0-11 ドラゴン討伐③


「オレは最初っから全開フルパワーだ……!!」

「ガルララララララララララ……!!」


 ドラゴンとの対峙。互いに距離を開けながら様子を伺う。

 オレは奴の出方を待つ。まず奴はどんな魔術を持っているのかわからない以上、こっちから攻撃するのは不味い。


 と、奴から攻撃を仕掛けてきた。

 ドラゴンの口から魔術陣を展開。そこから大気中の水分と振り続ける雨がその魔術陣に集まってくる。


 その純水の塊は空気や不純物は見つからず、ただただ奴の魔術と降り止まない雨によって拡大していく。


 そして、奴が作った純水はオレ一点に向けられ、放出された。この魔術は……。


「舐められたもんだな……」


 中位魔術〈水の砲弾アクア・シェル〉。水分を極限まで集め、放出される単純な魔術。その威力は膨大で当たればほぼ死に至る強力な魔術だ。

 その反面、命中率はかなり低い。だいたいの敵は避けられる。だが、放たれた純水の塊は避けられたあとも地面にぶつかり、全面洪水のように水浸しとなる。


 じゃあ、オレはどうするか。避けるか?

 いいや、避けない。真正面から立ち向かってやる。


 フレイから教わったこの剣術でな……!


「とりあえず降りてこい……!」


 オレは奴の魔術に当たる直前木刀を下から振るった。

 洗練された剣術はたとえ、手刀だろうが木の枝だろうが通ずるもの。


 ――――さあ、始めようか。


 すると、オレは魔術を跳ね返した。粒一つ零すことなくオレは奴の魔術をそのまま返してやった。


 これはオレがフレイに鍛えられ、そして伝授されたハズラーク家伝統の剣術。その名は――――


「光の剣術“【秘剣】魔術返し”……!!」


 奴に自身の魔術が直撃。奴は「ガルララ……」と鳴きながら地面に激突した。

 オレはその一瞬を逃がさない。空中戦じゃあオレは奴に敵わないだろう。だが、地上戦はオレに分がある……!


 オレは奴が落ちたところまで走る。森の木々を掻き分け、辿り着く。すると――――


「は……?」


 奴はオレが来ることを読んで魔術を放ってきた。

 さすが、ドラゴン。知能も高い……!


 そんなことも言ってられない。オレには今、最低位魔術〈水の砲撃アクアブレイク〉が襲いかかっている。その水の砲撃は通常と比べてかなり大きい。


 最低位魔術は基本致死率がかなり低い。だが、術者や状況によってその致死率は一気にひっくり返る。

 今はまさにその致死率はかなり大きい。確率で言うならざっと八割と言ったところか。


「……!!」


 この距離ではもう先程の剣術は使えない。かと言って、この最低位魔術をまともに食らうのもかなり危険を伴う。こんなの、避けるしかない……!!


「うおぉぉおおおお……!」


 最低位魔術〈水の砲撃アクアブレイク〉は水の塊をそのまま放つ魔術。そう、勝機はそこにある。


 上に跳んでもとんでもない跳躍力が無ければ避けることはできないだろう。

 なら両端はどうだろうか。この大きさでは無理だ。たとえ横に跳ぼうとしても先程のように跳躍力が必要となる。


 だからオレはこうした。


 当たる直前、オレは後ろに跳ぶ。別に後ろにいこうとして跳んだんじゃない。ここからがオレの策だ。


 水玉がこちらにくる。オレのお尻が地面についた。

 足が水玉に当たろうとした。だが、足もお尻がついた段階で地面についていたことで当たらない。

 次に腹が水玉に当たろうとする。でも、オレはお尻が地面についたことで勝手に背中が地面に引き寄せられ、水玉を間一髪で避けることに成功。

 背中の次に頭を地面に引き寄せられるので〈水の砲撃アクアブレイク〉をスレスレに躱し、避けることに成功。

 あとは、後ろに跳んだ衝撃と腕を頭に置いたことで俺の体はひっくり返り、そのまま立ち上がった。


 え、何をしたかって? ただの「後転」だよ。


「グルルルルルル…………」


 ドラゴンがこちらを睨んでくる。

 やがて雨は上がり、再び太陽が森全体に照らした。


 そんなに睨むなよ……。


「ガララララララララララ……!!」


  ドラゴンは起き上がり、雄叫びをあげた。その様はさすが最上位の魔物。圧倒的な気迫だ。

 だが、オレには通じない。


 そんなに睨まれたら……オレ……。



 奴は先程の魔術返しで翼が故障したようでこのまま挑むようだ。

 奴が突進してくる。

 確かにお前の体格と重量だけなら、オレは敵わないだろう。


 でも、オレは魔術師だ。


 オレは突進してくるのを利用して半身で躱し、奴の足を一本、木刀で斬ってやった。突進の際、急に止まることなんてできないからな。


「ガララララ……!」


 奴の重心は崩れ、倒れた。奴はまたオレの方に向き、また睨んでくる。


 辞めてくれ。

 ――――オレ、殺したくなるだろ……?


 オレはこの時、このドラゴンのことを甘く見ていた。

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