第三章-3「機能不全家族で生まれた私より」
あの日、私は単なる仕事の都合で家に帰れないと思っていた。多忙だから、どこかで寝泊まりしないと続かないくらい、珍しい日もあるものだと思って、数日間は母親と二人で過ごしていた。当然、平日ならば母親だって仕事があるので、夜になるまで私は家に一人という事もあった。母親が携帯越しで親父と話していた際、少々深刻そうな顔をしていたのはさて置いて、けれど、母親が私に伝えたのは「仕事で帰ってこれないって。」だったような、そんな一言を受けた気がするので、私は心の中で「あ、そうなんだ。珍しい。」と思い込み、我が家では中々無かった二人だけの時間を楽しんだ。
だが、数年経ってから聞かされたのは、あの日、親父は仕事では無く群馬県内の刑務所に一晩居たという事だった。何故かは覚えていないが、それを聞かされた時は、別に驚愕も何もしなかったが、しかし、一度捕まると色々と厄介な事になるのを皆さんはご存知だろうか。
当然、こういう前科者は家もまともに借りられなかったり、車も危うかったりする。保険も、仕事先も中々受け入れてもらえない場合がある。だから、母親はそれらを含めて、親父に毎回毎回激怒していた。親父が何かやらかす度に、母親の負担は増していき、車とかだって今で言う割り勘のような感覚で、両親は徐々に小賢しくなっていった。ここでは言えないが、強いて言うならば、私の両親は、一歩間違えれば法律に触れそうな範囲をやっているとしか言いようが無い。
どこかで耳にしたことがある。
犯罪者、または犯罪者予備軍の人達は虚言癖だと言うことを。
言われてみれば、親父は確かに偶に嘘を平然とつく。誰に対してもそうである。流石に、今回の件(※離婚した件)は本当の事を伝えたらしいが、何を伝えるにも少々、母親も同様詐称を繰り返している。私が、普通に学校に通えていたらとか思うと、両親がこんな嘘をつく事も無かっただろう。そもそも、事実を職場の人間に伝えるだけで、過度な心配をされたりするから嫌なようで、だからか、私が全日制の高校を休学している事をすぐには伝えなかったり、私が通信制に通い始めた事もそう簡単には話さなかったり、今こうやって、通信制の高校すらまともに通えず、ただの普通の人であり、そこら辺の無職となんら変わりない人をしている事も、誰一人として伝えていないだろう。本来ならば、私の調子が良ければ、このまま単位を全て習得した上で、名古屋にある専門学校に通おうとしていたくらいだ。その選択肢まで断念し、人生そのものに挫折をした私は、今こうやって何度も何度も転生した小説投稿サイトにて、同じような話を再び書き綴っている。
私の人生設計が、完全に絶望のドン底へ、深海の真下まで沈んでしまったのには変わりない。障害者雇用を甘く見ない方がいい。私は、あの闇を経験しなくても当然のように理解出来る。社会からすれば、普通の人からすれば、私のような重度精神障害者はお荷物な存在であり、足を引っ張るだけの存在。人によれば、精神障害者というだけで危険視され、差別をされる存在。そりゃあ、学校側も私のような存在を必要としない理由がわかってしまう。就労支援や作業所もどうせ同じ理屈なのである。こんなに、普段何を考えているのかわからなかったり、いつ暴走するかわからない相手をまともに支援出来るはずが無い。だから、自覚があるのならば、私はそういったところで職業訓練などしたって無駄だとはっきりわかるから、二件とも体験/見学のみで終わらせてきた。私のような愚か者に綺麗な夢は、最初から存在しないのである。自分は可哀想な人間だとは思っていない。逆に、「可哀想で愚かで弱者は引っ込んでろ。」と罵倒されるくらいならば、家に引きこもっていた方がマシなのだ。
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