0-9 ドラゴン討伐①


 ――――五年後


 新星歴二九九七年一月七日


 あれから特訓してきた。毎日がキツい日々であったけど、それでもオレは挫けずに鍛錬を欠かさなかった。


 そして五年間、フレイとアズバングさんの三人で暮らしてきてわかったことが一つある。

 それはフレイの頭がおかしいということだ。


 確かにフレイは強い。魔術も使えて、未だにオレは剣術でフレイに勝てていない。本当にすごい人だ。


 尊敬できる人ではある。でも、人に教えるとなると話は別だ。


「ハア、ハア、ハア……」


 フレイは頭がおかしいと言う理由なんて簡単だ。


「ガルラララララララララララ…………!!」


 今、オレはドラゴンと戦っているのだ。

 ただ戦っているわけじゃない。


「あの、鬼師匠が――――……!!」


 オレは一本で戦っているんだ。


 ※※※※※


 ――――新星歴二九九七年一月四日


「ノア……! ちょっとおいで……!」

「……チッ。なんだよ」

「あー、今舌打ちした……! 師匠に対して舌打ちした!」

「チッ……。してねえよ」

「あ、またやった……!」

「で、なんだよ? 突然呼び出して」


 フレイがオレを突然呼び出すことなんてほとんど無い。急に呼び出すということは……。


「あのね……。さっき、仕事が入ってきたのよ」

「うん。それで? どんな仕事なんだよ?」

「最近東の村で作物が採れてないこと知ってるよね?」

「……うん」

「それがどうやら付近のドラゴンが不要位に雨を降らしてたみたいで……」


 高位魔術〈突然の豪雨サドン・レイン〉。空気中にある水分を集め、それを雲として具現させて雨を一気に降らす上位の魔術師でも不可能な芸当だ。

 だが、ドラゴンは最上位の魔物。天候を変えるなど容易い話だ。


「それでね? 一つお願いがあるの?」

「断る」

「なんでよ! ちょっとぐらい聞いてよ!」

「……なんだよ」


 急にオレを呼び出す。それは……。


「そのドラゴンを倒して欲しいの」


 オレに仕事を振る時だ。


「嫌だよ。それはフレイの仕事だろ? 受けてこいよ」

「無理」

「……なんで?」

「それは……」

「……それは?」


 なんか特別な理由があるのか? 今まで正当な理由でオレに仕事を押し付けたことなんて一つも無い。今日もどうせロクでもない理由……で……。


「それは……ね……」


 フレイの目が潤い出す。こんな表情でお願いされたことなんてなかった。

 今日こそ……正当な理由なのか?


 するとフレイはこう叫んだ。


「私は限定スイーツが食べたいからなの!」

「……は?」


 はァ……。またこのパターンか。


「だから、ね……? 代わりに言ってくれない?」

「いや、フレイがサボりたいだけだろ。なんでオレが行かなきゃいけないんだよ」

「あ、またそう言うの――――……!?」

「ああ。何度でも言ってやるよ」

「ふーん……。だったら私にも考えがあるの」

「なんだよ……?」


 言うことはもうとっくに知ってる。


「稽古、つけてあげないから」

「それ何回目だよ」

「いいよ、君がそう言うなら。私、本気だから」


 うわ。めんどくさ。


 毎回これだ。これでオレは何度死にかけたか。

 ……でも、オレは甘い。決して言いなりになっている訳じゃないけど毎回フレイの仕事を引き受けてしまう。……世話になってるしな。


「……わかったよ。今から行ってくる」

「大丈夫? 村まではかなり遠いよ?」

「三日あれば着くだろ。討伐の期日なんか無いんだろ? 簡単に馬車なんて使ったら体が訛ってしょうがない」

「そう……。気をつけてね」

「おう」


 オレは遠出の支度をする。まずは財布だな。金が無いと何も出来ねからな。あと、野宿用に火属性の魔晶石と……。

 あとは武器にオレの愛剣……あれ? 剣が見当たらないぞ。


「フレイ……? オレの剣知らないか?」

「ん……? ああ、あの剣? ボロボロだったから売ったよ」

「……は?」


 何してくれちゃってんのおおぉぉぉう……!!


「あの剣が無いとオレ、戦えないんだけど」

「君ならいけるでしょ。何度もドラゴンを倒してるんだから」

「いや、あの剣があったからかろうじて勝てたんだよ……! だから今回も持っていきたかったのに……」


 やる気無くしたわ。オレは三角座りで落ち込む。

 すると、フレイがオレの肩を叩く。


「ドンマイ……!」

「いや、ドンマイって……。全部フレイのせいだ――――」

「安心して! 新しい剣買ってあるから! ほら……!」

「……………………」


 おお、なんと素晴らしい。このキメ細やかな刃に、持っている手が傷つかないように楕円形に削っている柄。そして全体が茶色でなんと言っても軽い……! ……って――――


「木刀じゃねえか……!」


 オレは思わず地面に投げつけた。


「これで戦えるか……!!」

「頑張って……!」

「これでどうやって倒せと……!」

「頑張って……!」

「ドラゴンが強いのは知っ――――」

「頑張れ」

「……………………」


 ダメだ。聞く気ないわ。くそ。


 オレは木刀を拾い、背負った。フレイは稽古の一端で木刀を買ったのだろう。だからこれ以上は黙っておこう。


「――――行ってきます」


「いってらっしゃい」


 とりあえず、ドラゴンを倒してくる。

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