汁なし!担々団体
@rita2299
1・出稼ぎ編
「きのこ?たけのこ?いいや『たきのこの山里』だ!」
狭苦しい会議室に、元気な声が響く。
その結論に、
「リーヨウたん可愛い!」「どうでもいいわ。」
髪の長い方は笑顔で答え、短い方は吐き捨てるように言った。
長い緑髪の奴は
冷たい口調の
「いやぁこの国のチョコ菓子ってぜんぶ美味しいけどね。ボクは戦争を収めたい、って思ったわけ。」
楽しそうに議論をしている少年は、リーヨウという。
民族衣装に、首には勾玉だ。
「んなことより、今月の電気代どうにかしろや。」
「今考えてるでしょー!」
霙とリーヨウの会話に続いて、
「はいはい。話がまとまらないから進行役を決めよう?
大丈夫、俺が仮に議長やるから!」
そう名乗り出たのは、茶髪に赤い目のアディル。
「じゃあ書記を務めます、苣でーす。」
「よし、情報収集はこのボク、リーヨウ!」
「了解。霙は?」
「は~…やる気失せるわ。勝手にやってろ」
組んだ足を机に乗せて、つまらなさそうに返す霙。
「頼むよみぞれ~ボクが居るんだし。ね!」
リーヨウは後ろから霙に乗っかった。
「お前に頼まれても変わんねーよ!つーかさ、具体的に何を決めんのこの会議。」
「割と的確なツッコミ入れてくるね霙」
霙の発言に、苣は苦笑。
「議題というと…我々は金が欲しい!!!」「生活費カツカツだからな。」
四人はこの事務所に住んでおり、なけなしの給料で生きているのだ。
そのための金稼ぎを、今計画している。
「もしかして、PCでずっと調べてたのこれ?」
「そう!担々団体としての初依頼!」
こんっ、とマーカーでホワイトボードを叩くアディル。
三人はそちらを向いた。
「今、コレクター界隈では"花人"の宿る花びらが流行ってます。
なのでそれを摘んできて、高値で売ろうかと!」
アディルは胸を張って宣言した。
「花人は大変珍しいと言われていて、一千万も出して買おうとしてる人も。」
「いっせんまん…!それでえーと…これ何て読むの?」
「文字読めないリーヨウたん可愛い!」「これはね"ヤサシ
「ふーん。じゃあヤサシ草はどこにあんの。」
「俺…は、知らないかな…」
「ついでに調べとけ!ったくルーは…」
ルーとは、アディルの愛称らしい。
「私、本で読んだことあるよ。ヤサシ草の群生地は――楽園のはなばたけ。」
「!楽園…」「苣ナイス!じゃ、早速向かおう!」
担々団体、始動!
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「…はあ、はあ………っ」「あつ…てか息切れうるさい………っ」
とめどなく流れる汗。
熱気にやられ、息も絶え絶えな二人。
「大丈夫?また休憩しようか?」と心配そうなアディルに対し、
「へぇ~?みぞれってそんなカオもできるんだ?」
霙弄りが大好きな為、にやにやと笑うリーヨウ。
苣&霙と違い、二人はこの火山の暑さに強いようだ。
「そんなリーヨウたんも…っ可愛い……」
「切実にくたばれリーヨウ…」
「や~だね!珍しいカオ見れちゃったし♪」
乱れた呼吸と、火照って赤くなった霙の顔を指し、満足げに笑う。
「こんなとこに咲いてる?大丈夫?」
アディルの疑問に、
「楽園のはなばたけは、山を越えたとこの…盆地にあるから」
ジャージの袖で汗を拭き、くもった眼鏡を外しながら、苣が答える。
暑いなら脱げばいいのに…。
「…っ、オレらが暑いの、苦手なの知ってて、火山来たなら許さね…ぇ」
「大丈夫⁉」
アディルは足がもつれた霙に駆け寄って、
「…二人が倒れたりしたら大変だ、一旦帰ろう?」
「え~もったいない!ボクは平気だよ!」
「リーヨウ、たん、可愛い…」
その言葉を後に、苣もその場に倒れ込む。
結局その日は、仕切り直すことにした。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
翌日。鋭い氷がいくつもそびえたつ氷山に来た四人。
「なにこれ寒いいぃぃぃ⁉氷山ルートってこんな寒いの⁉
死んじゃう死んじゃう」
「リーヨウ、大丈夫?」
着込んできたアディルはこれだけ吹雪いていてもも平気そう。でも、この寒さはリーヨウには厳しい気候。
