0-6 私の弟子にする!!


「今日から君は私の家族だ……!!」

「は……?」


 ハズラーク家。

 レミリス王国の東位置する隣国、ザノア帝国のごく一般的な辺境貴族。だが、ここ数年は数多くの多大なる功績を残したとして最低位の爵位の男爵から、上から二番目の爵位、侯爵へと成り上がった今勢いのある貴族である。


 そんな貴族がこんな落ちこぼれのボクを引き取るなんて考えられない。

 なにか裏があるはずだ。


 ボクはフレイさんを警戒する。フレイさんはそんなボクを見て、窓の縁に体重を乗せて首を傾げた。


「何か聞きたいこと、あるの?」

「……いえ」

「隠さなくてもいいよ。君の事情は君のお父さんから聞いてるから」

「……じゃあ、なんでボクを引き取ろうと思ったのですか?」

「頼まれたからね」

「……………………」

「……………………」

「……え、それだけですか?」

「それだけだよ。逆にそれ以外の理由なんてないじゃん」

「いや、ケノア公爵が追放するのになにか裏があると思って」

「裏なんて無いよー。そんな、家族に裏なんてあったら家庭崩壊するじゃん!」


 そう言って笑い、テーブルに戻って再び夜ご飯を食べ始めた。


 フレイさんはただただ物好きなのだろう。その笑顔は裏の顔とは思えず、実年齢より若く思えるほど無邪気だった。


 ボクもご飯を食べる。やっぱり美味い。このパンとスープが超絶似合っていて、そこにハンバーグの肉汁を入れることでさらに美味さが引き立つ。

 サラダはこの油の多い食事をヘルシーに口直しできるから、食べやすい。


「美味しい……?」

「うん……!」

「やっぱ可愛いー……!!」

「……!!」


 くそ。つい隙を見せてしまった。


 フレイさんがボクにニヤニヤ笑ってくる。本当に辞めて欲しい。ボクはそこまで子どもじゃない。


「……ねぇ?」

「……なんですか?」

「私と君は家族なんだから甘えていいんだよ?」

「……良いです」

「どうして?」

「そんないきなり『家族だ』と言われても実感無いし、それに……ボクは居候の身、ですから……」

「そんなこと考えなくていいよ! 君はまだ子供なんだから!」

「でも……――――」

「おーい、開けるぞ」


 ここで部屋の扉が開いた。屈強な男が部屋に入る。誰?


「あら? あなた……! お帰りなさい!!」


 あなた……? フレイさんは結婚していたのか。


「おっ、起きたのか」

「そう、今日ね。やっと起きたの。だから今日はここでご飯食べてるの」

「そうか。なら俺もここで食べるとするか」

「わかった……! じゃあ、私がご飯取ってくるねー!」

「ありがとう、フレイ」

「いえいえー……!」


 フレイさんがこの部屋をとび出す。そして、男はボクのところに行き、もう一つの椅子に座る。


「初めまして、だね。俺はここの当主、アズバング・ハズラークだ。よろしく頼む」

「は……? 当主……?」

「何かね……? 俺が当主なのが不安なのか?」

「いやさっき、フレイさんが自分の事を『当主』って言ったから」


 アズバングさんは溜息をした。


「なんで溜息をするんですか?」

「いや……フレイは昔から面白そうなことに嘘ついたり、誤魔化したりする癖があるんだよ。君に対して溜息したんじゃないよ」

「……そうですか」


 「まだ治ってなかったのか……」と頭を悩ませて呟くアズバングさん。苦労してるんだなぁ。


 しばらく経つとアズバングさんはボクの方に振り向く。ボクはその目でビクッと反射する。


「改めて言おう。俺がここの本当の当主、アズバング・ハズラークだ。普段はここの領主としてこの街を運営している。君の名前は?」

「ノア……ライトマンです」

「……そうか。君がケノアのむす――――」

「あなたー……! ご飯だよー!!」


 フレイさんが突然部屋に押し込んだ。というのもアズバングさんのご飯を持ってきてくれただけなんだけど。


 ボクとアズバングさんは突然の事でビクッとなる。


「フレイ……君はどうしてそう落ち着きがないんだ? ノアくんだって驚いているじゃないか」

「あ、ごめーん! 男の会話、邪魔しちゃった?」

「そういうことを言ってるんじゃないよ。もっと静かにできないのか?」

「いいじゃない。ノアくんだって楽しい方が良いでしょ?」

「……正直、心臓が止まるかと思いました」

「あ……ごめんね。びっくりさせちゃって」

「……いえ」


 アズバングさんがまた溜息をした。フレイさんはアズバングさんの料理を置き、自分の席に戻る。


「ありがと」

「……いえ」


 アズバングさんは頭を抱えながらもお礼を言った。


 ボクらは食事を共にした。でも、何だろう。

 気まずい。ずっと無言でただご飯を食べる。美味いのは美味いが、どこか違った美味さを感じた。


 しばらく経つ。ボクとフレイさんは料理が食べ終わり、アズバングさんがスープを飲み干すところ。


「そうだ……!」


 フレイさんが急に立ち上がった。その時、アズバングさんはスープを吹いてしまう。

 そしてフレイさんはそんなこと事を気にせずにこんなことを口に出した。


「ノアくんを今日から私の弟子にする!!」

「……は?」


 この言葉がボクの物語の始まりだった。

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