2・情報収集編

この国の富豪情報を集めて、商店街付近で集合ね。


アディルの台詞を合図に、四人は街中に散った。


「よしみぞれ!

どっちが先に集めてこれるか勝負だ!」

「はー…だる。リーヨウだけで」

「みぞれが勝ったら何でもおごってあげるよ!」

食べ物で釣ろうとするリーヨウ。

ルーと苣はすでに情報収集へ向かったので、二人で同じ箇所に固まっている。


「なんでも…」

霙は少しだけ口の端をつり上げ、

「……いいよ。受けて立ってやるよ」

と呟いた。



一方、人通りの多い道で佇む苣。

「この国に来たばかりじゃキツイよね〜…

私、聞くより書くほうが得意だし……」

辺りをきょろきょろと見渡し、困り果てていた。


というのも、四人はまた新たな金策を試みたのである。名付けて、

"金持ちの子供、少々お借りする作戦"!


   …その通り、犯罪である。


富豪の家から子供をさらい、身代金を要求するという作戦を、どうして悪びれもせず実行するのやら…。

苣。リーヨウ。霙。アディル。

離れた土地でそれはそれは不幸にその命を落とした四人は、

【付喪神】が血管に流れているのである。


「話が難しすぎる」とキミは思う。しかし、そういう四人なのだ。

その難しすぎる縁から団を組んで、今に至る。



――最な死に方だからこそ、が分からない?


気の毒な循環だ。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


パン派閥で10/20が誕生日で烏龍茶が好きな、苣。

そんな苣は人に酔い、人気ひとけの無い場所で一休みだ。

「ふぅ…都会って苦手だな」

「こんな所で奇遇ですねぇ、お姉さん」


話しかけてきたのは、小柄な三人組。

「私、一応男性ですけど…」

れそうな色男を"お姉さん"と呼ぶのがシュミなのだ。」

「いいから早くらせろ…お前ら四人組はいい獲物だぜぇ…!」

「その為、お一人のところを狙わせてもらいました。」


つかみどころの無い三人。今にも跳びかかって来そうで

とにかく逃げなくてはと思ったが、

(——しまった、ここ袋小路…!建物に囲まれてるし、どう助けを呼ぼう…)

苣は頭を回転させるも、三人組の鋭い一撃が襲う。


「っ!助けて【朽葉クチバ】!」

狭い路地裏を、枯葉が舞う。しかし苣の目線に彼らは居ず、

「甘いぞ。」「ハッ!笑っちゃう弱さだ…!」「やはり狙うのは貴女からです!」

上空に三つの刃物が光る!苣はぎゅっと目をつむる。



パキン…!


「——うちの団員に、手出したら駄目だよ」

朗らかだが、いつもより怒った声色。

アディルだ。

「苣、もう大丈夫。安心して」



「⁉こちらは鋏だぞ、どうやって…」

アディルは驚く三人の前に、四角い板をかざす。

「スマホ。カッターや鋏を防ぐには十分な強度だ。」

「文明の利器ですね…」

「だが最後には純粋な力が勝つぜぇ!!二人まとめてやってやらぁ!」


鍵の尖った先を向けて、こちらへ突撃してくる。

「【石土セキド】」「ぐふっ⁉」

彼はコンクリートから勢いよく突き出した土に、吹っ飛ばされたのだ。

どさ、と落ちるそいつには見向きもせず、


「苣、今のうち!」

「…っ逃がさん!」

「少しはビビれよ…【石土セキド】」

またも土で吹っ飛ばすと、苣は「ありがと!」と言って去った。

「良かった、無傷で」

ほっと息をつくと、アディルは声を低くした。


「おまえらは逃がさないよ?」


追い詰められた三人は、生気の無いアディルの目にビクリと怯えた。

誰が見ても"こわい"アディルは、いつもの温厚な彼とは別人のようだ。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「二人とも収穫なしか~」

「確かにまぁ、一般人は富豪との関わりなんて無いか。」

「じゃあ仕方ないね~、奢りはなしだ!」

「チッ…頑張るんじゃなかった、こんな面倒な事」

わざとらしいリーヨウに、舌打ちをする霙。


ポツ、ポツ、サァァァ…

「わっ、雨⁉」「運がねぇ…」

小雨に降られて、髪を濡らす二人。

そんな二人に、救世主が訪れる!


