第2話 祖父達の企み

流石に2回目の取っ組み合いは照光さんに止められ、納得いかないが大人しく座りなおす。

俺とじぃちゃんの間には不穏な空気しか流れていない。

そんな俺らを見て、困った顔をしながら照光さんは話を進めていく。


「先程康元さんが仰ったように、遊星くんには心夏とこれから一緒に暮らして欲しい。

住まいや色々必要な物はこちらで用意しているし、お金に関しても我々で賄うから安心してほしい。」


「いやっ、そこはそんなに気にしてなかったんですけど。

初対面の男といきなり同棲はやばくないですか?」


常識的なら初対面で同棲は早すぎるし、しかも昨日まで国民的アイドルしてたビジュアル最高な子に男子高校生は危なすぎるだろ。

照光さんの良心にかけてみようと思ったが、照光さんは俺の予想と違い微笑んでいる。


「遊星くんは康元さんのお孫さんだ。

それだけで心夏を預けるに値する信頼は持っているから大丈夫だよ」


んー、そうじゃない。俺の求めてた回答、全然違う。こんなクソジジイの孫だぞ、信頼するなよ!

そんで、照光さんから信頼してると言われたからって隣のクソジジイはニヤニヤするな。


鏡を見なくても分かるくらい俺はきっと険しい顔をしているのだろう。正面にいる、伊集院の顔はオロオロとしている。


「それに、心夏の面倒を見てほしいのは本当なんだ。」


「面倒?」


「あぁ、お恥ずかしながら今まで芸能の世界に居たから心夏は炊事洗濯といった家事全般が出来ないんだ」


「家事全般出来ない!?」


「今まではマネージャーさんがやってくれててね。

電子レンジやポットの使い方もあまり分かってないんだ」


オロオロしていた顔がどんどん赤くなっていく伊集院。顔も下に向けて恥ずかしいのだろう。


「そんな状態の奴と同棲は俺の負担でかくないですか?」


「そうかもしれないが、遊星くん家事全般完璧と康元さんから聞いているよ」


軽くウインクまでしてみせる照光さんはじぃちゃんよりも食えない奴だ。んで、勝手に俺の事を売ったじぃちゃんの方を見ると目が泳ぎ口笛まで吹き出した。


「〜〜♪〜〜♪

……だってほんとの事じゃろ!」


「個人情報を勝手に漏洩するな!!」


「儂の孫だからいいだろ!」


呆れてなにも言えない。思わず頭を抱えていると、伊集院の声が聞こえ顔を上げる。


「ゆ、遊星くんのお嫁さんになるの楽しみだったの!

家事全般できないけど……お嫁さんにして下さい」


顔が赤いままで瞳も潤んでおり、誰でもいいよ!って言いそうだが俺は現実を直視して───。


「いや……絶対無理、無理すぎる!」


「そ、そんなぁ、私生きていけないよ……」


伊集院は泣き出してしまい、俺はじぃちゃんから頭を叩かれる。


バシーーン


「コラァァア、おなごしかも心夏さんを泣かすとは馬鹿たれ!!」


「いてぇな、だって仕方ねぇだろ!!

それなら、じぃちゃんが一緒に住んでやれよ」


「屁理屈言うような孫に育てた覚えわないわ!」


互いに睨み合っている中、照光さんは不敵な笑みを浮かべて話し出した。


「いやぁ、一緒に暮らしてもらえないとなると困ってしまうな」


「……照光さんが一緒に暮らせばいいじゃないですか」


「そうしたいのは山々なんだが、世界一周旅行が決まっていてね……。

康元さんと一緒に日本を離れるんだよ、丁度1年間」


初耳の情報に目を見開いてしまう。隣を見てもしらばっくれるじぃちゃんしかいないし、照光さんはちょっと笑ってるしで嫌になる。


「それに引退したとはいえ元アイドルを泣かせたと知れたら、遊星くんの身の安全は分からないかもな」


「そ、それって、もはや脅しじゃん!!」


「もう、おじぃちゃんやめてよ〜!!」


伊集院も流石に俺の味方になってくれた様だが、この状況は大変良くない。

結局俺に残された選択肢は決まっているも同然。


「はぁ……、照光さんは俺にYESとしか言わせない気ですよね?」


「いやいや、そこまででは無いよ」


「嘘つけ!

ったく、婚約の事はともかく面倒を見る話は受けます。俺の安全は保証して欲しいので」


「流石儂の孫!」


「えっ、遊星くんと暮らせるの??」


「うるせぇ、あとそんな呑気な事言ってんな!

元国民的アイドルだろうが、俺と暮らすなら家事全般は覚えてもらうからな!!」


「ひぇ、う〜、頑張ります……」


俺の回答に満足したじぃちゃんは嬉しそうにしておりまだ涙目な伊集院は、頑張ろうと思っているのか顔の近くで両手をグーにしている。


「よし、んじゃ1年後ちゃんと迎えに来てくださいよ」


「あぁ、約束しよう。

遊星くんが心変わりしていたとしても……」


「心変わり?」


「いや、こちらの話だよ。

じゃあ早速2人の家に移動しようか」


「うん、移動しよ!!」


さっきまで大人しかった伊集院が急に立ち上がり、目を輝かせている現金なヤツだ。俺は照光さんの発言に違和感を覚えながら、重い腰を上げると俺よりも身長の低い伊集院が上目遣いで俺を見て来た。


「遊星くん、これからお嫁さん頑張ります!!」


「いや、嫁じゃねぇから!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る