第3話 エルタールの落とし胤
「この男は……なんだと?」
罪状を読み上げていた側近の女の声に、私は逃避させていた思考を現実へと引き戻した。
「なんだ、申してみよ」
冷徹美女が小首を傾げて腕を組むと、巨乳が腕に「どたぷん……」と、のしかかるように見えた。
「この男は三ヶ月前、キュレスタ平原の戦いにてリトゥイネ第一王女を討ち取ったエルタール王国の男騎士だそうです」
「ほう?」
美女が片眉を跳ね上げた。
「第一王女を討ち取ったか。第二王女の首は私が刎ねてやったが」
美女が薄い唇に妖艶な三日月の弧を描かせる。
「あの第二王女は王城で小便を漏らしながら私に命乞いしていたな。あまりに醜悪だったのでつい顔面を蹴り砕いてから殺した」
私も嬲り殺しにされるのか。まあ、最期にとても良いおっぱいを見せてもらったのだ。安心してあの世に逝ける。
「どうやって第一王女を殺した?」
突然、美女からの質問が降りかかってきて虚をつかれた。
「……一騎討ちで」
喉から声を絞り出すようにして答える。渇き切った喉からは、掠れ声しか出なかった。
「ふむ、随分と骨があるな。その決して折れぬ強靭な精神、肉体、逞しさ……ふふっ、気に入った。よし、おまえ。このクラリスティーネ・ウォルクネアの部下となれ」
クラリスティーネと名乗った美女が手袋を外し、白皙の手をこちらに差し出した。ようやく彼女の正体を理解する。両国のさらに南に位置する魔導帝国ウォルクネアの「冷血女帝」クラリスティーネ。つまり、リトゥイネ王国は私が地獄にいた三ヶ月の間でウォルクネア帝国に滅ぼされたと。
「断る……と言ったら?」
「首のない胴体が一つ増える……と言いたいところだが、おまえは男だ。殺すのには惜しい。せいぜい我が帝国の人口を増やすのに貢献してもらおうか」
断れば、種馬か。なぜ、わざわざ私を部下にしたがる? エルタール王国先王の隠し子である私を利用したいのだろうか。
だがまあ……こんなもの、抗えない。抗えられるわけもなかったのだ。
「分かった、私は貴女の部下となろう」
あくまで即答しないように、考えるふりをしたまでだ。
「おまえは物分かりがいいらしいな」
差し出された手に私が手を伸ばすと、泥で汚れた私の手を、彼女は一切の
つまりだ。おっぱいの誘惑には、勝てなかったよ。
本当はえっちしたい。できることなら、この巨乳女帝としこたまえっちしたいよ。童貞だもの。
まるで私は蜘蛛のようだ。交尾の際に
私の股間が、そう告げていたのだ。
******
ただちにデュシャという男騎士を湯浴みさせてやった。髭を剃ると、なかなかの面構えをしている。
聞けば、死刑囚鉱山送りになる前に戦いで負った重傷を抱えており、特に背中の深い傷は致命的だったそうだ。治療なしでは回復が見込めず、日常生活すら困難であったろうに。
それにもかかわらず、デュシャは苛酷な労働環境に送られてしまった。地上と地下を往復しながら鉱石を運ぶ重労働は、身体への負担が極めて大きいはず。怪我を負った状態で働き続けるのは、痛みで魂をすり減らすに等しい。
重傷を抱えていながらも、鉱山での生活では適切な治療が施されることは期待できない。医療や回復の機会がなく、放置されることで傷口も悪化するだろう。感染症や体力の消耗も伴うだろうから、時間が経つほど生存は難しくなる。
生存を意図的に脅かす非人道的な仕打ちであり、文字通り「死ぬまで苦しみを味わわせる」ことが目的であるとうかがえた。
ひとかどの戦士である彼にとって、「戦って死ぬ」ことが騎士としての最期の望みであったかもしれぬ。しかし、デュシャはその望みを奪われ、怪我をしたまま無力な囚人として送り込まれた。死ぬことすら許されない苛酷な運命に囚われ、戦士としての誇りを砕かれる。
単に捕虜として処刑するのではなく、死刑囚鉱山という生きながら地獄を味わわせる場所に送ったのは、リトゥイネの分かりやすい復讐であり、デュシャにとっての終わらない拷問。死を選ぶことさえ許さず、苦しみ続けさせることで王女を討った罪を
その地獄の中で彼は生き残った。
私の──クラリスティーネの、夫にふさわしい。その崇高なる魂の在り方に尊敬の念すら抱いてしまう。
デュシャの子を孕めば、私はエルタール王国とも繋がりを持つことができる。
──エルタール先王の落とし
男騎士などという血生臭い生き方をしなくても、王子であれば子を成すことだけに専念していればよかろうに。男で王族であるというだけで、一体何人の女を
きっと、エルタール女王は彼の存在が邪魔なのだろう。殺したいのだろう。だからデュシャは地獄に堕とされようとも救いの手が差し伸べられなかったのだ。
私が守る。あやつは私の庇護下にいればよい。
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