第8話 いいことがあれば悪いこともある。

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 ――えー、ラジオネーム「マーガレット」。公開収録の当選メール、届きました! 当日はお二人に会えるのを楽しみにしています! だって。


 ――他にもたくさん、当選したよっていうメールが届いています。当選したみんなに会えるのを楽しみにしています。そして残念ながら当選しなかったリスナーのみんな……ごめんね。またいつか公開収録をするから、そのときまた応募してください!


 ――ちゃんと厳正なる抽選をしたから、文句や苦情は受け付けません!(笑) 文句があるなら、その分ネタを考えて投稿してください! 「当選しなかったから読んでくれ」って書いてくれたら、採用率が上がるかも。


 ――でね、公開収録の内容なんだけど……

 ***** *****



(なんで最近マーガレットのハガキばかり採用されるんだよ! ストロベリーも読んでくれよ!)


 先週の放送でハガキが読まれ、ハイド&シークの二人に「センスがある」とまで褒められ、さらにはステッカーまでもらったことは棚に上げて、一ノ瀬優吾は不機嫌だった。


 それもそのはず。

「学校さぁ行こう!」の公開収録の抽選に漏れたのだ。


 待てど暮らせど当選のメールは届かなかった。

 迷惑メール扱いされているんじゃないか、とそのフォルダも覗いたがメールが届いていることはなかった。

 応募した際に自分のメールアドレスを間違って入力したのかもしれないと、応募時に自動返信されてきた受付メールを確認したが、自分が入力したメールアドレスは間違っていなかった。


 つまり、純粋に落選したというわけだ。


 必ず当選するものだと思い込んでいただけに、優吾のショックは計り知れなかった。


(僕はこんなに毎週、番組を聞いているのに……ハガキも出しているのにどうして!)


(しかもマーガレットは当選だと……! ちくしょう、誰なんだよマーガレットって!)


 最近の優吾はラジオネーム「マーガレット」に対して、勝手に敵対心を抱いていた。自分と似たようなネタを投稿し、採用率も自分より高い。そして同じ市に住んでいて、おそらく同世代。


 先週ハガキを読まれステッカーをもらった時点で、正直自分の方がマーガレットよりも上の立場になったと思っていたのだが……わずか1週でそれがひっくり返された。


 イヤホンをつけて聴いてはいるが、ラジオの内容はほとんど頭に入ってこなかった。もう優吾の頭の中はどうして当選しなかったんだという怒りと悔しさと、そしてマーガレットに対する嫉妬でいっぱいだった。



 翌日。

 夢見丘ゆめみがおか高等学校二年六組の教室は、学期末が近いということもあって朝から賑やかだった。優吾が教室に入り席に着くと、いつものように友人の真壁玲人が近づいてきた。


「よお、おはよう優吾。元気ねぇなぁ。どうした?」


「なあ真壁……お前、昨日ラジオとか聞いた?」

 カバンに入った教科書などを引き出しにしまいながら、優吾が真壁に尋ねる。


「ラジオ? いや……昨日はずっと動画見てた。ラジオがどうかしたか?」


「俺はマーガレットという人物を探しているんだ」


「マーガレット? 誰それ、外国人?」


「いや、恐らく日本人だ。夢見丘市に住んでいる中高生の女子じゃないかとふんでいる」

 優吾は探偵が推理するときによくするポーズ――人差し指を眉間に当てて考える仕草をしながら話し続ける。


「まさか……お前がマーガレット?」


「は?」

 何言ってんの? という顔をしている真壁に対して、優吾は睨み付けるように彼を見ながら続けた。


「まかべれいと……マーガレット……なんとなく言葉が似ている。いいよなぁ、お前は当選したもんな!」


「当選? いきなり何の話だよ!」


「隠さなくても僕にはわかっているんだ。白状したまえ、マーガレットだと!」

 優吾が突然興奮して椅子から立ち上がる。


 ガタッと大きな音がして、教室にいたクラスメイトが静まりかえり、こちらに注目する。近くの席にいた生徒たちは若干引きながら、二人から距離を取った。その様子を見て、真壁が焦る。


「だ、大丈夫! 何でもないから、心配しないで!」


 教室全体に聞こえるようにそう言うと、真壁は優吾を強引に座らせた。そして、両手で彼の肩を押さえながら言った。


「どうしたんだよ、優吾! お前今、自分でマーガレットは女子だって言ったじゃねぇか!」


「……確かに」

「ちょっと落ち着け。まずはカバンをしまってこい。そしたらジュースでも買いに行こうぜ。そこで話を聞いてやるから」


「……すまない。ちょっと昨日のことでイラついてしまっていた」


 優吾は真壁の言う通りに、廊下にあるロッカーにカバンをしまう。そして二人で自動販売機の置いてある隣の校舎へと歩いて行った。


「……なんだったの、今の」

 優吾の一連の行動を隣の席で目の当たりにした神野かみのめぐみは、本を読むことも忘れて呆気にとられていた。

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