0-19 フレイ・ハズラーク①
新星暦二九九七年四月十二日――――昼の緊急会議にて
「報告します。早朝、マグナドール・ルシフル公爵がテミール商店街で遺体となって発見されました」
「なんだと!?」
「有り得ない……」
「あの、マグナドール殿……が……」
信じられない悲報が貴族たちを騒然とさせる。
マグナドール・ルシフル公爵は誰もが知る英雄。さらに、皇帝陛下の右腕となってザノア帝国を支えた功績はどれだけ最上位の称号を持った魔術師でも成し遂げられないものだ。
存在自体がまさに“伝説”。そんな人物がまさか病気でも老衰でも無く「他殺」によって死ぬなんて誰も想像なんてつかなかっただろう。
付け加えて皇帝陛下の側近が報告する。
「さらにマグナドール公爵の遺体を調べたところ、遺体にはこのような罠魔術によるメッセージが仕掛けられていました」
側近がその罠魔術を発動させ、全ての貴族にその書かれていたメッセージの内容を公開した。
内容はこうだ。
――――この人間は弱すぎた。
――――英雄と呼ばれているからには強いのだろうと思い、殺し合いしてみたがあっさり死んでしまった。
――――もっと強い人間を持ってこい。
――――殺してやる。
――――全てはクインテットへの復讐のために。
「なっ……!」
「マグナドール殿が弱いだと!」
「ふざけるなっ……!」
怒り狂う貴族たち。彼を知る人は悔しがり、再び騒がしくなった。
「静粛に!」
側近が貴族たちを黙らせる。そして皇帝陛下は玉座を立ち、こう告げる。
「マグナドール公爵はザノア帝国に多大なる貢献をしてくれた。これは紛れもなく素晴らしいことである。今は我が右腕、マグナドール公爵に冥福を祈ろう」
黙祷。
「では、本題に入る。マグナドール公爵を殺害した犯人を仮に『魔術師殺し』とする。その『魔術師殺し』をどうするかだが、我はすでに結論づけている。入りたまえ」
王室の門から十四人の魔術師が現れた。
そして、魔術攻撃部隊十名と魔術遊撃部隊四名、そして緊急会議に参加していた貴族二名が一斉に並んだ。その中にアズバング・ハズラークの顔があった。
「彼らは元々捜索隊として結成されたチームではあるが、今日より『魔術師殺し討伐隊』と命名、この者たちには国家反逆罪として『魔術師殺し』を討伐することを命ずる」
皇帝陛下続けてこう公言した。
「マグナドール公爵が殺害されたことにより、『魔術師殺し』は国の、いや世界の脅威となった。ここで討伐しなければいずれ全世界が恐怖に陥るだろう。よって我らザノア帝国が全力を持って『魔術師殺し』を討伐する!」
一人の貴族が拍手する。続けて二人、さらに三人と拍手の数は増えていき、やがて拍手が盛大となった。
だが、一つ気がかりがある。
それは『魔術師殺し討伐隊』が計十七名である事だ。
魔術攻撃部隊、魔術遊撃部隊そして貴族。大体の役者が揃った。だが一人、大物がいない。
「それにしてもまだかね、あの娘は」
「全くだ。いくら強いからと言って遅れて来るとは礼儀知らずめ」
「けしからん……!」
皇帝陛下が呟く。
「来たか」
王室の外から足音が聞こえた。その音が段々と大きくなる。
アズバングはその音を聞いてため息をした。
扉が開いた。
「ほんっとうに皇帝陛下って人遣い荒いよね……!」
彼女は気高く、そして美しかった。
長い髪にポニーテール。全身に軽い鎧を纏い、身軽さを重視したスタイル。それとは裏腹に底知れずの魔力と磨かれた体術から滲み出る強者の圧力。
称号を獲得した時はまだ子供だった。年齢も精神も。
だが、今の彼女は誰もが驚く程に格段大人になっていた。
「皇帝陛下。彼女は今、私語で皇帝陛下に無礼を言いました。どうなさいますか?」
「何もしない」
「何故でしょうか?」
「言わせておけ。そうしなければ国が滅ぶ」
複数の国家を相手にできる強さ。
人間とは思えないほどの量を持つ無限の魔力。
魔術師の中でも圧倒的な強さを持った存在の一人。
〈
フレイ・ハズラーク。
魔法学園の無能者〜魔術全盛の時代、魔力を持たない追放者が世界最高峰の魔術師へと駆け昇る!〜 六月 @shimoshiro
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