第4話 絶対に採用されるはずだったのに

 水曜日の夜、10時30分。


 いつものように優吾は自分の部屋で椅子に座って目を閉じていた。耳にはもちろんイヤホンを装着している。イヤホンの先には小型ラジオ。そう、ハイド&シークの「学校さぁ行こう!」の時間だ。


 今週はハガキが採用されるはずだと、優吾には自信があった。「学校あるある」のコーナーに「漫画でよくある購買部でのパン争奪戦。実際にはない」というネタを送っていたのだ。「あるある」なのに「ない」で終わるところにセンスを感じるじゃないか! と自画自賛していたのだった。


 ラジオで読まれて、運が良ければステッカーがもらえる可能性がある。これまで数回読まれたことがある優吾――ラジオネーム「ストロベリー」だったが、いまだステッカーがもらえたことはない。今回こそは! と、ラジオを聞きながらドキドキが大きくなる。


 オープニングと曲、そしてCMが終わり、次がいよいよ「学校あるある」のコーナーだ。思わず胸に手を当てると、ドクン、ドクンと自分の心臓の鼓動を感じる。


(読まれますように、大丈夫……今回は下ネタじゃないしセンスもいいはずだ……!)



 ***** *****

 ――ハイド&シークの「学校さぁ行こう!」それでは最初のコーナーです。いつものようにタイトルコール、ケイン君お願いします。

 ――学校あるあるのコーナー! このコーナーでは毎回お題を提示して、それに関する学校あるあるを投稿してもらっています。今週のテーマは「昼食時間」。さあ、中高生のみんなの昼ごはんあるある、非常に楽しみです!

 ――それじゃあ最初は……これ。ラジオネーム「はにかみハニワ」「めっちゃ早く食べ終わって必死に宿題をしている奴がいる」いたいた!

 ――俺もそのタイプだった。だってよ……

 ***** *****



(問題ない、まだ1枚目だ。今日は読まれる、絶対に)

 優吾にとってケインの自分語りはどうでもよかった。早く次のハガキを読んでくれ! そればかり思っていた。



 ***** *****

 ――次はラジオネーム「ポチョムキン」えーっと「給食の牛乳の底に書かれている番号でなぜか勝負が始まる」だって。えっと、中学校までが給食なのかな?

 ――そうだな、高校生は学食とか弁当とか、購買部でパン買うとかだろうな。

 ――そっか、じゃあポチョムキンは中学生なんだろうね。っていうか、牛乳の番号で勝負するって何? 製造番号か何かが書いてあって、その数字の大きさで勝負するってこと?(笑)

 ――そうそう。牛乳パックの底に一桁の数字が書かれていて、それがみんなバラバラなわけ。その数字が大きい方が勝ちとか、1が最強とか、自分たちでルールを決めて遊んでんのよ。しかも、配られたときにこっそり確認して、しれっと他のやつと取り替えたりとかしてた。

 ――ケイン君もしてたんかい! はは、まぁでも中学生男子らしくていいじゃん。お、次はさっき話していた購買部ネタです。

 ***** *****



 きたぞ、これは間違いない! 平木優子が「購買部ネタです」と言った瞬間に、優吾は自分のハガキが読まれると確信した。

 胸のドキドキが最高潮を迎える。



 ***** *****

 ――ラジオネーム「マーガレット」「購買部に焼きそばパンってあんまり売ってない」

 ――え、そうなの!?

 ――えっと、補足書いてあります。「うちの高校の購買部はパンは少ししかおいていません。コンビニで買ってから来る生徒も多いので、そもそも争奪戦すら起こりません」だってさ。

 ――あ、そっか。昔コンビニとかなかったから、購買部が唯一昼食を買える場所だったんだ。

 ――今はコンビニも多いからね。コンビニだと種類も豊富だし。

 ――購買部って意外と存亡の危機に立たされているとか?

 ――そうなのかもしれない。他にも似たようなメールがいくつか届いていました。みんないつも本当にありがとう。

 ――続いてラジオネーム……

 ***** *****



 (読まれなかった……しかも同じような内容を書く奴がよりにもよってマーガレットだなんて……)


 ラジオネーム「マーガレット」。この名前は優吾にとって忘れることができないものだった。先日の放送で採用されたマーガレットのネタである「シャーペンを逆に持ったままカチカチして、親指にぶっ刺さる」これを聞いた翌日に、自分が同じことを見事にやってしまったからだ。


 なかなかセンスのある奴だ、なんて上から目線でみていた優吾だったが、まさか自分と同じようなネタを投稿してくるなんて……。そして自分のネタが採用されずに、マーガレットのネタの方が採用されてしまった。これはある意味、勝負に負けてしまったということなのではないか。優吾は悔しさのあまり、ラジオを聴きながら拳を握り締めていた。

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