「リーヨウたん!私の折り畳み傘使って!」「苣ー!」

苣とリーヨウ、感動の再会。仲良く傘に入る。


「オレも入れろや…」

「私はリーヨウたんと相合傘できれば満足なの。」

「ちっちゃな傘に三人は無理だよー、

みぞれは濡れて帰って!」

「薄情すぎる台詞だなお前ら‼逆に清々しいわ‼」


冗談はさておき。

「雨宿りできる所なくて困ってたんだよね。ありがと苣!」

「か、感謝してるリーヨウたん可愛い…!」

「ところでアディルは?」

「そうそうアディル!迎えに行かないと!」

苣は二人を連れて、先程の路地へ向かう。


「アディル~!こっちこっち!」

ふらふらと路地裏から出てくるルーの姿が。

「おいルー、…ルー?」「なんかあった?」


彼の異変に気付き、心配する三人。

「……あ

大丈夫だよ」

まるで、雨が降っていたことに今気づいたかのよう。

ルーはシャツまですっかり濡れていた。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


その晩。苣が布団でうとうといていると、

隣の部屋から声が聞こえた。

「ぅ…………げほげほげほげほっ!

はー……ふー……」



「…アディル?」

間違いなく、アディルの声だった。

「っ!!……う…おえ

げほげほげほっ!」

あまりに苦しそうだった為、目が冴えてしまったのである。

心配になった苣は、ルーの部屋へ行こうと扉を開けた。



「アディル…大丈夫?」

「は、あぁ、だいじょうぶ…」

「でも苦しそうだよ」

背中をさすって、なんとかアディルを落ち着けようとする。

「しんぱい、しないで……ほら俺、みんなより

大人じゃん…?だから、ちゃんとしないと…っげほ」


アディルは苦しそうに笑って、苣にこう打ち明けた。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「おまえ、何か知ってそうだね。例えば…おまえらが所属してる会社とか」

「…っ!」

追い詰めた三人組に、かまをかける。


「話せよ、戦闘狂キッズ共。だんまりだと痛い目みるぞ?」

低く、威圧感のある声で脅すと一瞬怯んだ三人。

「へっ。やってみろよぉ…」

それでも口を割らず立ち上がった。

アディルは三人の子供達キッズを冷たく見下し、


「―――【石土セキド】、やっちまえ」


路地裏にいくつも尖った石が混じった土が降る。

直撃したのか頭に痣をつくりながらも口をつぐむ彼ら。

しかし、その表情に抵抗の意思などなく…


その後の状況は、"惨い"の一言に尽きる…。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「それでは、情報共有会議を始めます…」

狭苦しい会議室。リーヨウと霙は心配そうにしている。

「…ねぇ、ちゃんと寝れてる?」

「あんま働きすぎんなや。今日は寝とけ」


ルーは驚いたような顔をして、

「大丈夫…だよ。

 今日もこの通り元気だし」

辛そうに精一杯笑顔を作って見せた。

「…私、もう話すね。

アディルは昨晩、ずっと吐き気と戦ってた。多分一睡もできてないんじゃないかな」

「……っ!」

真剣な面立ちで苣が告げる。


「ッ!重症っつーか、早く解決した方がいいっつーか…」

「ボクなんでもっと早く気づけなかったの…!」

更に不安そうな顔になる二人に、青ざめながらもルーは答える。

「う、うん………大丈夫じゃ…ないかも…」

そしてルーは、ゆっくり口を開いた。


「俺…俺っ、自分が恐い……!」


「一人で居ると、生前のことを思い出して…

目の前の奴に、『同じ目に遭わせても許されるんじゃないか』とか考えて。

でも俺、みんなと一緒に居れば大丈夫だから…そう、思ってたのに。」

ぎゅっと目をつむり、深く息をついたアディル。


「どうして、どうして俺、こんなことを平然と…っ!

げほ、げほげほっ」

「アディル!!」

苣は駆け寄り、背中をさすりながら

昨日話してくれた、路地裏での事を思い出した。


「…………あんな子供を、傷つけてしまって。

『富豪の子供で金稼ぎ』なんていう案まで、提案して。」


「一人の時の、非情な俺が恐いよ…」


顔を歪めるアディルの隣で、パンッと手を叩く音。



「よし!じゃあ、今日の議題は『ルーを救う作戦』!

