第5話 きょうだい3人のデートと偶然
「お兄ちゃん、デートするよ!」
土曜日、休日だったので伊織が自分の部屋のベッドでスマホをいじっていると、詞葉が勢いよく部屋の扉を開けてそんな事を言いながら入ってきた。
「デートぉ?どこ行くんだ?」
「服買いに行く!」
「面倒だからやだ。 詩を誘えよ、あいつなら喜んでついて行くだろ」
「詩はもう誘った、行くって」
「デートとは⋯⋯」
どうやら詩葉はもう承諾済みだったらしい。
伊織はデートの定義を崩されたような気がした。
「いいじゃん行こーよー」
「えー⋯⋯」
「1週間のお願い!」
「短ぇなぁおい!」
「お兄ちゃぁん、お願い」
詞葉は猫なで声でコテンとら首を横にたおし、両手をグーにして顎に当て、上目遣いをする完全にぶりっ子の仕草をする。
それが様になっているのが恐ろしい。
「⋯⋯それ、恥ずかしくねぇの?」
「ふっ、正直に言っていいか?」
「言えよ」
「くっっそ恥ずい」
「だろうな!」
そんな会話をしていると、また伊織の部屋の扉が開き、詩葉が入ってきた。
「姉さん、兄さんはどうですか?」
「行かないってー」
「そうですか⋯⋯」
「っグ」
詞葉は、伊織が行かないと分かったとたん、おそらく本人に自覚は無いが、少し俯いて、悲しげな雰囲気をまとった。
詩葉の顔が合わさり、今の詩葉は女の子と男の子、どちらに見えるかと聞いたら100人中100人が女の子と答えるだろう。
はっきり言うと、めっさ可愛かった。
そして、詞葉は本当に行かないの?とでも言いたげにニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「⋯⋯分かった、行くよ」
「⋯⋯兄さんが嫌なら、無理してこなくても大丈夫ですよ?」
「いや、嫌じゃないよ」
「では⋯⋯!」
「行こうか、服買いに」
「やったぁ!」
伊織がついて行くと分かると、詩葉は満面の笑みで伊織に抱きつき、「兄さん、大好きです」と言った。
これを天然でやっている所が恐ろしい。
意図して抱きついてくる詞葉と違い、詩葉はよっぽどのことが無いかぎり伊織に抱きつくことは無い。
つまり何が言いたいかというと、くっそ可愛い。
ブラコンである伊織と詞葉は2人とも顔に手を当て上を向き、同時のタイミングでこう思った。
(守りたい、この笑顔⋯⋯!)と。
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「お兄ちゃん、こっちだよー!」
「待て、こんな人が多いところで走るなよ!」
40分後、きょうだい3人は家から1番近くにあるショッピングモールに来ていた。
「これか?⋯⋯いや、こっちかな?」
「なぁ詩、かれこれ10分経つけど、まだ決まらないか?」
「くっ、後2着までは絞ったんですけど⋯⋯あと2着で迷っています⋯⋯」
伊織は服を買いに行くと言っていたので、(詩葉と詞葉の服を買うのかな)と思っていたのだが、服屋に来てみると、詩葉と詞葉は早々に伊織を着せ替え人形にした。
「詩、ズボンこんなのでいいんじゃない?」
「なるほど、確かに⋯⋯では、こっちですかね」
「⋯⋯なぁ2人とも、なんで俺は着せ替え人形にされてるんだ?」
それを聞いた詩葉と詞葉は揃ってお互いの方を向き、その後伊織の方を向いて、
「涼葉ちゃんにデート誘われた時のため」
「天崎さんにデートに誘われた時のためです」
揃って同じことを言った。
「⋯⋯」
「っいた!?」
伊織は黙って2人の頭頂部にチョップした。
「「何するの」ですか!?」
「お前らが何言ってんだよ!」
その後数分、店員に注意されるまで言い合いになった。
「もう、お兄ちゃんのせいで怒られたじゃんか」
「10分の8お前らのせいだよ!」
「むぅ、僕はもっと兄さんのかっこ良さを知って欲しいだけなのですが⋯⋯」
「詩?ナチュラルにそういうこと言わないで?お兄ちゃん吐血しちゃうから」
伊織がそう言った時、視界の端にちらっと見知った顔が見えた。
「⋯⋯なぁ2人とも、なんか視界の端に見知った顔が見えた気がするんだが、俺の気のせいかな?」
「ふっ、お兄ちゃん、かんっぜんに気のせいじゃないぜ?」
「だよなぁ」
その時、見知った顔の人が伊織たちの方を向いた。
(まー気づくよね〜だって横2人こんな目立つ髪色してんだから)
その見知った顔⋯⋯涼葉が、伊織たちの方に向かって歩いてきた。
涼葉は、
「こんにちは、伊織くんと詞葉ちゃん、あと⋯⋯」
涼葉は伊織と詞葉に挨拶したあと、間にいる私生活の姿の詩葉に目をやり、誰かわからないといった顔をした。
詩葉はそれを察し、1歩前に出て自己紹介をした。
「初めまして、僕は伊織兄さんと詞葉姉さんのいとこの、
やはり、詩葉とバレるのは嫌なのだろう。
