0-8 オレは魔術師になる


「君に魔力は無いの。つまり君の魔力の数値はゼロなの」

「え……?」


 ボクはその言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になり、体全身の力が抜けた。


 魔力が無い? どういうこと? よくわからない。何言ってるかわからない。

 わからない。わからない。わからない。わからない。

 ――――わからない。


「だから……君は生まれた時から魔術が使えないの」

「…………」


 ボクがなぜ魔術が使えないのか。薄々わかっていた。

 魔術は魔力を媒体とし、色々な形を変え、具現化する異能の術。どれだけ小さい魔力でも魔力さえあれば必ず使えるものだ。


 ボクは持っていなかった。だから使えなかった。

 簡単だろ? なのにボクは無意味に魔術の特訓をしていた。必ずあると信じて頑張ってきた。


 努力した。

 でも、そんなものは全て意味がなかった。


 闘技場に毎朝通っていたこと。

 魔導書を読み漁ったこと。

 詠唱を覚えたこと。


 ――――ボクは、魔術師にはなれない。


「でも君は魔術師になれる」

「……は?」


 フレイさんがおかしくなった。


 あんた、さっき魔力が無いって言ったよね?


「何を言ってるんですか? ボクは魔力が無いんですよ? 魔術師になれる筈ないじゃないですか?」

「君は魔術師になれる。君にはその才能がある」

「……何言ってるのかわからないんですけど」

「別に私は、魔術を使う魔術師になれ、なんて言ってないよ?」

「じゃあどうやって魔術師になれって言うんですか?」


 フレイさんが急に詠唱を始めた。


「剣聖よ、我フレイ・ハズラークより貴殿の魔剣を欲する。洗練された鋭い刃、燃え盛る炎を授かりし魔剣を我が元へ……。顕現せよ……! 〈豪炎の魔剣イフリート〉……!」


 地より魔法陣が出現、そして地中から魔剣が現れた。


「フレイさん、その魔法って……」

「え? うん。これは私の天性魔術、《魔剣生成ソードマスター》。あらゆる魔剣を生み出せる、私だけの魔術だよ」


 天性魔術。

 それは生まれながらにして保有しているその人だけの特別な魔術。その魔術を持つ者は、最低位魔術や高位魔術など訓練すれば誰でも繰り出せる『基本魔術』とは違い、それとはまた別の強力な魔術を放つ。


 でも、そんなものを見せつけられても困る。


「その魔術でボクは魔術師になれるんですか?」

「なれないよ。だってこの魔術は私だけの魔術だもん」

「じゃあ、なんで魔術を使ったんですか?」

「ふふーん。私が見て欲しいのはそっちじゃないんだよね」


 フレイさんは魔剣を見せびらかすように魔剣を手に取って刃先をボクの方に向ける。


「剣……?」

「そう……! 君には私の剣術を学んでいただきます……!!」


 この人、やっぱ頭おかしい。

 魔術師になれると言っておきながら、教えるのは剣術。魔術とは全くかけ離れている。


 それに魔術師が優位に立つこの魔術全盛の時代に、剣術なんて古臭すぎる。


 無意識に溜息が出た。それにフレイさんは頬を膨らませる。


「もぉーっ! 信じてないなー!」

「信じるも何も、ボクは魔術師になりたいのになんで剣士にならなくちゃいけないんですか」

「君、もしかして知らないの?」

「え?」


 知らない、とは……?


「魔術師はね、中距離ミドルレンジから味方を援護する『援護者サポーター』、遠距離ロングレンジから敵を射つ『狙撃手スナイパー』、そして近距離クロスレンジから攻める『攻撃手アタッカー』の三つの役割があるの。君にはその『攻撃手アタッカー』になってもらいます」


 知らなかった。


「でも、魔術は最低限必要なんだけどね」


 おい。


「意味無いじゃないですか」

「チッチッチッ……。君は考えが甘いねぇ」

「何がですか?」

「『魔術師』って言えばいいの! 魔術師になるための試験なんて無いんだから……!」


 それで通じると思ってるのか……!


 でも……。もしそれで魔術師になれたとしたら……。


「……ボクは見返すことができるでしょうか」

「勿論だよ……! 君にはそうなれるポテンシャルがあるんだから……!」

「でも……。ボクの兄、ダイア兄様はライトマン一家の跡継ぎで、将来は大陸最強の魔術師になれるほどなんだよ。だから……ボクに見返すだ――――」


 フレイさんがボクの両頬を摘んだ。


「最後に聞くよ。君は魔術師になりたいの? なりたくないの?」


なりたいですあひはひへふ……!」

「どうして? 君は見返すために魔術師になりたいの……?」


 見返すために……? 確かに恨みはある。でもボクはそれだけで魔術師になりたいと思っていたかといえば、それは違う。

 ボクは……。


 フレイさんの摘まれている両手を振りほどいてこう言った。。


「なりたいからなりたいんです……!」


 理由なんて簡単だ。ボクが魔術師に、魔術師として活躍するお父様に憧れてしまったからだ。だからボク、いや……。


「オレは魔術師になる」


 その言葉にフレイさんはニコッと笑いこう僕に告げた。


「じゃ、明日から特訓だ……! 言っとくけど私の特訓はかなりキツいよ……! 覚悟しててね!」

「上等だ……!」


 こうしてオレは魔術師になることを決意した。

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