episode 7-3 藤也の演説
「ふうん、なかなかいい度胸じゃねえか」
藤也が鼻で笑いかけたとき、今度は直幸の細い腕が僕たちの間に入ってきた。
「異世界に行くのは能力じゃなくてパーぷルっていうか運が決めることなんだし、対決なんかなしにしてみんな好きにすればいいじゃん。こんな対決はおかしいよ、最初から思ってたんだ」
「しつこい奴だなあ、今日はスカートやめて強がりやがってよ。これは俺と修輔の話なんだ。約束したよな、修輔。おまえがこの『最後までパーぷルに会わないのは誰か対決』をまっとうしないなら俺はばらす」
「藤也……」
直幸を固まらせる藤也の発言。僕は彼と約束したつもりはないけれど、おどされたのは間違いない。彼は横暴でもすじが通らなかろうと僕を止めたい一心、説得は不可能なのだ。
僕は怒り顔に向かって仁王立ち――、
「藤也、もう一回言うからね。かわいい子みんな集めて暴露しなよ。僕はあっち行くから」
二度目だというのに、相手の顔の引きつりが増していく。
僕は口を結んで目を
「よ……よし、だったら今すぐばらさせてもらうからな」
はは、今すぐか。それでもやけに弱々しい藤也の声に
「大丈夫大丈夫、たいしたことない」
僕がそう答えると、ドアを乱暴に開けて藤也と、追いかける虎太が僕の部屋をあとにした。そこから五分、藤也の集合の声が廊下に響いて何この超人気者感、ぞろぞろわいわい仲間たちが出てくるではないか。
僕の緊張は高まり、先頭の彼はやたら深刻そうな顔で部屋の前まで戻ってきた。見たところ虎太の姿はなく、秘密を暴露される現場にいたくない僕も直幸と二人逃げ出しかけて、
演説が始まった。
「いいか、実は修輔の奴、女に興奮したら目の虹彩っていう部分が金色に光るんだ。虹彩の色でえっちなこと考えてるってばれるから男女交際できないんだぜ。金色、男だけに金! 股間まで金色なんじゃねえの?」
ひどい。ひどい言われよう、もちろん死ぬほど恥ずかしいああ好奇の目にさらされる。いつも〝見られる側〟に回る女の子の憂鬱がわかった気がする。藤也の顔色はすっかり戻っており、僕は「虹彩」と「交際」はかけてあるんだよねと疲れきった頭と心が脱線して思った。
しかし内容は下品でも話し手が美男子だからか、蒼ざめるより笑う人が多い。何よりこんなふざけた話し方で本気にする女の子の存在、今の僕の虹彩は褐色のはずなのに。
そのとき、僕は部屋の正面、反対の壁際に立つ女の子と目が合った。口の形で「大丈夫?」と訊いてくれたのは一足先に秘密を知った弘美で、うなずきを返そうとした僕は人込みに押しやられ、今度は声を聞いた。
「――えに、なじ少女だ……とみた」
少女? 騒々しい廊下のどこかから途切れ途切れの女の声が聞こえてきたのだ。額の汗を腕でぬぐった僕は、たった今の声から必死に文を再構成していく。
――前に、同じ少女だ……、
違う。
――前に、同じ症状だった人見た。
「そ、そうか。症状か」
思わず口をついて出た、誰か女の子が僕と同じ瞳を持つ人を見たというのか。それを症状扱いされると不安になるものの、他にも同じ「
直幸が申し訳なさそうに「ごめんね、こんなことになっちゃって」とこの場を去り、藤也による集団も微妙な空気だけ残して当人ごと散っていく。残された僕は皆の背中にため息を流して重いドアを閉めた。
それにしても、僕と同じ「病気」を持つのは何者だろうか。そういう人物についてこの瞳を知る男たちが今まで誰も言い出さなかったことから、おそらくずいぶん前に異世界に消えた奴ではないかと思う。
では今の台詞をしゃべった――実際に金色の瞳を見た声の主は誰か。廊下が騒々しくて声質まではわからず的を絞れないし、なぜだかあの発言のことはあまり口にしてはいけない気がして女の子たちに訊くのは怖かった。
「弘美には、目のことも自分で話したけど……」
僕がそうつぶやいて決められずにいると、背を向けた窓でイエル鳥のきええうえぇんが響く。
その夜、箱庭に再び佳月が現れて対決の混乱は元に戻った。
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