episode 4-2 僕を不安にさせる

 あのときふれた冷たい指を、僕は身長だけ追い越した十五歳の今でも覚えている。そして本当はみんなのぶんだったのに、花に塗り薬用の葉も含めつんだ薬草を二人で全部食べてしまった。その効果がどうだったかはともかく、佳月を率先していじっていた女の子たちはもういない。

「ああだめ、私は修輔をふった悪い女なのに、それを大切な思い出に押しつけて薬草のせいにするなんて、最悪だよね」

 一瞬、風が止まった。教育棟のベランダで瞳を震わせる十五歳になった佳月、塀から身体を起こしたときにこちらを見てくれると思ったら逆に背を向けられてしまう。ほら、期待した僕がばかなんだ――、

「修輔、ごめんなさい……」

 え? 彼女が僕を見もせずに言葉だけで謝ってくる。その気持ちがわからない僕は、ふった男と話したくないから謝ってるんだと乱暴に考えたらうそみたいに肩が軽くなった。

 だから僕は佳月をあきらめるべきなんだ、どこかためらう様子をうかがわせつつも先に教室に帰る彼女のうなじを見つめながら思った。藤也が虹彩変化を暴露したがってるからやめるのは難しいけど、僕はこの対決に勝っても告白はしない。

 その決意を固めようとする僕は、彼女が薬草をつみにいった記憶を「大切な思い出」と言ってくれたことに気がついた。

 少し、迷う――でもそんな言葉くらいで期待するなんて、

「だから無理だよ絶対!」

 曇り始めた空に吐き捨てた瞬間、新たな足音にどきり顔を上げる。教室から出てきたのは女の子でも直幸でもなく、藤也だった。

「おう修輔、今佳月に告白してないよな」

「はあ……、してないって」

 彼はにやにや笑って訊ね、本当はとっくにすませた僕のため息に動じず笑顔のまま帰っていく。まったく調子のいい奴。こんな男に佳月は渡したくなかったが、自分がだめだからってすぐ彼になりはしない。他の仲間たちのがんばりに期待したかった。とはいえとにかくあの佳月である、やはり僕以外の人は僕以上に悩まされそうな気がする。むだなうぬぼれだろうか。

 僕は毎日の鐘の音で自分もにぎやかな教室に戻った。

 今日に限らず、佳月は僕をふったときの態度だけでなく最近の不可思議な様子、明らかにおかしくなっている。ほら、もはや教室にいても僕を不安にさせる彼女、絶対何か問題を抱えていて僕をふったことにつながってる、しかも薬草が効かなかったと薬草のせい――その〝何か〟っていったい何なんだよ!

 実際彼女に訊いたことはないのだけど、いないときの行き先、居場所すら僕は知らない。他の人は質問するものの、彼女はいつもクールにかわしている。あきらめるべき人間の僕はもう秘密に迫ってはいけない? 逆に嫌われていいからしつこく問う?

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