そんなリーヨウに、冷めた笑い声が届く。
「そんだけ喋れりゃ死なないよ笑」
「半泣きリーヨウたんかわいい♡」
「ただでさえ寒いのに冷た過ぎるよおぉぉ」
昨日の二人とは違う意味で、顔と指先を赤くするリーヨウ。
「ぐす…アディル、マフラー貸して…?」
「え、やだ。さむい…」
凍えながらマフラーを求めるリーヨウは「ううぅ…どうしてこんなことに……」
と弱々しく声をあげる。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
これは数日前の出来事。
火山を下山し、事務所でシャワーを浴びた霙。
「あ、
しかもそっちのが距離近いし。」
マップによると、はなばたけのある盆地は二つの山に囲まれている。
支給のスマホを片手に、タオルを首にかけ、
「なんで氷山ルートにしなかったの?」
振り返って冷えた視線を向けた。
「その…ボクには苦手分野といいますか」
「火山より氷山の方が雪崩とか、吹雪とか危ないかな…………って…」
返ってきたのは歯切れの悪い返事。
火山でかいた汗を流した二人は、揃って
「あっそ。わかったよ」
「なるほど、それで火山選んだのね」
などと納得したような口ぶり…と思いきや、
(ですってよぉ~~?霙さ~ん!!!)
(これは仕返しのチャンス!!!苣もいい性格してんな…w)
何とも悪い顔をして、目で会話している。そんな訳で、
四人は氷山も訪れることに。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「もうやだ…
聞いてないよこんなん…」
半泣きで手をすり合わせているリーヨウの後ろで、
(わああ半泣きのリーヨウたん可愛い‼)
と興奮してグットサインを送る苣。
「冷たいよ…アディル助けて…?」
「ほら、おいで。」
「今のカオ良いよ~!リーヨウたん可愛い!」
「へっ」
カメラを構える苣と、花で笑う霙。
リーヨウはそれに対して
「誰のせいだよぉ…!」
と弱々しく叫ぶ。でも霙からは、
「オレ達が暑がってんのを見て馬鹿にしてたせい。」
的確なコメントが返ってくるだけである。
「霙、結構根に持ってたんだね。
私はリーヨウたんなら馬鹿にされても良いけど~」
「お前のリーヨウ愛はどうでもいいっての。ま、流石に半袖はねーわ。はい」
そう言って、脱いだ羽織を手渡す霙。
「えっ……なにそれ急に優しいんだけど…霙イケメン⁉」
「…っ別に!」
「気遣い上手だね…でも大丈夫?寒くない?」
「いやオレはっ………」
「貸してくれてありがとう、みぞれ。」
「………………っ///」
一斉に好意を向けられ、吹雪だと言うのにみるみる霙の顔が火照る。
「いやぁみぞれって分かりやすい好意に弱いよね♪」
満足そうに羽織を着るリーヨウ。
「霙弄り大好きなリーヨウたんも可愛い!」
「頂上付近に温泉があるって話だったよ。」
ふいに、苣がそう切り出す。
「おんせん⁉」
リーヨウの目が輝いた。温まれると聞いて、足取りが軽くなる。
「温泉もいいけど、本来の目的忘れてな…い”っ⁉」
アディルの声が、突然濁った。
「【
マフラーを巻いた首に、ぞわっと冷たいものが滑り落ちたのだ。
「…楽園とか温泉とかどうでもいいけど、
まだルーの苦しむカオは見てないんでね……」
何やら氷のかけらが、霙によって放り込まれたみたい。
「あ…心配いらないよ…!今現在進行形…で苦しんでる……!」
青い顔で崩れ込むルーの背後から、ニヤリと笑みを浮かべる霙の姿が!
こんなんで、当初の目的なんて達成できるのやら…
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「ちしゃ、これ読んで。」「リーヨウたん可愛い…『この先長寿温泉』だって。」
「ってことは!ついたー!」
リーヨウは誰よりも先に歓声をあげた。
「やっとゆっくりあたたま……れる…」
しかしその勢いは、温泉を前にしてしぼんだ。
「いや風呂が野ざらしじゃないのー!!」
長寿温泉は、岩に囲まれた天然の源泉風呂だったようだ。
「これ、外気が寒すぎて湯冷めしちゃうね。」
「その前に雪に晒されてたらぬるくなるし!