私が仕切るからだよ、アディル。」

苣の切り替えに、アディルはまだ青い顔。

リーヨウと霙はすぐさま乗ってきてくれた。


「分かった。オレ副議長やる。」

霙が普段こういった活動に参加しなさすぎるがあまり、

「えーーーー⁉みぞれ、なんか悪いものでも食べた…?!」

イーユイに心配されてしまった。

「うるさいわ!いっつも心配されてんだから、

心配する側に回ってもいいだろ別に!」


「みんな…ごめ、ごめんね……ごめん…」

心配をかけて申し訳ない、という想いが過剰すぎて、謝り倒すルー。そこに、



「も~、っ」「…。」「。」


―――『心配』を『安心』にすり替えてしまう、最高の言葉が返ってきた。

「ルーを一人にしなけりゃいいんだろ?」

「ボクずっと付いてくから!シャワーにも付いてくから!」

「え。リーヨウたんとシャワー!!?いいなぁアディル…」

「おい議長…」


アディルはその光景を見て、

「もう大丈夫。

みんなに心配かけないよう耐えてたけど、精神的にはかなり限界だったよ。

さっきまで。」

そうして苣の方をちらりと見て、「おまえのおかげだよ」と言わんばかりの

"優しい"笑顔を浮かべるものだから、苣は少々気恥ずかしい思いをした。



こうして、この日の晩。

「えーこれより、『添い寝計画』実行の

準備を始めます。布団のご用意はよろしいでしょうか。」

「…オレは反対したからな」

「いーじゃん!リーヨウたんと添い寝♡」

「黙ってろ苣は!」


なんと、ルーの部屋に布団を持ち込んで、全員で寝る作戦にでたようだ。

「いいの?皆大丈夫?

俺のためだけに…」

「だーかーらー!ボクが提案したやつだからいいのー!」

リーヨウはどこか自慢げ。

こうしてこの部屋には、四つの布団が並んだのだ。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


すぅ………すぅ………

くーー…くーー…

身体を丸めて横向きに寝る霙と、大の字で涎を垂らしているリーヨウ。

そんなリーヨウに可愛い、と笑みを浮かべながら、

こそこそと何かを書く苣。日はとうに上っているが、カーテンは閉めている。


「…よし。これで完成」

丁度、アディルが目覚めたようだ。

「うーん………苣?」

「アディルおはよう。朝9時だよ。」

「…⁉こんな時間まで寝れるとは、添い寝効果おそるべし…」


「ふぇっ!!?もうボク達完全寝坊じゃん!」

「んあ…リーヨウうるせぇから起きちまった…」

おねむな団員たちをよそに、苣は大声を出す。


「これが『リヴェルダ潜入作戦』の全貌!」

ばーん!と大きな模造紙を掲げ、見せつける。


「いやリヴェルダって何」

「いつの間にそんなの作って…?」

「ふふ。リーヨウたん可愛い。

なんとね、私が昨日会った三人組は、リヴェルダ家と繋がってたの!」


リヴェルダ・国では名の知れた大商人一家。

どうやら、アディルが聞き出した情報を元に作戦を立てたみたい。

「は⁉そこの孫二人、家出してんの⁉」

「絶好のチャンスじゃん!」

「そう。私昨日こっそり調べたんだけど、家出した二人は別荘?

に住んでるらしくて。潜入するしかない!という訳。」


…楽しそうに悪事を進めるものだ。

いや、そうでもない奴も一人居たな。

「みんな…俺、どうすればいい?」


「アディル。無理してやらなくていい、これは私の提案だから」

苣はアディルの方を真っすぐ見て言った。

アディルもまた見つめ返し、


「っ大丈夫。俺、みんなでゲームできるくらいには、電気代を稼ぐよ」


と言った。

「…あはは!なにその宣言!ゲームってなに!」

「そこまで行くと最早もはや頼もしいんだよ。」

「ゲームか~、私やったことない」

アディルのそんな拍子抜けする覚悟を聞いて、作戦へ向かうことにした。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


夜中の別荘に、二つの影が近づく。

周りは木々に囲まれているし、入口は警備が硬いので、まさか侵入されるなどとは思わないだろうよ。

高い樹の枝から、四階の窓へわたる二人。


入ったとたん警戒を強めたが、部屋に居たのは眠る少年ひとりだけ。

「リーヨウ、そいつ縛れ」

「おっけー」

少年を前に小声で話す。


「ルド、もう寝たか…―――⁉

 侵入者っ!どこから入ってきた⁉」

部屋のドアから顔を見せたのは、ブロッサムという少年だ。


リヴェルダの者では無いのに、何故ここに住んでいる…?

