眠れない夜に、わたし

ラムネ

眠れない夜に、わたし

 気分が変になっているのか、それとも眠れない間の暇つぶしなのか。自分でもよく分からないけど、今の感情を、いつでも思い出せるように、メモしておく。

 私は子供の頃から、夏は母方の祖父母の家に集まっていた。祖父母の家は、新潟にあり、花火大会で有名な場所だ。8月の初旬に2日間に渡って開催される大会になっている。この花火大会が終わると、大抵の場合、数日後に実家に帰ることになる。従兄妹も同じ時期に祖父母の家に来て、仲良くなれるのに、すぐに別れることになってしまう。この事実が、花火の儚さに拍車をかけた。だから、花火が嫌い。見ていると、苦しくなってしまう。今思い出したけど、中学生のときに、私が少し気になっていた男の子が花火に連れて行ってくれたのに、東京の花火は新潟のに比べるとミニチュアサイズで、気分が落ち込んでしまった。そのせいで、会話が上手くできず、結局疎遠になってしまった。やっぱり、花火は嫌い。

 書き残したい本題とは、別のことを書いてしまった。この調子だと、次に自分で読み返すと、自分に対してイライラしてしまう。仕切り直そう。

 私は大学も卒業し大人になり、仕事は休みで、今年も新潟に来た。花火大会は3時間前に終了した。もうすでに、家の中は真っ暗。私、眠れず。花火大会の後は、眠れない体質なのだ。昔から妙に、感傷的になってしまうらしい。昔は祖母に泣きついて、自分が寝るまで無理やり起きていてもらったこともあったが、そういう年齢でも無くなってしまった。でも、まあ、結局は祖母が先に寝てしまい、私は孤独だった。

 ふと、ベランダに出るためのガラス戸が開いていることが気になった。私が寝ている部屋のエアコンは故障している。エアコンのない8月初旬の夏は、布団がいらない程度には暑い。だから、少しでも涼しくするためにガラス戸が開いているのだ。小さいときは、エアコンが付いていたから、ガラス戸は閉まっていた。だからなのか、私はベランダに出てみたくなった。子供の私には無かった選択肢に少しワクワクした。ボロボロのスリッパを履き、ベランダからの景色を眺める。大きな花火大会がある地区とはいえ、普段は田舎だから、人っ子一人いない。街灯も少なく、街全体もこの家と同じで真っ暗。ややメルヘンな言い方をするならば、この街で目を覚ましているのは私だけという感覚になる。唯一動いているのは、ポツンと置かれている信号機だけ。真っ暗な街で、人も車もないのに、赤、青、赤、青……とたった1人動いている。かわいそうで、ほっとけなくて、つい、しばらく眺めてしまった。部屋に戻る前に、何気なく空を見た。田舎は光が少ないから東京よりも夜空が美しく見えるって聞いてことがあるけど、本当だった。山にいるわけでもないのに、細かい星を肉眼で目視できる。綺麗な風景を記録に残したくて、スマホで写真を撮っても、写真には全然写らず。もったいなくて、首が少し痛くなるほど、空を見上げた。夏の大三角を見つけようとしても、どの星も何となく三角形の並びに見えるから、発見できず。星座のお勉強はサボったのを後悔した。大人になったことで、子供では見えないモノが見られた。

 部屋に戻り、座布団に横になる。ベランダに出た足搔きに効果は無かったようで、結局眠れない。深夜の布団に入っているのに眠れない不毛な時間に、深めのため息が漏れる。

「お姉も眠れない?」

 隣で布団を頭までかけていた妹が声をかけてきた。

「あたしは夏休みで、すっかり昼夜逆転。おじいちゃんたち、寝るの早すぎだってば。まだ1時じゃん」とスマホで時間を確認する妹。

「なんかね、私、花火大会があると眠れない体質らしいなのよね」

「変なの~」と言いながら、妹は自分のカバンからゲーム機を取り出した。ドキッとした。後ろから、

「コラ! 早く寝なさい!」

 と祖母が叱ってくる気がした、もう私は大人なのに。ゲーム機の光で照らされている妹の顔を見る。罪悪感はないようだ。やはり、私より不良の才能がある。私に反抗期はなかったが、彼女にはあった。

 私の視線を感じたようで、

「何? あ、お姉もやる?」

 ゲーム機本体にくっついているコントローラーを私に差し出した。私は黙って受け取った。

「せっかくお姉とやるなら、古いゲームやろうかな。じゃないと、わからないでしょ?」

 彼女は、素早い操作で、昔のゲーム機の絵が映っているアプリケーションを選択した。しばらくすると、私たちが小さいころに発売していたゲームソフトがズラッと画面に並んだ。

「お金払うとね、あたし達が子供の時に遊んでいた懐かしいゲームが遊べるんだよ~」

 と言いながら、またサクサクと操作を行い、私たち姉妹がずっと遊んでいたゲームソフトを選択した。妹がイヤホンの片方を私の耳に入れてくれた。1000回以上聞いたBGMが脳内に流れる。選択したゲームは、いわゆる「落ちものパズル」の類いで、平たく言えばテトリスみたいなものである。対戦が始まると、しばらくゲームを遊んでいなかった私だが、夢中で遊んだ。負けると舌打ちをしてしまうほどに熱中してしまった。そんな私の様を見て、妹はニヤニヤしていた。何度やっても私は、彼女に勝てなくて、何度も再戦を挑んだ。この瞬間だけ、私たち二人は、お母さんのご飯の支度が終わるまでの間、キッチンの隣の部屋のリビングでテレビゲームを遊んでいた少女だった。

 そんな魔法の時間は、突然終了してしまった。ドアが開いた音がした。それもかなり大きい。怒られると思った。私も妹も、音の出どころを振り向いた。そこには、祖父がいた。でも、私たちを叱るのではなく、単にトイレに向かっただけだった。そういえば、最近は頻尿気味で、夜中に何度も起きるって言っていた。そもそも冷静になれば、いい年をした私たちがゲームをしていたって、祖父が咎めてくるはずもない。それなのに、冷や汗かきながら慌てて、バカみたい。妹と顔を見合わせて、吹き出してしまった。携帯で時間を確認すると2時半になっていた。

 今夜の出来事は、妙にくすぐったい。くずぐったくて、ニヤニヤしてしまう。この新潟の家には、あの頃の“わたし”が存在しているようだ。

 わたしは、やっぱりねむれないようで、いまの私にじゃれあってくる。さみしがりやのわたしのために、おもいでをメモしておく。いつでもあえるように。




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あとがき

私は週に1回はジュースやお菓子だけをたんまり買い込む日があります。徒歩でスーパーに行っていき、買った品を自分のリュックと持参のビニール袋に詰めて帰ります。この持参のビニール袋は、何の変哲もないビニール袋なので、時々忘れてしまう日もあるんですよ。そのような場合は、会計で「ビニール袋ください」って言う必要があるのですが、ビニール袋を忘れているかどうかに気付くのは、既に会計が終わって品をリュックに詰めている時なんですよ。こうなると、レジに戻って強引にビニール袋を買いに行くか、あるいはリュックから溢れた品を抱えて帰るしかないんですよね。だから、まあ、何が言いたいかというと、ビニール袋は複数持っておくと便利ですね。この文章を読んで、なんてつまらない文章なんだって思った、そこのあなた。あなたも小説を書いてみませんか? 書いたら教えてください。喜んで読みます。

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眠れない夜に、わたし ラムネ @otamesi4869

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