でも大丈夫。見てて」
アディルは地面に手をかざし、
「頼むよ【
ズズズズズズズズ…頑丈そうな土柱ができていく。最後には屋根もついて、
「これで、雪が入らなくなったよ!」
そう言ったそばから、
ガラッ…という音がして、天井の土が崩れかける。
「【
その瞬間、霙が触れた土屋根が氷でコーティングされる。
…ちょっと、氷柱が尖っていて怖いけど。
「はぁ…気をつけろや。」
そう声をかけるや否や、
「二人共すご!それそんな使い方あったんだ!」
「アディルも霙もありがと。」
苣とリーヨウの素直な感心に、
「…どーいたしまして……っ」
そっぽを向いて、弱々しく返す霙。
「これなら大丈夫そうだね!」
ルーの言葉を合図に、三人は入浴準備を始めた。
「?苣、大丈夫?」
「おんせん、入らないのー?」
苣はただ黙って動かない。その様子にリーヨウはふざけて
「みーぐるみーはーいでけやー♪」
なんと『脱がせ師』の形相で襲い掛かってきた!
『脱がせ師』は、リーヨウがふざけた時のあだ名だ。
「ちょ、やめ、リーヨウたん可愛いっ!!
可愛いけどっ……!」
のっかってくる『脱がせ師』に、ジャージを無理矢理脱がされそうになったが――
「…っ【
苣、全力の抵抗!
しかし枯れ葉の嵐が過ぎ去ると、
「——目くらましは終わった?」
『脱がせ師』、恐るべし!
パサ…、着ていたジャージが落ちる。すると。
「…⁉」「ッ……」
苣の肌に、直接書かれている恨みの数々。
「…私の字だよ」
天を仰いで、諦めたように口を開く。
「必死になってた。あいつらの悪事を、絶対書き残して伝えてやろうって…。
結局その
三人は、苣の言葉を黙って聞いた。
「気が済まない。気が済まない。書きとめてやらないと気が済まない…!!!
だから刑の直前、自身の体に、血文字で刻んでやった…!!!」
恨みの言葉と抑えきれない感情を、苣は吐き出す。苦しそうに。
「な…何があったのかは知らないけどさ、だいじょ」
「私!!!なんでこんな死に方しなきゃいけなかったの!!?
こんなの口封じだよ、理不尽だよ、最悪だよ……」
心配するアディルを遮って、苣は叫んだ。
そこに、歩み寄る団員が。
「あーうるさいうるさい、腹立つから黙ってくんない?」
「ちょっ……霙!」
ルーはとげとげしい霙を止めようとした。
不愉快そうに睨んでくる霙に、苣は我に返る。
「一度死んだくらいで未練たらしいんだよ。
そういう話は
「———!」
その発言で、言葉を失う苣。
「ほら」「…?」
突然取り出したペンで付箋に書き、苣の腕に貼り付けた。
それは丁度、血文字を覆うように貼られたのだ。
「なに。不満かよ?
恨みなんて忘れちまうほど、付箋で上書きしてやってもいいけど?」
霙はニッと笑ってどや顔。苣は訳が分からない様子だったが、
付箋には『米派/パン派』と書かれている。
「…パンがいい」
そうボソッと、一言。
「ボクもちしゃのこともっと知りたいな!『たんじようび』…っと!」
「俺気になってたんだよねー『飲み物の好み』。」
ぺたり、ぺたり。次々と付箋が増えていく。
過去じゃなく今『知りたいこと』を、書き記していった。
「ふふっ…字、間違ってるリーヨウたん可愛い……私、烏龍茶が好き。
霙、リーヨウたん、アディル、…ありがと」
そう言って、ジャージを丁寧にたたんだのだった。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「あ~ったまる~~」「リーヨウたん可愛い~」
長寿温泉からの眺めは、氷、吹雪と非日常的だが、快適そうだ。
「………」
温まって、うとうとし始めた霙にルーは、
「霙ー寝たら溺れるよー。大丈夫?」
「…ん。寝てねぇ」
「ボク溺れてるとこもちょっと見たい」
「リーヨウうっさい!馬鹿にされんのは昨日で十分なんだよ!」
「あははははは」
「…そういや手紙の件、どうなのかな」
小さく苣が呟く手紙の件。
実は先日、『プロジェクト・L』という名義で手紙がきたのである。
「んな横暴な奴の言うこと、聞かなくたって…」
「逆らって痛い目みたの忘れたの?確かに横暴だけど」
そう。『プロジェクト・L』は、手紙であれこれ命令した人物。
しかし生活費を出し、事務所を手配してくれたのも彼。
「もしかしたら俺たち担々団体の、創設者なのかも」
四人はうーん…と頭を悩ませる。
「それより今はヤサシ草だよ!アディル、あとどのくらい?」
「頂の向こう側!」
「切り替え早えよ…」
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
一面の花。色鮮やかな景色が、そこにあった。
というか、盆地には花しかないのだ。
「う…わぁぁぁお……」
「これは絶景だね」
「———…」
「広!美!ボクちょっと寝転がりたい!」
その光景に、次々と感想が零れる。
はなばたけの真ん中に、特段大きな花弁も見える。
「さ、さっそく回収しよ!」
それぞれ花に手を伸ばした、そのとき。
ザアアァァァァァア…!!!