ブロッサムのことはワタシも分からないが、

下の階の方から

「うわ―――!!」

「誰だーー!」

警備員らしき発言が聞こえた。


「アディルの方も始めたみたいだね!」

驚くブロッサムを背に、窓へ戻るリーヨウ。


「逃がさないぞっ」

桜の実を纏った武器を手に、攻撃してきたブロッサム。


「っ!」

霙はなんとか避け、リーヨウが

「みぞれに手は出させないよ!【火種ヒダネ】」

と庇う。

火をちらつかせると、後ろへ引いたブロッサム。

リーヨウは少年…ルドを引きずって、窓を開ける。


この状況でもぐっすり眠っているルドラッシュはなんと、

リヴェルタ家の息子だった。


「それじゃーさらば!」「!待っ…」

二人は、ルドラッシュごと窓から落ちた。


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「なんだ貴様⁉警備はどうし…えぇっ⁉」

「【石土セキド】」

屋敷の綺麗なカーペットが、土で汚れていく。


「ちょっとどういうことなのよ!

ここに何の用⁉」

突然の侵入に、慌てる少女ミルゼシア。


リヴェルタ家の娘であるミルゼシアは、屋敷を荒らされて

混乱している様子。

近くに居た使用人に行く手を阻まれつつ、ミルゼシアを追うアディル。

「はぁ、はぁ…頼んだ、【石土セキド】……」

息切れ。激しく血は巡り、アディルも石土セキドも疲弊している。


…色んな地をフラフラしている付喪神であっても、ここまで人間に酷使されると

疲れるのだろう。

神使いの荒い奴だ…おっと、そのアディルもとうとう足を止めた。

「ぜぇ……はぁ…、っ!!おぇ…」


そのまま倒れこむように、誰も居ない部屋へ。

「う…やっぱ一人になると苦しいなぁ……はは」

「アディル!こっち!」

独りかと思えば、窓から手を差し伸べられた。


「平気?まあ……そりゃきついよね」

「うん…大丈夫じゃない……かも。」

「休んでて。ほらこっち。倉庫見つけたから。」


屋敷にぴったり沿うように立っている小屋の中に入って休み、

少しは落ち着いてきたルー。

「この混乱に応じて、霙たちがうまくやってくれるといいね。」

苣は何やら手を動かしながら呟く。


「問題は脱走時だよ。ちゃんとかな…」

「まあ、失敗したら病院行き確定だけどね。はっははは」

そう言って笑うルーを見て、

「ちょっと楽になった?」

「うん。一人でいるときよりだいぶ。」

倉庫から丁度よさそうな厚布を見つけて、パンパンと埃を払う苣。



「よーし!とりあえずは完成!」

作ったものを外に出したそのとき…


「っ⁉何やってんのリーヨウ!

後先考えずに飛び降りんなや!!?」

「心配すんなって!しっかり拾ってくれるから!」

って!!遺骨の話じゃねぇ―――」


急ぎ苣が荷車を押し、霙たちの落ちる真下へセット。

ぼふっという音がして、


ルド含め三人は無事、毛布荷車へ着地。

「ね?ちゃんと拾ってもらえたでしょ?」

「拾うっつーか…どこから持ってきたこの荷車」

苣は後ろを指差す。

「そこの倉庫!ふふ、リーヨウたん褒めて?」

「あーえらい、えらいー」

「棒読み!!!でも可愛い!」


「おつかれさまーー!大丈夫だった?」

「うん、今寝てるけどゲットしたよ。」

リーヨウがお姫様抱っこで抱えているのはルドラッシュ。

「抱っこしてるリーヨウたんもかわいいっ…」

「よし、あとは脱走!」

荷車に苣とアディルも乗って、

「このサイズに五人…まぁボクは構わん!」「リーヨウたん寛大!」

荷車はなんと自動で、走り出す!


「え、これ何で動いてるの⁉」

ルーが尋ねると、

「私の【朽葉クチバ】。常に集中が必要だけど、

車輪に葉を絡ませて…回すっ!」


枯葉が舞い、車輪にもその勢いが伝わって進むのだ。

ワタシの表現じゃ想像できないって?…ごめん。



「うお。苣やるじゃん」「凄い!今夜一番活躍してるよ!」

「しゅ、集中が途切れるぅぅ」

血管に憑いた付喪神も、この使い方は不本意だろうな。


ひゅいん!

