第7話 リスクとリターンについて考えてみた
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ラジオネーム「ストロベリー」
平木さん坂田さんこんにちは。僕は高校二年生で放送部に所属しているのですが、部員が僕しかいません。
顧問の先生からは3月までに部員を後2人増やさないと廃部になるかもしれないと言われました。なんとかラジオの力を使って放送部に新入部員が2人入ってくるようにご協力いただけませんか。
当日は絶対に会場に行きますので、どうかよろしくお願いします。
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というハガキを出すか出さないか、
もしこれが読まれてしまったら、確実に学校のみんなに「一ノ瀬優吾=ストロベリー」だということがバレてしまう。
バレたところで何も問題はないのかもしれないが、これまで一切公表せずにラジオに投稿していた手前、恥ずかしさもあるのだった。
だが、ラジオで放送部員募集を呼びかけてもらえるかもしれないというのは大きい。ましてや会場が地元、
優吾は身バレするリスクと部員募集のリターン、二つを天秤にかけてしばらく悩んでいた。
(一ノ瀬優吾の「一」と「吾」で「いちご」=「ストロベリー」だって。だっさ。ってか、あの校内放送さ、絶対ラジオの真似してるよね。ちょっと面白いかもとか思ってたけど、単なるパクリじゃん。もう聞かないしリクエストもしないわ)
(ラジオ聞きました! 俺、入部希望です!)
(なんだよ、ラジオであれだけ宣伝したのに新入部員ゼロ? しょうがねぇなぁ、俺たちハイド&シークが校内放送をジャックしに行ってやるよ!)
などと、良い方向にも悪い方向にも彼の妄想は膨らむのだった。
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――ハイド&シークの学校さぁ行こう! 今日最初のお便りです。ラジオネーム「マーガレット」から。公開収録とっても楽しみです! 私は夢見丘市に住んでいるので、総合文化ホールはすぐそこ! 絶対に参加したいです。当選メールっていつごろ届くんですか? 気が気じゃなくて、授業中も上の空です! だって。
――おいおいおいおい! 授業は集中してくれよな! っていうか、公開収録参加希望の申し込み……すごいらしいね。
――うん。初めてのことだからみんな来てくれるかなって心配だったんだけど……スタッフのみんなが嬉しい悲鳴をあげております!
――申し込みは既に終了していて、今、厳正なる抽選をしているところだ。当選したみんなにはもうじきメールが届くんじゃないかな。12月中には届くようにするから、楽しみに待っていてくれよな!
――続いてのメールは……
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水曜日の夜。もちろんラジオは欠かさない。
いつものようにイヤホンをつけて聞いていると、公開収録の話題がしばらく続いた。リスナーの反応も多く、開催を心待ちにしている様子が伝わってきた。
(倍率高そうだな……当たる……よな? 夢見丘市に住んでいるんだし、ラジオも毎週聴いている。毎週ハガキも送ってる。絶対、ハイド&シークの二人もスタッフも僕のことを覚えてくれているはずだ)
そんな不安と同時に、もう一つ気になることがあった。
(マーガレットって、やっぱり女性だったのか。私って書いていたもんな。それに……夢見丘市に住んでいるってことは、もしかして同じ学校? いやいや、中学生かもしれないし、社会人の可能性だってあるか……)
結局、優吾は迷っていたハガキは出さなかった。自分の学校の問題をラジオで取り上げてもらおうだなんて図々しいもんな。
というのは建前で、本当は身バレすることが怖くなったからだった。
バレたくないからラジオネームを使うのであって、バレてもいいのなら最初から本名で投稿すればいいだけの話だと考えたのだ。
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――ハイド&シークがお送りしています、学校さぁ行こう! 続いてのコーナーは?
――学校大喜利のコーナー! パチパチパチパチ!
――このコーナーでは、リスナーのみんなに考えてもらった大喜利を披露してもらいます。今週のテーマは「こんな保健室は嫌だ、どんな保健室?」でした。どんな大喜利が集まったんでしょうか、ケイン君お願いします。
――んー、ラジオネーム「笑うサンタクロース」
――こんな保健室は嫌だ、どんな保健室?
――「診察代がかかる」
――ははははは! 確かにそれは嫌! ただの病院じゃん!
――続いて、ラジオネーム「ストロベリー」
――こんな保健室は嫌だ、どんな保健室?
――「どんな怪我も先生が秘孔をついて治そうとしてくる」
――ははははは! おもろ!
――お前はもう……治っているって、一子相伝の暗殺拳じゃないんだから! これは座布団一枚だね。ステッカー送っておきます!
――これツボにハマりそう! めっちゃ面白い! ラジオネーム「ストロベリー」センスいいねぇ!
――次は、ラジオネーム……
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不意打ちだった。
まさか自分の作品が大喜利で採用されるなんて。
しかも、センスがいいとまで言われた。あのハイド&シークに認めてもらったのだ。それにステッカーをプレゼントって確かに言っていた。
「うおおおおっしゃあぁ!」
優吾は思わず大声を上げて、拳を突き上げた。
「うるさいよ、何時だと思ってるんだい!」
階下から母の声が聞こえたが、そんなの気にならなかった。それくらい今の優吾は喜びでいっぱいだった。
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