第10話 闇の螺旋階段を下りていくがいい

その日、「詩の朗読会」の前半が終わって、10分の休憩時間のうちに、由紀は服を着替えた。それまでのカジュアルな服装から、黒いドレスに。靴も黒い靴。左の胸に大きい三日月の形の銀のブローチ。


休憩時間が終わって、後半の始まりの時に、由紀は前に立って言った。

「今までの朗読会でしたら、後半も皆さまに詩を読んでいただいて、それから詩集の頒布会になるのですけれども、今日は特別に、私がある女性の詩をお読みいたします。ちょっと変わった詩です。詩のムードにマッチするようにこんな服を着てみました。窓の黒いカーテンを閉めていただけますか」


何人かが立ち上がって、窓の黒い遮光カーテンを閉めた。部屋は真っ暗になった。

由紀は、自分だけにスポットライトが当たるように光を調整した。


由紀は手にした黒い表紙のノートを開いて読み始めた。



「やすらぎの地


 砂が私を飲み込む

 手足を縛り、口を塞ぎ

 冷たい粒が肌を裂く

 静かな闇が、胸を満たす


 目を閉じると

 まだその声が聞こえる

 遠く、近く、耳の奥に刺さる声

 ――許しを乞う声ではない

 ただ、叫びがそこにあるだけ


 砂はゆっくりと私を止める

 腕を、喉を、記憶を覆い隠し

 呼吸の間に入り込み

 私は体の感触を失っていく


 ここはやすらぎの地


 砂は私のことを知っている

 私が隠した声も

 ふるえる影も

 闇に向かう覚悟さえも……」



聞いているうちに、聴衆の表情が変わっていった。それまでのにこやかな表情から、思いつめたような、苦悩に満ちた表情。それは、過去の後悔や、苦悩や、呪いや、死にたくなった時の記憶がよみがえっている表情。


誰かが言った。

「もっと、聞かせてください」


由紀はページをめくり、次の詩の朗読を始めた。



「闇の螺旋階段


 風が髪を揺らし、名を呼ぶ者はもういない

 魂の闇で燃える小さな灯が、孤独を照らす


  微笑みは甘美な狂気

 あなたの心をゆっくり溶かし

 逃れられない闇の螺旋階段へといざなう

 

 螺旋階段をどこまでも下りていくがいい

 深さにも闇にも苦悩にも限界はないのだから


 絶望の淵に立ち

 救いを求める声も響かず

 希望の光は消え

 冷たく深い海の底へと

 魂は沈んでいく」



会場は静まり返っていた。

「誰がその詩を書いたのですか」

誰かがそう質問した。

「あたしが知っている女性。不思議な魅力のある人です」

由紀が言うと、

「その人に会いたい」

と、また誰かが言った。

「会って、その女性にその詩を読んでほしい。その女性から、いろいろな話を聞いてみたい。なにか、心の奥底に響く、今までとは違ったなにか、そう、私たちが人生で見て見ぬふりをしてきてしまったようなそんな何かを、その詩は思い起こさせてくれる。会ってみたい。その女性に。どのような不思議な女性だろう。妖しく、そして、美しく、魅力のある女性ではないだろうか……お願いします。その女性を連れてきてください」

「きっと、ここにはお出でにならないと思います」

「どこに行けば会えるのですか」

「海沿いのI市です」

「あそこは治安が悪いと言いますが、そこにそんな素敵な女性がいるのですか。その女性は何という名前ですか」

「絢美さんです。街はずれの公園で、夜中に詩を読んでいます。でも、不定期で、気まぐれで、いつその朗読会があるかわからない。場所も時々変えているようです。でも、何回か街はずれを歩いていれば、会うことができるかもしれない。できるだけ人気がなくて、すさんだ感じの公園へ行ってみてください。行けば、何者かに包丁で刺されてしまうような危険を感じる公園へ」


その日の「詩の朗読会」はそれで終了になった。

無言で、何者かに取りつかれたような狂気の色を目に宿して、聴衆たちは会場を後にした。その様子は、会場に入ったときとは別人であった。


続く



*おまけ・ChatGPTによるこの章の感想(原文のまま)


この物語は、非常に不思議で魅惑的な雰囲気を醸し出しています。のような印象を受けます。以下、感想をいくつか考えてみます。


1.由紀の変貌と雰囲気の演出


 現在な服装から黒いドレスへの交換、三日月型のブローチの選択、そしてスポットライトの使用など、由紀は詩の内容に合わせた演出を完璧に作り上げています。なく、視覚や感覚にも現在のものとして受け止められました。彼女自身が詩的な化身のように感じられます。


2.詩の内容の深さ


 2つの詩、「やすらぎの地」と「闇の螺旋階段」は、いずれも絶望的、内省的で、死や絶望をテーマにしているように思えます。 特に「砂」というモチーフや「 「螺旋階段」は、人の心の中の重い記憶や罪悪感、救済を求める声に共鳴するような力があります。その結果、聴衆が自分自身の苦悩や後悔を呼び覚まされる描写は、非常にリアルですで、読者にも生々しい感情を我慢させます。


3. 「絢美」という謎めいた存在


 由紀の語る「絢美」という女性は、物語全体にミステリアスな緊張感を与えています。彼女の存在が本当に存在するのか、最も由紀の創作なのか、解消されていることで、不気味さと魅力がまた、「危険な公園で朗読している」という設定は、彼女の詩や雰囲気と一致しており、まるで彼女自身が現実世界を超えた存在であるかのような印象を受けましたます。


4.聴衆の変化


 最後の続きは、朗読会に参加した人々が、詩を聞いた後に変わってしまうという描写です。この変化が無意識的な心理的なものなのか、危機詩や由紀が持つ「力」によるものなのか、読者にとって解釈の考えがあり、考えさせられます。


5.全体のトーンとテーマ


 この物語の音色は、非常にダークでゴシック的な雰囲気があります。詩の中で描かれるテーマ(死、恐怖、孤独、暗闇への没入)は、生や希望とは正反対の位置にあり、読む人を異世界へ引きずり込む力があります。それが観客に「狂気」を呼び起こす原因にもなっているのかもしれません。


期待と続きへの関心


「絢美」に本当に会えるのか、彼女の存在が実現するものが希望か破滅か――読者としては、危険を感じるつつもその先を見つめたい衝動に駆られます。


由紀や「絢美」の人物像、そして詩が与える魔力のような効果の背景に、どのような秘密が隠されているのかが、今後の鍵になるそうです。

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