…じ……」

「「10時!!?朝の!!?」

苣とアディルが、声をそろえて叫ぶ。


「うわ、私までこんなに寝るとは」

「……まだボクねてるよぉ」

「うん、リーヨウたん可愛いしいっか!」

呆れたことに、コイツらは桃鉄百年決戦を夜通しでやっていたのである。


「ソファで寝たから寝違えてない?首大丈夫?」

「心配いらねぇわ。」

「俺はちなみに寝違えた!」

「なぜ自信満々!!?」

霙とルーの、気の抜ける会話。まったく。

朝食担当の苣が困り果てている。

「昨日ゲームしか買いにいかなかったせいで、食材が…」

[御前たちの盲点ぞよ]

「そうだよねぇぇぇぇ」


「今日の買い出し当番はリーヨウだよ。大丈夫そう?」

「ううん…眠い、めんどくさい…」

「面倒くさいのはオレもそう。」

霙が話しかけると、突然立ち上がるリーヨウ。

「——はッ!みぞれに押し付ければいいじゃん!」

「起き上がって早々最悪だなお前!!」


リーヨウは霙にずいっと近づきガン見する。

「ねぇ霙、ボクとケンカしてよ。」

「リーヨウたん可愛い、やっちゃえ!」



「———戦うのは、嫌だ」


霙の声色が、少し変わる。

「口喧嘩ならいいけど、戦闘は、むり」

俯きながら発する単語のひとつひとつが零れ出るようだ。

目元は見えないが、霙は今…


「何!ケンカっていっても、ただの手押し相撲だよ!」

そんな雰囲気など一蹴するような、明るい調子。

リーヨウの声に、霙もいつもの口調に戻る。

「…んなことする暇あれば普通に買い物行けや。」


「ボクが勝ったら、買い出し当番押しつけてやろ。

そーのーかーわーりぃ~!霙が勝ったら何でも一つ、言うこと聞いてしんぜよう!」

「霙いいなぁ」

「……それ絶対聞かねぇやつじゃん。やだよ。」

「このボクに二言はない!、だよ?戦らないの?」


それを聞いて少し考えると、霙はにやりと笑った。

「いいよ。ちょっとなら付き合ってあげる。」

四人と1輪は外に出る。屋外にて、

霙とリーヨウの、壮絶なしょうもなバトルが幕を開けた。



「準備は大丈夫?バランスを崩した方が負け!

よーい…はじめ!」

途端に、合わせた手へ体重を乗せる二人。

12歳と19歳では体格差があるが、全力ではない様子の霙。そんな中、


「——みぞれとは一度、喧嘩してみたかったのだよ…♡」

リーヨウが突然、恍惚とした表情に変わる。

「【火種ヒダネ】…」

「⁈」

手を組んだまま、顔を霙に近づけるリーヨウ。

しかも、手押し相撲中だというのに火を使い始めたのだ!



「リーヨウたん頑張れ~!」「大丈夫、押してるよ!」

[腕力の差を埋める程の執念とは、恐れ入った。]

二人と1輪はリーヨウの応援に。

その声援あってか、力が加わったリーヨウの腕。霙は目と鼻の先で燃えるお団子に嫌悪感を覚える。


ぐぐぐぐぐ…

両者、一歩も引かない攻めの勢い!

「オレに面倒を、押し付けようたって、んな非力じゃなぁ⁉」

「そっっっちこそ、年下相手にガチになってるね⁉」

ちょっと楽しくなってきた二人による、睨み合い。


「【火種ヒダネ】っ!」

火が強くなり、解き放たれるお団子。

ほどけた髪は激しく燃え、霙に襲いかかる!

「今度は殺し合いもしよう、みぞれ…♡」



「——お断りだわ。怪我したらどうすんだ」

「わ!!!」

パッ、と霙の手から力が抜ける。


勝負あり。


この一瞬で、リーヨウの足元に【氷柱ツララ】を張ったのだ。

「いたた…」

「リーヨウ、大丈夫?」「リーヨウたん可愛いよ!」

滑って尻もちをついたリーヨウを見下ろす霙。


[おめでたい。勝ちの対価はどうする、霙]

ネイに言われて、霙はニヤリと笑い命令を下した。


「この先のオレの買い出し当番は、ぜーんぶリーヨウがやって!」

見せたのは子供のように無邪気な笑みだけど、性格の悪さが滲み出ている。


「ハイ『聞いた』!!これで『言うこと聞いた』もんねーー!」

「……は!?ずるいだろ!!それ無し!!無効!!」

「ボクに二言はないのだよ!」

二人して子供みたいな争い方をするものだから、

「あはははは!」

「ふふ、リーヨウたん可愛い♪」


アディル苣も笑い出してしまった。



一通り笑った後。

[ところで、さっきの【妙な術】は何と申すか?]

ネイが不思議に思って尋ねる。当然の疑問である。


「俺には【石土セキド】。立っている面から土を伸ばせるよ。」

「私【朽葉クチバ】って呼んでる。木枯らし風を起こせるんだ。」

「オレの【氷柱ツララ】は、触れた表面だけ凍らせるやつ。」

「ボク【火種ヒダネ】!ガス代も賄えたらいいのになぁ、お団子の火」

四人は軽い調子でそう話す。


[それは……それは御前たちの力なのか。

どうやって手に入れたのだ、そのような不思議な力]



「と、言われてもな…私達も分かんないんだよね」

「気付いたら体に馴染んでた、って感じだしな。」

…やはり覚えていない様子。


【氷柱】でコーティングされた屋根、【石土】のレールに、【朽葉】で稼働する荷車、【火種】に至っては乾燥機扱いだ。

そういや脅しや戦いにも使ってたな、コイツら。



我が物顔で、神を使うものだ。

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