4 おもいで
episode 4-1 普通の女の子
佳月が突然口にした「薬草」という言葉に胸がちくり痛んだ。それは以前僕とよく行った丘に咲く赤い花、彼女はみんなのためにその薬草をつむときだけ僕に秘密を語ってくれた。だから僕の中で薬草と彼女の秘密は一つに重なるのだけど、彼女はきっとあの場でしか本音を吐き出せなかったのだろう。
――
小刻みに震える佳月の声がよみがえる。僕を「修くん」と呼んでまだ髪が長かった彼女は、背ばかり伸びてなかなか「大人」への第一歩を記さず、早熟な子たちからよくいじられていた。ああ、振り返れば当時の僕は幼くて瞳の金色も経験する前、女の子の身体の話に照れることもなかった。
僕はふと思う、今の彼女が過去の話を始めたのはあの丘のように風が強く吹いているからだろうか。あちらでは僕が作った小さな
――私、どうしたら普通の子になれるの?
普通の女の子になる必要なんてあのときの佳月にもなかったし今もないのだが、その見た目、態度、頭の良さが内面ではみにくさばかりが大人びた女の子たちの反感を買っており、いくら〝私ならこれくらいできて当たり前でしょという主張〟が彼女にふさわしくとも、あのころの箱庭ではいじめに発展する気配すらあって悩んでいたのは事実だ。
すでに佳月を好きになっていた僕はどうにか彼女を救いたい、せめてその気持ちだけでも楽にしてあげたかった。目に入った両手の赤い花、緑の葉を突き出して彼女に言う。
「これ、この薬草、
先に僕の右手と次に左手を見た彼女は、いつの間にか両目に涙をためてそっと首を横に振った。否定された僕は恐る恐る「健先生も、哀しみがなくなるって言ってたけど……」と意見を追加する。
佳月は長い
「ううん違うの、修くんの優しさも薬草の効果もわかってる。うれしい。だけど、それで普通の子になれるわけじゃないから」
「それは……」
僕が言葉を失っていると、彼女は風の中でうなだれたまま話を続ける。
「あとね、どうしたら普通の子になれるのって言ったけど、本当はなりたくなんかないの」
「え? 何で?」
僕は子供の男だからか、言われたことがわからなかった。
「だって、例えばテストで五十点になっても、結局ばかにされて悪く言われる。あの子たちは私か、誰かを攻撃したいんだもん」
しかしそう言ってすぐに佳月ははっとし、その細い腕を素早く伸ばして僕の薬草を奪い取った。
――ごめん、修くんは私の心を助けようとしてくれてるのに、わがままひどいよね。
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