ストロベリー・マーガレット・スーパーノヴァ

まめいえ

第1話 青春全力応援ラジオ

***** *****

――ピピー……ジジジ……ザザッ

――……ズンチャチャズンチャ、ズンチャッチャ!


――2024年11月6日水曜日、みなさんこんばんは、ハイド&シークの平木ひらき優子ゆうこです。

――坂田さかたケインです。


――今週も始まりました、ハイド&シークの「学校さぁ行こう!」。この番組は、中高生のみんなに明日への元気と活力を与える、青春全力応援ラジオです。もちろん大学生も社会人のみなさんもぜひぜひ聞いてくださいね。小学生は……さすがに寝ている時間かな。もし起きている小学生がいたら、聞かずに早く寝てください(笑)。ちょうど中だるみしやすい水曜日。番組を聞いて、学校をもっと好きになってもらって、明日も元気に学校に行くぞ! って思ってもらえるようにがんばっていきたいと思います。

 

――いつも言ってるけど、この「学校さぁ行こう!」は、学校にさぁ、行こうぜ! っていう意味と、学校って最高だよね! っていう二つの意味が込められているんだ。だから今、学校が楽しいみんなも、ちょっと嫌なことがあって明日学校行きたくねぇなって子たちもみんなまとめて、今よりもっと学校を好きにさせてやるから最後までしっかり聞いてくれよな!


――というわけでね、早速今日のオープニングナンバーお届けします。この間発表されたばかりの新曲です。今大人気の4人組バンド「ミスターブルーバナナ」で「アオハル行進曲」

♪〜〜

***** *****



 毎週水曜日夜10時30分。

 一ノ瀬いちのせ優吾ゆうごは週に一度の、このラジオの時間を楽しみにしている。二階の自室でイヤホンをつけ、学習椅子に座って目を閉じて聞くのが最近のお気に入り。このときだけは勉強は中断して、ラジオに集中する。


 最近はパソコンやスマホからでも聞くことができるが、優吾は手のひらサイズの小型ラジオを愛用している。

 周波数を合わせるためにダイヤルを微調整する指先の動き、その際に聞こえるジジジ……という音が、自分で操作してラジオの電波を受信している感じが出て好きなのだ。


 ハイド&シークという男女コンビのお笑い芸人が担当している「学校さぁ行こう!」は、地域限定のローカル放送ではあるものの中高生からの人気は絶大なもので、人気コーナー「学校あるある」や「学校大喜利」、「教えてケイン先生!」には、毎週大量のメールやハガキが届く。


 優吾も例に漏れず、毎週のようにハガキを投稿している。ラジオネームは「ストロベリー」。これまでに数回読まれたことがあり、もっと採用されるようにと息巻いている、いわば駆け出しのハガキ職人だ。

 メールで投稿するのが簡単だし手っ取り早いのだが、ハガキ職人という言葉の響きにかっこよさを感じていて、やはりハガキで出してこそハガキ職人だという謎のこだわりをもっていた。


 一ノ瀬の「いち」と優吾の「」で「いちご」そこから転じて「ストロベリー」というラジオネームを考えた。身バレすることもない、我ながらよくできた名前だと優吾はこの名前が気に入っていた。


 そろそろ曲が終わり、そのままCMに入る。CM明けが「学校あるある」のコーナーだ。さあ今週は「学校あるある」に投稿したハガキがきっと読まれるはずと、優吾の胸が高まる。今回の作品には相当な自信があったが、いつもドキドキすることに変わりはない。


 CMが終わる。いよいよだ。



***** *****

――ハイド&シークの「学校さぁ行こう!」それでは最初のコーナーです。タイトルコール、ケイン君お願いします。


――学校あるあるのコーナー! このコーナーでは毎回お題を提示して、それに関する学校あるあるを投稿してもらっています。今週のテーマは「文房具」。さあ、みんなどんな文房具あるあるを送ってきてくれたんでしょうか。優子ちゃんヨロシク!


――はい、じゃあ最初は……ラジオネーム「恋するウサギ」からの文房具あるあるです。「ノート、最初の数ページだけ綺麗に書きがち」。ははは! 確かに!

――でさ、ページをめくるごとに字が汚くなっていくのよ。わかるわー! いいね、こういうの待ってた! 次、じゃんじゃんちょうだい!


――えっとね、ラジオネーム「マーガレット」。お、いつもありがとう。なになに「シャーペンを逆に持ったままカチカチして、親指にぶっ刺さる」

――カチカチって結構勢いよくやるけど、「ぶっ刺さる」て(笑)

――あーでもわかる。ついぼーっとしたままカチカチしようとして「痛っ!」って血が出て。そこで「あ、逆やった!」って気付くんよ。

――それ相当やろ! 普通もっと早く気付くて! がはははは(笑)


――ケイン笑いすぎだって、もう! 次はラジオネーム……

***** *****



 その日、最後まで優吾の作品は読まれなかった。椅子に座り、目を閉じたまま表情を変えることはなかったが、心臓はずっとバクバク鳴っていた。自信があっただけに残念でならなかった。

 確かにいつも「採用されなかった人ごめんな、めげずに何度でもチャレンジしてくれ。でも全部のメールやハガキをチェックしてるから安心してくれよ!」とケインが言っている。採用される倍率は相当なものなのだろう。

 

 それでも。

 

 今回の作品「消しカスを丸めて鼻くそっぽくして、友達につけてみる」は読まれると思っていたのだった。


(ちょっと下品すぎたかなぁ。次は正攻法で攻めてみよう)


 優吾はラジオの電源を切り、少しだけ開けていた窓に向けて伸ばしていたアンテナを縮める。そしてイヤホンを外すと、そのままコードをぐるぐるとラジオに巻きつけ、引き出しの中にしまった。

 ひゅっと夜風が部屋の中へ入ってきた。11月の夜の風が、優吾にはとても冷たく感じられた。

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