3 たいけつ

episode 3-1 対決勃発

「よおし修輔、おまえも対決に参加しろよ?」

「対決? 何も聞いてないけど」

 藤也がやたらと勝手な〝勝負〟に僕を巻き込んだのは、昼ご飯を食べた流れで虎太とらたが想いをひっそり語ったあとのこと。彼の想いはもちろん僕や弘美と同じく恋であり、相手はまたも最強美少女佳月、いいかげんにしてくれ。

「だから、おまえも佳月が本命だろ? この対決で佳月に告白する権利を争うんだよ。本音ではそれほどでもない奴もいるだろうけどな、昨日の会議でグループのみんなが佳月狙いだと発覚したんだ」

「…………」

 藤也に肩をたたかれ絶句、みんなが佳月狙い? 昨日やった会議なんか知らない。まったく、僕を含むグループ全員で大切な佳月を争って対決しようというのか。自分と藤也、直幸そして実は僕だけが今知らされたらしい虎太、まだまだ続く皆が同じ人を好きだなんて笑えない。

「修輔くんいい? 名づけて『最後までパーぷルに会わないのは誰か対決』だよ」

 十六歳と年長で「虎」のくせにひょろっとした体格、赤くなったままの虎太が僕と藤也の間に割り込んできた。何だよその対決、最後までパーぷルに会わないということは唯一の「生き残り」、隠れて狙ってる奴がいない限り告白に邪魔は入らないのか。僕の場合は〝リベンジ〟ってことになるけど、受ける側の気持ちは無視? だいたい佳月がそこにいるか考えてないじゃないか。

「――やらない、と言ったら?」

 僕は少し考えて抵抗を選ぶ。すると、顔を近づけた藤也の瞳が金色に光る――わけはなく、実際は目つきが鋭くなって「ふうん。じゃおまえの目、虹彩だっけ、金色になることを女の子にばらそうかなあ」と他の人に聞こえない声で返された。

「う……」

 まったくもう、これではおどしである。

 でも待てよ、

「あのさあ、藤也はパーぷルに会って大人の世界に行きたいんじゃなかったっけ。それなのにこの対決やるの?」

 僕は思い出したことをぶつけてやった。

「それは……あれだ、佳月への愛が大人の世界への夢を上回ったんだよ。ほら、おまえも同じだろ」

「えっ、違うよ。僕は最初から行きたくなかった」

 うわあ藤也め、主義を変えたのか。しかも言い訳に僕まで引き合いに出して間違える始末。そして虎太が身をかがめ、まあまあまあと僕たちをなだめてくる。

「『最後までパーぷルに会わないのは誰か対決』で勝った人は絶対告白しなきゃいけないからね。パーぷルに会って異世界に行った人も、これであきらめられる」

 告白に失敗したばかりの僕は、この話を聞いて同じことが起きたらどうすると真っ先に考えた。あの佳月のことだからかなりの確率でふられる。だいたい彼女も勝者もいずれこの世界を去ってしまうのに、それだけ毎日が憂鬱で退屈だということだろうか。

 かといって、僕も虹彩変化暴露のおどしに屈してグループ内のやっかいな対決に引っ張り込まれるしかなかった。いや、僕もどうやら憂鬱で退屈らしく、また佳月に一度負けているからどうにでもなれ精神、リベンジできるならやってやろうという気持ちにもなった。

「明るい未来のためにがんばるんだぞ、おー……」

 藤也に無理じいさせられた直幸のかけ声、彼は泣く泣く自分と同じ十五歳の佳月を受け入れるらしい。それにしても、女も男とほぼ同数この箱庭に残ってるってみんな忘れてない?

 彼女にこだわる僕も他の奴をとやかく言えないね。

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