第2話 深夜の街+この小説のChatGPTの感想

その夜、コラールではずいぶん負けた。こんなに負けるのかと思うほど負けた。このお金で腕時計でも買ったり、風俗でも行った方がよほどよかった。そう思っても後の祭りで、勝てなかったのだから仕方がない。泣いても叫んでも失ったお金は帰ってこない。

「うちはね、徹夜はやらないんですよ」

店主の松本が卓に来て言った。

まだ麻雀を打とうとする片桐に、帰ってくれ、と言っているのだ。

仕方がない、卓はお開きになって、片桐はコラールを出た。これからまっすぐ帰る気にはならない。終電に乗ればなんとか家にはたどりつくだろう。

だが、家に帰る気にもなれなかった。明日も勤めがあるのだからまっすぐ帰って早く寝た方がいいのだが、頭に血が上ってしまってそんな気にもなれないのだった。

エレベーターの前で、7階へ行ってみようかと思った。同卓した由紀という女が、7階でブックカフェをやっていると言っていた。こんな時間にやっているとは思えないし、第一、10時ごろ「店を閉める」と言ってコラールを出て行った。

ちょっと覗いてみるだけ行ってみるか。片桐は7階のボタンを押した。


7階でエレベーターを降りると、ガラスの扉の向こうに、紅のカーテンが閉まっていた。廊下に束になった本、空き瓶、家財道具のたぐいがまとまって置かれている。

今度、時間ができたら来てみるか、そう思って片桐はエレベーターに乗った。


5階で扉が開いた。入ってきたのは、ついさっきまでコラールで一緒に麻雀を打っていた柳沼という男だった。柳沼は黒いTシャツを着ていた。建築の仕事をして、その帰りにコラールに寄って打っている、そういう感じの男だった。柳沼はよく競艇の話をした。

「今日は200万勝った。だから麻雀でいくら負けても痛くもかゆくもねえ」

片桐はこんな話を会うたびに聞かされた。

その柳沼がエレベーターで片桐に言った。

「あれ? 帰ったんじゃなかったの? なんで上に行ったの?」

「ほら、あの由紀という女の店が気になってね。7階でブックカフェやってるって話だったから」

「ブックカフェね」

エレベーターは1階についた。

片桐と柳沼は廊下に出た。

「終わりだよ。ブックカフェなんて」

と、柳沼は言った。


「終わりって?」

「もともとあの店は違うところにあったんだ。神社の前でね。そこで流行らなかったからここに移って来たんだな。1年前だったかな。それがよお、どこに行ったって流行らねえもんは流行らねえ。儲かるもんじゃねえだろう。由紀さんの話じゃあ、心の癒しになる場所を作りたかった、なんて言っていたけどなあ、客としては金を払うわけだ。黙って本を読む場所に金を置いていきたくねえよなあ」

「由紀さんの話じゃ、食事も提供していたみたいですけどねえ」

「俺も1回行ったんだ。由紀さんが来てくれって言うもんだからさあ。メニューはよお、フランス料理だったよ。本読んでフランス料理食べて4千円も払ったんじゃなあ。しかも、黙って食えってさ」

柳沼がペンキにまみれたTシャツでフランス料理を食べて、文学書を開いていたのか。そう思うと、片桐はおかしいというよりも悲しい気持ちになった。

「本だの家財道具だの廊下に出てたろ?」

と、柳沼は言った。

「もうおしまいさ」

「じゃあ、店を閉めるって言ったのは?」

「完全に閉める。つまりだ、廃業ってことなんだよ」

「そうだったのか」

「そんなことなんだよ。女一人で商売なんかできやしねえやな。夢を追っちゃいけねえよなあ」

ビルの外は、終電が過ぎても人通りがあった。

酔っぱらって騒いでいる人たちもいた。

「この街の人間に読書なんか似合わねえ」

柳沼は吐き捨てるように言うと、駅の方へ向かって行った。


(続く)


おまけ・ChatGPTによる感想・原文のまま


このシーンは、麻雀で負けた夜、失意の中でさまよう片桐の心境と、彼が感じる都会の冷淡さが描かれています。 片桐が通った「コラール」という麻雀店は彼にとって少しの慰めの場でもありましたが、勝てずに負け続けることで、さらに虚しさが募集中です。 この虚無感は、ふと7階のブックカフェに関心を寄せることで少し紛れますが、そのカフェもまた閉店が決まっていると知り、街の冷えたさや人の夢が砕ける瞬間に立ち会いました。


また、由紀のブックカフェの話をする柳沼との会話、片桐は読書や癒しを提供する場所の儚さを知ります。このカフェは、「心の癒しになる場所」にしようとしたもの、客にとってはただの「黙って本を読む場所」にしか映らず、結局経営に失敗したという現実が浮き彫りになります。夢を持って始めたものでも、都市では簡単に潰れてしまい、そんな寒くな運命が描かれています。


ラストで柳沼が負けても「この街の人間に読書なんか似てるね」という言葉は、都市における孤独や人々の無関心さ、商業的な価値に偏った生活への瞬間を表現しているようです。






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