第25話・入院第2号


「…………」


3日後―――

病院に到着したシーマさんは、

詩音お姉ちゃんの背中で、無言でロビーの

天井を見つめる。


もちろん、シーマさんが病院内に入る事は

許可済みだ。


「ほお、意外と驚かないものだな。

 初めてここに来た時、アタシらはスゲー

 びっくりしたものだが」


あおいお姉ちゃんが感心しながら語ると、


「あまりの事に言葉を失っていた

 だけですの!


 なんですのここは!?

 ここに来るまでに食べた、お湯だけで

 作る料理の数々にも驚きましたけど……


 天界ですの!? 天国ですの!?

 やっぱりワタシもう死んでますの!?」


「すいません~!

 耳元で大声出されるとうるさい

 ですわ~!」


怒鳴るシーマさんの気持ち、わからない

でもない。


何せエアコン完備、王宮もかくやと思わせる

ツルピカの床、そして照明―――

転生前あっちだと当たり前だったけど、こっちでは

文字通り別世界だろうしなー……


「とにかく大人しくするのである。

 その足を治したければ」


「おっ、来たな」


理奈お姉ちゃんの後に葵お姉ちゃんが

声と共に視線を向けると、


そこには搬送はんそう用のストレッチャーを持って

早足でやって来る、加奈お姉ちゃんの姿が

あった。


「ほい、やるぞー」


「了解ッス!」


「はい、足をせるのである」


「そのまま楽にするのですわ~」


葵お姉ちゃんの指示の元、みんなが

テキパキとシーマさんをストレッチャーに

寝かせる。


ボクはそれをただ見守るだけで―――

手持ち無沙汰でウロウロしていると、


「あー……

 みっちゃんはあの時のように手でも

 握ってやってくれ」


葵お姉ちゃんの指示で、ボクはシーマさんの

両手をしっかりと握る。


「ふひぃっ!!」


するとまた、シーマさんが奇妙な声を上げ、


「どんな薬よりも効くッスね、それ」


「血圧と心拍数が上がる一方なのである」


強心剤きょうしんざいの必要が無いですわ~。

 みっちゃん、そのままベッドまで

 お願いしますわね~」


そしてそのままエレベーターに乗り―――

入院室まで彼女を移動させた。




「ふおおぉおお……

 見た事も無い魔導具でいっぱいですの……


 ベッドも考えられないくらいふかふか

 ですの……」


ベッドで仰向あおむけになりながら、シーマさんは

ただ目を丸くする。


そして腕には細いコードが取り付けられ、

その先は数値を示す機械につながっている。

多分、体の状態を示す表示だろう。


「じゃあみっちゃん、お願い」


「はい!」


葵お姉ちゃんの言葉にボクはうなずく。

そして―――




――――――――――――――――――――――


病院管理者:ミルトレッド

転生前:安藤あんどう蜜弥みつや


レベル:14


・現在のスキルptポイントは54,480ptです。


・現在の病院内滞在者:5名


滞在者pt:1日/2,140pt



――――――――――――――――――――――




「……あれっ?」


「え? ど、どうしたんだ?」


不安そうに葵お姉ちゃんが聞いてくる。

でも『治療』の項目はどこにも無く―――


「あっ」


ある事に気付いたボクは、葵お姉ちゃんに

耳打ちして、


「(確か『治療』って……

 自動的に行われるんじゃなかった

 でしたっけ。


 『治療』は病院内で一泊すると、自動的に

 処置されますって―――

 メッセージで出てましたから)」


それを聞いた他のお姉ちゃんたちも、


「(あー、そういやそうだったッスね)」


「(焦ってしまったのである)」


「(すっかり忘れていましたわ~)」


ヒソヒソとこっちで話している事で、

不安になったのか、


「ど、どうしたんですの?

 何か問題でも」


そうシーマさんが聞いてきたので、


「だ、大丈夫です!!

 えっと、一晩お待ちください!」


そう言いながらボクが彼女の両手を

ギュッと握ると、


「ふひゃいっ!!」


と、またおかしな声を上げて、


「おー、血圧160に上昇ー」


「心拍数、90ッス!」


「これはこれでちょっと問題であるな」


「みっちゃん、あまり興奮させ過ぎない

 ようにねー」


お姉ちゃんたちにそう言われ、パッと

手を放すと―――


満足そうな表情でシーマさんが意識を

失っていて、


「よし、このまま明日の朝まで待機ね。


 取り敢えずお風呂、それからご飯に

 するかー」


と、葵お姉ちゃんの指示の元……

みんなでシーマさんの病室から退室した。




――――――――――――――――――――――




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