引退した元国民的アイドルのNEXTSTAGEは俺の嫁!?〜生活力0な嫁との結婚生活(仮)〜

花見 はな

第1話 顔合わせ

高校2年になる春休み俺『泉原遊星イズミハラユウセイ』は、じぃちゃんである『泉原康元イズミハラコウゲン』に呼び出され家から歩いて15分のじぃちゃんの家に向かっている。


じぃちゃんは悪い人ではないが突拍子もない事をする変わり者。小さい頃から俺もとばっちりを受けてきた。

今回はどんな事を言い出すのか、ゾッとしながら歩いていたら家が見えてきた。


代々泉原家は造園業を営んでおり、家は日本家屋に立派な庭園が広がっている。俺の父さんは次男の為、俺自身も特に跡継ぎなど考えなくていい楽な孫の立場だ。


さてと、勝手にお邪魔するか。玄関に着きいつも通り鍵の空いている扉を開け、靴を脱ぎ廊下を歩き居間に向かう。


「じぃちゃーん、孫が来たぞー」


耳が遠くなったじぃちゃんの為に家中に聞こえる声を出す。いつもならゆっくり歩いて俺を迎えてくれるのに、その日のじぃちゃんは走りながら俺を迎えてくれてそのまま腕を掴まれ奥の客間に連れてかれる。


「ちょ、ちょっとじぃちゃん。どうしたんだよ?」


「黙っておれ。今日は特別な日なんじゃから…」


「……えー、どゆこと」


客間の扉の前に着き、珍しく真剣な目でじぃちゃんが俺のことを見る。


「遊星、今からお前の人生に関わる大事な話をする」


「いきなり走らされて、しかも人生ってなんだよ?

……いつものじぃちゃんらしくない」


「今日はいつも通りのじぃちゃんでは居られない!!」


耳が痛くなるほどでかい声を出したじぃちゃんは振り返り客間の扉を勢いよく開けた。


スパァァン


「大変お待たせしたな、伊集院殿

────これが儂の孫である遊星じゃ」


じぃちゃんが話しかけた先にはじぃちゃんと同い年くらいの男性となんか見覚えのある女子が座っている。

不思議に思いながらじぃちゃんの後を追って部屋に入り、その女子の前に座った時衝撃で言葉が出なかった。


なぜなら、昨日テレビで引退LIVEの映像が流れていたアイドルグループFLASHの『伊集院心夏イジュウインココナ』だったからだ。

国民的アイドルという異名が付けられるほどの人気があり何をしても売れて売れて仕方ないくらいの超絶アイドル。

テレビでも見たが黒髪ロングにぱっちり二重の整った顔立ち、これは可愛すぎると見とれていたがそうじゃないと感じ、じぃちゃんを問いただす。


「ちょっと待て、じぃちゃん。

なんでアイドルがここに居るんだよ!?」


「伊集院殿の前だ、アホ丸出しな会話をするな」


「いや、アホ丸出しじゃなくて真っ当な質問だ!」


「―――はぁ、1回しか言わんからちゃんと聞いとれよ」


呆れながらじぃちゃんは2人を前に経緯を説明してくれた。


「実は伊集院殿と儂は古き友人でな、我々の子供は皆男しか産まれなかった、だが孫は男女揃ったでな…

孫同士を婚約者にして結婚してもらおうと考えていたのじゃ」


「………ん?」


「だからお前と座ってらっしゃる心夏さんは婚約者でゆくゆく結婚するんだ!」


思わずじぃちゃんの胸ぐらを掴むが、逆にじぃちゃんも俺の腕を掴み取っ組み合いのようになる。


「んだと、このクソジジイ!

誰が勝手に婚約者の約束してんだよ!!」


「クソジジイとはなんじゃ!!

我々はお前のためにもと思って約束したことなんだぞ!」


「だからってな……」


「ふん、お前だけの力ではこんな可愛い嫁さん捕まえられんだろ」


「う、うるせぇんだよ」


ぐうの音も出ない事を言われ、手を離し大人しく座った。ふと、視界に入った国民的アイドルは顔を赤くして、ソワソワと落ち着かない様だ。

そして隣に座っている初老の男性は咳払いをして話し始めた。


「ごほっ、いきなりで申し訳ないね。

私は『伊集院照光イジュウインテルミツ』、そして隣に座っているこの子は私の孫の心夏だ。」


「こっ、こんにちは……」


目が泳ぎながらも挨拶してくれた声は、やっぱり可愛い。


「心夏の事を知ってくれている様で嬉しいが、康元さんが言っていた通り心夏と遊星くんは婚約者。

そして、昨日で心夏はアイドルを引退し一般人になった。この機会にご挨拶に来たということなんだ」


「…………」


国民的アイドルは顔が取れるんじゃないかってくらい顔を縦に振り続けている。

そんな孫を優しい目で見る照光さんと俺のじぃちゃん。


「超アウェイじゃん!!」


立ち上がりながら大声をだしてしまう。俺の味方が0すぎるこの状況は、大変よろしくない。

そして今度は俺の事を冷めた目で見るじぃちゃん。


「またアホな事言いよって……。

すまんな、伊集院殿と心夏さん」


「いやいや、元気があっていいですよ。

さぁ、心夏も自分の言葉でご挨拶しなさい」


そうお膳立てされた国民的アイドルは何故か立ち上がり、俺を真っ直ぐに見つめてきて―――。


「みなさんの心、心夏で埋めつくしちゃいます!

FLASH赤色担当、伊集院心夏です!」


テレビで見た事がある自己紹介を俺に向けて、今披露している伊集院心夏は引退なんて勿体ないくらいのまだまだ現役のアイドルに見える。

ただ圧倒され、無言でいると我に返った伊集院は顔を真っ赤にし手で顔を隠しながらその場に座り込んだ。


「あっ、あの……。

今のは、つい癖で……。ごめんなさい。」


さっきまで自信満々にしていたのに、嘘のように静かになりなんだか変な苛立ちを覚える。


「別に謝んなよ。

それがあんたの今までなら、堂々としてろ」


少しきつい口調になったが、本当にそう思ったんだ。


「あ、ありがとう……。

やっぱり、遊星くんは優しいね」


いきなりの名前呼びは流石に受け止めきれず、顔をつい下に向けてしまう。


「……別に、普通だろ」


隣から嫌な視線を感じ、横目で見るとじぃちゃんがニヤニヤし伊集院のじぃさんと目を合わせている。


「まぁ、お互い悪くはなさそうじゃな」


「えぇ、大丈夫そうで安心しました」


「それじゃ、遊星お前はこれから18歳の誕生日まで心夏さんと同棲しなさい!」


「………なんだって?」


「だから結婚生活(仮)をするんじゃ!」


「この……クソジジイ!!」


またもや俺とじぃちゃんの取っ組み合いが始まってしまった。

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