ちなみに、秤とは、本当に伊織たちのいとこである。
「あら、ご丁寧にありがとうございます。 初めまして、私は伊織くんと詞葉ちゃん、詩葉くんのお友達の、天崎涼葉と申します」
「ねぇねぇ涼葉ちゃん、私たち今からお昼ご飯食べるんだけど、涼葉ちゃんも来ない?」
「えっ、いいんですか?」
「もっちろん、大歓迎だよ!ね?2人とも?」
「僕は姉さんがいいなら」
「俺はどっちでも」
「では⋯⋯お邪魔しますね?」
「やったぁ!」
そして、4人はショッピングモールを離れ、香澄家に移動した。
「あ、あの⋯⋯もしかしてなのですが⋯⋯お昼ご飯って、皆さんの家で食べるんですか?」
「え、そうだけど?」
「ええ!?」
涼葉はおそらくショッピングモールで食べると思っていたのだろう。
香澄家で食べるということに驚いていた。
「安心して?涼葉ちゃんの分も準備してってさっきお母さんに送ったから!」
「そ、そういうことではなくてですね⋯⋯うぅ、もっとオシャレしてくるんでした⋯⋯」
「安心して、涼葉ちゃんは可愛いよ!」
「ありがとうございます、でも⋯⋯」
「それに今でもお兄ちゃんの10倍はオシャレだから!」
「おい」
伊織は反射でツッコンでしまったが、実際間違っていないので何も言えなくなってしまった。
「たっだいまー!」
「ただいま」
「ただいま帰りました」
「お、お邪魔します⋯⋯」
きょうだい3人➕涼葉が家に入ると、見るからに上機嫌な伊織の母⋯⋯香澄リリィと父の
「おかえりなさい3人とも、それにいらっしゃい涼葉ちゃん、ゆっくりしていってね」
「おー!本当に美人さんだなぁ」
「ほんとねぇ、可愛いわ」
「あ、ありがとうございます」
リリィと冬寺は早速涼葉に構ってきた。
「父さん母さん、涼葉に構うのは後にしてくれ、腹減った」
時刻はもう13時になっており、朝ごはんを食べたとはいえ流石にお腹が減り始める時間だ。
「あら、そうねぇ先にご飯にしましょうか⋯⋯直ぐに出来るからもうちょっと待っててね」
「あ、僕も手伝いますよ、リリィさん」
「!、あらそう?だったら手伝ってもらおうかしら」
いつもは母さんという詩葉が名前呼びすることで、リリィと冬寺は正体を言っていないことに気づく。
「じゃあ俺は、普段3人が学校でどんな生活してるか聞いてもいいかな?」
「あ、はい大丈夫です!」
冬寺はきょうだいの普段の学校生活を聞くべく、涼葉に話しかけている。
「⋯⋯俺は部屋にいるから、ご飯出来たら呼んでくれ」
「えー?お兄ちゃん部屋に戻っちゃうの?」
「俺がいてもすることないだろ」
伊織が部屋に戻って数分、直ぐにご飯ができて詩葉が呼びに来た。
「伊織くんはですね、お昼ご飯はお友達と食べているのですが、その時結構お友達に意地悪をするのですが、その意地悪が成功したの時の笑顔がそれはもう可愛くて⋯⋯!」
「へー!なるほど、家じゃいっつもツッコミ役だもんなぁ伊織は」
「こんな話になるんだろうなと思ったら部屋に戻ったんだよ!その話を今すぐやめろ!いたたまれなくなる!」
その時、リリィと詩葉がキッチンから料理を運んできた。
「ご飯できたわよ〜」
今日の香澄家の昼ごはんはたらこパスタらしい、たらこパスタと言っても、おそらく明太子を使っているが、まぁ同じようなものだろう。
明太子がパスタと綺麗に馴染んでいて、その上に海苔が収まり良く乗っかっている。
「いただき美味しいですねこれは」
「詩葉、もっとちゃんと噛んで食べろー?」
「今いただきますが終わるより早く感想言いませんでした⋯⋯?」
「気のせいじゃないですかね?」
「気のせいですか」
「いや、気のせいではないだろ⋯⋯」
そんなこんなで、香澄家と涼葉は楽しく昼食を食べた。
「⋯⋯それでは、お邪魔しました」
昼ごはんを食べ終わり、リリィも混ざって涼葉とおしゃべりしていたが、15時を回ったところで涼葉は帰る運びとなった。
「涼葉ちゃん、またいつでも来ていいからね?」
「ありがとうございます」
「じゃあまた明日ね、涼葉ちゃん」
「はい、また明日⋯⋯では今度こそ、ご飯美味しかったです、お邪魔しました」
「名残惜しいけど⋯⋯またね?涼葉ちゃん」
「はい、また」
そうして見送った香澄家の父と母は、リビングに戻るとまた部屋に戻っていた伊織を呼び出し、詰め寄った。
「本っ当にあの子にか告白されてるの伊織!?」
「めっさ可愛くていい子じゃねぇか!なんで断ってんだよ!」
「⋯⋯落ち着けよ」
「「落ち着けるかぁ!」」
伊織は興奮状態のリリィと冬寺を宥めるのに奮闘するのだった。
家族仲と恋愛を両立するのは難しい! 冬水葵 @aoi0208
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