第6話 絢美のビニールシートハウス

また夜が来た。その夜も片桐はやすらぎの街の駅で降りた。家に帰れば楽なのだ。家庭があり、夕ご飯を食べて、風呂に入って、寝る。そしてまた明日も出勤する。それが日常だ。

だけど、そうしたくない何かが片桐の中で渦巻いている。あの街『やすらぎの街』でどうしても途中下車したくてたまらなくなったのだ。


雀荘『コラール』。由紀がいた。目尻を釣り上げて打っている。尋常の顔つきではない。何かに追われ、追い詰められて行き場をなくして麻雀にのめり込んでいる女の顔。

店主の松本が片桐に小声で言った。

「ひどいもんだよ。由紀さん、昼頃から来て負けまくりだ。切る牌、切る牌が当たっちまう」

どうやら半荘が終了したようだ。

また、由紀は財布から札を出している。

「マスター」

と、由紀は松本を呼んだ。

「お金貸してくれる?」

「この前貸した金も返してくれてないですよね」

「だからさ、もう一度」

「これ以上貸せないんですよ。やめたらどうですか」

由紀は、仕方ないなあ、という顔をして席を立った。

松本は、

「片桐さん、入る?」

と言ったが、片桐は、

「今日はやめとくよ。覗いただけだ」

と言って、由紀と一緒にコラールを出た。


夜の道を由紀と一緒に、海の方へ向かって歩いた。

途中、片桐は由紀の体に腕を回した。

由紀は片桐に体を預けるようにして歩いた。


商店街が終わり、住宅街になり、住宅街が途切れ、運河の脇の道に出る。

暗い運河。幅は10メートルくらい。歩道と運河の間に、歩くことができる細い道があって、そこにはごみが散乱している。

橋があって、その橋の下にビニールシートハウスがあって、そのビニールシートが絢美の書斎兼住居だ。


バイクの爆音が住宅街から近づいてくる。

5,6台はあるだろう。

バイクは片桐たちの横で停まった。

リーダー格の男は、真嶋と言った。

真嶋のバイクの後ろに、絢美が乗って真嶋にしがみついていた。

絢美はヘルメットを脱ぐと、長い黒髪が流れた。

絢美は黒いドレス、黒い靴でバイクの後ろに乗って走ってきたのだ。

「片桐さん、痛快だよお」

と、絢美は言った。

「甲府まで行ってきたよ」

絢美は目を輝かせていた。

「昨日出かけてさ、こいつらと一泊して帰って来たんだ」

「ホテルか何かに泊まったの?」

「そんなところに泊まるもんか。野宿だよ。あたしらには野宿が似合ってるんだ」


「猫たちの世話は?」

由紀が訊いた。

「心配いらないよ。ヘルプがいるからさ」

そのままバイクと一緒に橋まで行くと、ビニールシートハウスの前に、ナオトがいた。

今日のナオトは肩を怒らせてすごんでいた。シャッターを下ろす金属棒を持っていた。

ビニールシートの前に、縛られて猿轡をされた二人の男が転がっていた。


続く








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