第6話 二つの重大発表
もちろん部員は彼一人。
新入部員が入ってくる気配は感じられないが、昼の放送「一期一会」に興味をもってくれる者がいつか必ず現れるはずと優吾は信じていた。
先日、顧問の
まずは放送室の近くにリクエストボックスを設置した。来週あたりには全生徒に向けてリクエストカード――といってもただのコピー用紙に印刷したものを配布し、昼の放送で周知を図るつもりだった。
そして、いつでもリクエストができるようにボックスの隣にもカードと鉛筆まで置き、気軽にリクエストを書くことができるようにしておけば、環境としては申し分ないだろう。
(ああ、早くみんなにリクエスト企画のことを伝えたい!)
優吾は、放送室前に置かれたポストを見ながら、そんなことを思っていた。
「一ノ瀬君じゃないか」
「あ、深澤先生」
廊下の向こうから歩いてくる深澤先生が、優吾を目に留めて声をかけてくれた。そして、放送室前のリクエストボックスを見ると、「おお、リクエストの準備も順調にすすんでいるようだね」と笑顔を見せた。
「ええ、先生のおかげです。プリントの配布も引き受けてくださってありがとうございます」
優吾も丁寧に頭を下げた。
「はっはっは、これを機に部員が増えることを期待しているよ! でないと、年度末には廃部になっちゃうかもしれないからね」
廃部という言葉に、二人の間に流れていた和やかな空気が一瞬止まる。
「は、廃部? え、何のことですか?」
笑顔でとんでもない発言をした深澤先生の言葉に、耳を疑いながらも優吾が聞き返す。
「あれ言ってなかったっけ。3月になると職員室で来年度の部活に関する話し合いが行われるんだよ。部員が3人未満だと、廃部の対象として挙げられる」
「3人ですか……」
「まあ、最近の昼の放送は面白いし、来週からリクエストも始まるだろう? 一年生とか興味を持つ生徒もいるかもしれないよ。先生もそれとなく生徒たちに声をかけてみるから、そんなに心配しなくてもいいんじゃないかな」
じゃあね、と言って廊下を歩いていく深澤先生を見つめながら、優吾の耳に自分の心臓がどくどくと脈打っている音が聞こえてきた。
ついさっきまではリクエスト企画が楽しみだとか、部員が増えるといいなとか気楽に考えていたのだが、そんな余裕がなくなった。
今は12月。3月までに部員をあと2名集めないと廃部になるかもしれない。
これはやばいぞと、優吾はこれまで以上に昼の放送を面白いものにしなければと気合が入った。そして、部員の勧誘自体も放送の中に組み込めばいいんだと考え始めたのだった。
さらにその日の夜、もう一つの重大発表が行われることとなった。
***** *****
――ハイド&シークの「学校さぁ行こう!」お別れの時間が近づいてきました。
――今週もあっという間でしたね。で、優子ちゃん。CM前に重大発表があるって言ってたけど、もう時間ないよ!
――え、もう言っちゃっていいですか? 来週とかじゃダメ?
――ダメ! リスナーみんな心待ちにしているはずだから、重大発表! え、まさか番組終了とか!? 俺、聞いてないよ?
***** *****
いやいやいや、ラジオの改編期は4月と10月じゃないか。番組が終わるとかありえないから。
優吾は心の中でそう呟いていた。となると、重大発表って一体なんだろうか。彼はいつも以上に神経を耳に集中させた。
***** *****
――ごほん。なんと、ハイド&シークの「学校さぁ行こう!」ですが……
――ためるなって!(笑) あんまり時間ないんだから!
――初の公開収録が決定いたしました! パチパチパチパチー!
――えええええぇぇぇ!? こ、公開収録? マジで?
――マジです。ハイド&シークがあなたの街に行って、そこで公開収録しちゃいます!
――リスナーのみんなと会えるってことか! うひょ〜! 爆上がり間違いなしでしょ! いつ、どこでするのよ?
――来年1月25日土曜日、場所は夢見丘市総合文化ホール。14時開場、15時から収録スタートで、約2時間を予定しています。観覧希望の方は、番組のホームページから申し込んでください。数が多い場合は抽選となります。詳しくは番組のホームページに書いてありますので、そちらをご覧ください。
――生でリスナーに対面すると、ぶつけてくるエネルギーとかもすごそうだな、ワクワクしてきた! みんな、じゃんじゃん応募してくれよな!
――というわけでお時間です。ここまでのお相手は、ハイド&シークの平木裕子と!
――坂田ケインでした!
――それでは、また来週のこの時間にお会いしましょう! バイバイ!
――公開収録、楽しみだぜ〜!
***** *****
カチャリ。
ラジオの電源を切ると、優吾は慌てて机に置いてあった自分のスマホを掴んだ。
(おいおいおいおい! ハイド&シークがすぐそこの夢見丘市総合文化ホールにやってくるだと……しかも公開収録。これは参加っ! 圧倒的参加っ! そうだ、公開収録で放送部の部員が少ないことを言ってみれば……部員が増えるんじゃないか?)
優吾は興奮冷めやらぬ様子で、すぐに自分のスマホを操作して公開収録参加募集に申し込んだ。
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