第5話 街のゴミ
深夜……。
ふらふらとよろめいて歩く男がいた。
男は、街灯にもたれて、
「何もかも終わりだ」
と言った。
その街のはずれを、その頬のこけた男は、幽霊のようにさまよい歩いた。
「このまま朝が来なければいい。朝が来たら、俺はまた苦しい日常生活に戻らなければならない……本当に死ねないものか。死んだ方が楽なのだ」
「殺してあげようか」
女の声がした。
男が声の方を見ると、幅の広い帽子をかぶった黒ずくめの髪の長い女だった。若くてきれいだが、まなざしだけは異様に鋭かった。
「冗談を言うな。お前に俺が殺せるものか」
そう言って男は、眼を疑った。
女は拳銃の銃口を男に向けていた。
「よせやい、そんなおもちゃなんか」
女は引き金を引いた。
銃声。
銃弾は男のほほをかすめた。男のほほに血の筋ができた。
女……絢美のの足元に何匹もの猫が集まってきた。
男と女。そして段ボールを抱えた若くて丸っこい男が女の後ろに立った。
男は、片桐。女は、由紀。
由紀は片桐にしがみつくようにして、震えあがっている男を見ていた。
丸っこい男は、ナオトと言った。ナオトの抱えている段ボール箱にはあふれるほどのキャットフード。女が飼っている猫たちに、心優しい人々が持ってきてくれた善意のキャットフードだった。
「助けてくれ。助けてくれ」
男は這いつくばって、命乞いをした。
「お前はなぜ死にたい」
絢美は銃口を男に向けたまま訊いた。
「何もかも終わりだからだ。金も失い、妻にも逃げられ、大勢の人から憎まれている。もう何をしてもダメだからだ」
「そうだ、おまえは役立たずだ」
「もう生きていても何の望みもないんだ。だから死にたいんだ。楽になりたいんだ」「楽にしてあげようじゃないか」
「やめてくれ、やめてくれ」
絢美の拳銃が火を噴いた。
二発、三発……。
男は地面にねじれるような感じで倒れた。
二度と動かなくなった。
「こんな奴、街のゴミさ」
絢美は拳銃をバッグに入れると、
{ナオト」
と言った。
ナオトはスマホで誰かに連絡を取った。
少しして、数台のバイクと改造車が来た。
改造車から出てきた男は、死体を見ると、
「絢美さん、今夜もいいことをしたね。またこの街が少し住みやすくなったじゃないか」
と言うと、仲間たちに顔で合図をした。
男の仲間には若い女も混じっていた。
彼らは死体を持ち上げ、改造車のトランクに入れた。
「俺たちはゴミ収集業さ。こうやって街のゴミを回収しては捨てに行くんだ。あんたらも回収されないように気をつけなよ」
改造車の男は、片桐と由紀にそう言うと、改造車に乗り込んだ。
バイクと改造車はけたたましいエンジン音を響かせながら去っていった。
続く
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