「⁉」
花が中心へ向けて枯れていく…!
「は、嘘だろ!?」「アディル、どうしよ!!?」
「——っ中心まで走って、あの花を摘む!!!」
焦った様子でルーは決断をする。
「かなり距離があんだろ。間に合うか…?」「分かんない…!」
「間に合う‼霙の足なら、間に合うから‼」
苣の大声に、三人は振り返る。
その言葉に、いち早く行動したのは霙。
「…分かったよ。だからちゃんと指示しろや、苣」「持ってって!はい!」
霙はスマホを受け取り、急な斜面を駆けていく。
「俺とリーヨウは何すればいい⁉」「この斜面じゃ段差が危ない!道を作って!」
「りょうかい!」
「頑張って【
その瞬間、走る霙の眼前に赤土のレールが現れた。
「この上走れってのか、苣!」「うん!」
スピードを落とすことなく霙はレールを踏みしめる。
緩やかな為、安定して走っている。ところが!
ガララ……
「っ!!!」
土の強度が追い付かず、崩れていくのだ…!
「みぞれ!」「大丈夫⁉【
「そのまま走って!」
スマホから、心強い苣の声が聞こえた。そして、
「【
――その枯葉に纏わりついて、土のレールができる。
葉が軸になって、土がぎゅっと固まった!
「霙!」「…分かってるっての」
速く、はやく、中心へ!冷たい風を切って、ぐんぐん前に進む。
「「「「まにあえッ!!!」
―――ひときわ大きな茎をつかみ取った。
「やっ…た……?」「間に合った…けど」
「…悪い。摘み取ったあとだが、色が消えた。」
「—―――うわ~~!悔しい!」「だめだったか!!霙は大丈夫?」「…お陰様で。」「あは~、私頑張ったけどな~」
全員、その場に倒れ込み、力を抜いた。スマホ越し、霙に掲げられた
「これは売れないかなぁ」
腕を組むアディル。
「う~ボクらあんなに苦労したのに!」
子供っぽく悔しがるリーヨウ。
「そんだけ走って息切れしてないんだ、霙」
苦笑する苣。
「ヤサシ草って、難易度は全然『易しそう』じゃないよな」
「あはは!確かに、さわったら枯れるって反則だよね」
「珍しいって言われる理由はそれかぁ」
結果は失敗。
まあ彼らには、摘み取った物が確かにあったみたいだが。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
下山している間に、少し辺りが暗くなってしまった。
「ボクが照らすよ!【
凍える夕方。行きとは逆に元気なリーヨウの声が。
「え!リーヨウ大丈夫⁉髪燃えてない⁉」
「へーき!ボク髪だけ耐熱性なの!」
…お団子ヘアに灯った、二つの火種。
そんな小さな小さな炎でも、十分明るくなる。
「ほんのり暖かい…はッ、さっきこれ使えば寒さがマシになった…⁉」
「へっ、今更だな」
「うわ~~盲点!」
「うっかリーヨウたん可愛い~」
「うっかリーヨウ!上手い事言うなぁ」
さて。そろそろ頃合いかな…
キミは気になるようだ。いい加減教えて欲しいと。
コイツらの【力】。それは別に四人が選ばれた奴らという事ではない。
コイツらには、付喪神に憑かれた血管が流れている、
というだけだ。
「"だけ"で片付く話じゃない!一話に色々詰め込みすぎ!」
キミは置いてきぼりな気持ちで、そう思った。
この話の語り手はワタシさ。
どれもこれも、ワタシの思い通り。
―――カミサマであるワタシの、ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます