第2話 朝の教室と文房具あるある
翌日、始業前。
「昨日の動画の――」
「ミスターブルーバナナの新曲って――」
「バスケ部の山田くんが――」
陽の当たる窓際で、黒板の前で、教室後方の鞄だなの近くで。
「おーい真壁、これ鼻くそ」
「うわっ、何お前! 汚なっ……って、消しカスじゃねぇか! びっくりした!」
真壁が手のひらに置かれた消しカスを振り払いながら叫ぶ。
「ほら、やっぱり面白いと思うんだけどな」
「何の話?」
「いや、ラジオで『学校あるある文房具編』ってのがあってさ――」
優吾は、昨日ラジオで採用されなかったハガキのことを真壁に話した。
「――なるほど、そりゃ採用されねぇわ。だって下品だもん」
真壁が冷静な口調で答えた。
下品だとは自分でもちょっとだけ感じていたことだったが、優吾としては何かしらの共感や慰めの言葉が返ってくるものと思っていた。まさか逆に否定されてしまうとは想定外だった。
「ぐっ、やはり下品だと思うか……ギリセーフじゃね?」
「アウトだよ。だって、さっきの消しカスネタ、俺だから笑って反応したけど……ちょっと見てろ」
真壁はそう言うと優吾の席の隣にいる、物静かに一人で本を読んでいる女子の肩を軽く叩いた。
「
黒髪のおさげに三つ編み、丸メガネ。典型的な読書大好き女子といった風貌の
「何か?」
「神野さんも、消しカスを丸めて『鼻クソ〜』とかいう男子ってドン引きするよね?」
「……えぇ? は、鼻ク……もうっ!」
神野は自分で「鼻クソ」という言葉を復唱しかけたことに気づいて、顔を赤らめ前を向いて読書を再開した。
「ほら、な。これが一般の方々の反応デス。笑ってくれるのは俺か、小学生低学年ぐらいじゃね?」
キーンコーンカーンコーン
始業のチャイムが鳴る。
真壁は「ごめんね、神野さん」と彼女の背後から声をかけて、自分の席へと戻っていった。
優吾も「ごめんな、神野さん。気を悪くしないでね」と声をかけて、一限目の国語の教科書とノート、筆箱を引き出しから取り出した。
「笑ってくれるのは俺か、小学生低学年ぐらいじゃね?」
優吾の頭の中は、先ほどの真壁のセリフでいっぱいだった。
(俺のお笑いのセンスは小学生にしか通用しないというのか?)
あれやこれやと考えている間に国語の先生が教室に入ってくる。今日の当番が号令をかける。
「起立、礼」
「お願いします!」
(確かに少し下品かもしれないと思ってはいたが、あそこまで言わなくてもいいんじゃないか?)
「着席」
(それに読書をしている女子に突然消しカスを見せて「鼻クソ!」なんて言い方をしたら、ドン引きするに決まっているじゃないか!)
「はい、教科書121ページを開いて……」
(よし、次の休み時間になったら真壁を連れて他の男子に聞きに行こう。そうすればきっとみんな笑ってくれるはずだ!)
優吾はいつもの癖で、筆箱からシャープペンシルを取り出し、カチカチとノックをしたつもりだったが。
「痛って!」
突然、指先に何かが刺さったような感覚を覚えた。見ると親指から血が出ている。慌ててシャープペンシルに視線を移すと、まさかの上下逆に持ってしまっていたのだった。
「ん? どうした一ノ瀬」
「いや……何でもないです」
「授業の邪魔すんなよ〜」
「はい、すんません」
優吾の後方で真壁がニヤニヤと笑う。いつもなら振り返って「こっち見んなよ!」というやりとりをする優吾だが、今日に限ってはそうしなかった。シャープペンシルを見た瞬間に、彼の頭の中には昨日のラジオの内容が思い出されていたのだ。
***** *****
――ラジオネーム「マーガレット」、「シャーペンを逆に持ったままカチカチして、親指にぶっ刺さる」
***** *****
「マジか……」
学校あるある文房具編を、まさか自分の身で体験することになろうとは。驚きや嬉しさ、そして恥ずかしさよりも、あと数日前にこれを体験していれば自分が投稿できたのにという悔しさの方が優吾の中では勝っていた。
「だ、大丈夫? 一ノ瀬くん」
隣に座っている、おさげ三つ編み丸メガネの神野が授業中だというのに、どこからともなく絆創膏を取り出して手渡してくれた。
ストロベリー・マーガレット・スーパーノヴァ まめいえ @mameie_clock
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