突然、走る荷車から何かが飛び出した!

よく見ると、濁った金髪をした幼女だ。屋敷の方へ走っていく。


「…やべぇ!そいつ屋敷に助け求めに行った!」「え⁉」

霙は言うが早いが、荷車からしゅっと飛び降りた。

ダッシュでその小さな幼女を追い抜いて捕まえる!なんという早業!


抵抗する幼女の腕を抑えつけ、遠ざかる荷車に向かって

「こいつどうする!暴れて仕方がねぇ!」



「待ってその子可愛い…リーヨウたんに負けないくらい可愛い」

「ビジュ良い子、うちの団に勧誘しよ!」

幼女に見とれる二人に対し、霙はキレる。


「たすけろや!!

 状況わかってんのか薄情者×2!!」

顔に💢マークを浮かべ、大声を上げた。

「霙、捕まって!」

差し伸べる手に向かって、霙は幼女を抱えても全力ダッシュ。


ギリギリ追いついてルーの腕に捕まる――


その身体は、弧を描くように振り上げられた。

「は?」

ガン!!荷台には乗り上げたものの背中を強打する霙。


「大丈夫そうでよかった!」

「~~~~……!」

涙目で背中をさする霙と、

リーヨウにめちゃくちゃ撫でられ、身動き取れない幼女。


「この子どうする?連れて帰って大丈夫そう?」

「こんなかわいい子は大歓迎だよ!」「リーヨウたんもかわいいっ♡」


          〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


ルドが目を覚ますと、どうやらそこは会議室の一室のようだった。

「ふぁ…おはよーございます」

呑気にも、ルドは挨拶する。

「よく言えたなこの状況で。」


リーヨウがスマホを手にこう言う。

「突然で悪いけど、親に電話してくれない?」



「やだ!!!」

ルドは三階まで届く大声で叫んだ。

「そ、そんなに嫌ぁ…?」

吃驚して、困ったように言うリーヨウ。


そのとき。

「早くやれ。ほら、電話するだけだよ。」

ズ…と、部屋の空気が重くなったかのような低い声。


それは紛れもなく、アディルのものだ。

三人がそれに驚く間もなく、

「おまえの今の立場わかるだろ。従っとけ。」

と続ける。脅しに一度ひとたび怯みつつも、

「…い、やだ!

親とはもう話したくない!」

と叫んだ。


「へー。こいつが人質に取られてることも知らずに。」「…っ!!!」

ルドが見たのは、霙の腕に捕らわれた、幼女・コルクの姿。


「やってみればいい。お前らなんてせいぜい――」

「…どうしてこう子供キッズって、聞き分け悪いし強がるんだろう」


ズドォン…!

石土セキド】を食らって、痛みを訴えるコルク。


"可愛い子供"が痛めつけられても、何とも思わないのかこの四人は。

ルドラッシュもワタシと同じことを思ったようで、


「…コルクに触んじゃねーよっ」

金貨の嵐が、ルドの周りに広がる!

その嵐はアディル目掛けて舞い、避けること叶わず直撃。


これにはワタシも驚いた。四人とは違うが、【非科学的な力】での攻撃だった。

ホワイトボードに叩きつけられたルーを見て、

「ルー!…分かった、こいつ解放するから。」

「ほんとお願い、許して…!」

争いを防ぐべく懇願する。


しかしそれもむなしく、

「なんで許されると思ってるの?

おれの大事な、だいじなだいじなコルクを泣かせておいて」

ルドの目は冷たく澄んでいて、金属のようだった。


「おれとコルクを攫った目的は?」

「身代金狙い。」

「はぁ…結局金ね」

「い、いやなんか、うちの事務所に

 金が必要らしくて…」

リーヨウの説明に、

「『らしくて』?

 …ここにいる以外にも黒幕がいるな…」

疑り深い目を向けるルドラッシュ。


「こ、この手紙!!私たち、プロジェクト・Lの

"革命"のために動いてる!」

すかさず苣が見せた手紙を見て、ルドの態度が変わる。


「……!!?ちょっとその話、詳しく聞かせて」

コルクと、回復したルーを入れた六人で臨時会議が始まった。



ルドラッシュは、———

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