0-5 出会い
「おっ、やっと起きた……!」
目を覚ますとそこは、とある屋敷の中だった。
ボクはふかふかのベッドで寝ていて、隣に若い女の人が座っている。
すっと体が引き締まっており、見た目も凛としていてどう見ても美しい大人の女性だ。
とりあえず起きよう。そう思って上半身だけ起こしてみる。
「痛っ……!」
「ちょっと、まだ安静にしてて。まだ傷は完治できてないんだから」
体全身が痛い。昨日のことはドラゴンに襲われたっきり何もあまり覚えていない。
とにかくここ、どこ?
「あの、ここどこですか?」
「屋敷だよ」
「見ればわかります。だから、ここはどこの国のどの屋敷なんですか?」
「この国のお偉いさんの屋敷だよ」
「それは見た感じ、察しがつきます。だから、ここの国の名前は? ここはどのお偉いさんの屋敷なんですか?」
「帝国の貴族様の屋敷だよ。ちなみに私がここの当主」
なんだこいつ。さっきから全然言葉が通じてない。
帝国はボクの住んでいたレミリス王国の隣国に二つ存在するし、貴族なんて広すぎて答えになっていない。
「あの、真面目に答えてくれませんか?」
「え、私がふざけてると思うの?」
「はい」
女の人は立ち上がり、背伸びする。
「もう大丈夫のようだね。あぁぁ、良かった良かった」
「あの……」
「じゃあ、夜ご飯できたらまた来るからその時ゆっくり話そうね」
「ボクの質問……」
「バイバーイ……!」
ボクの言うこと全て無視してどっか行きやがった。なんだそれ。
布団に潜る。
ボクはなんでこんなところにいるのか? どうしてボクに親切にしてくれるのか? どうして、魔術で治療していないのか?
わからないことが多い。不安な点も数多くある。
けど、今はここで泊まらせて貰う他ないだろう。
そう怪しむボクの視界は徐々に薄暗くなり、やがて眠りに入っていた。
※※※※※
「少年……!!」
突然さっきの女の人が扉を全開に開けた。ボクはその音で起きる。
「……なんですか?」
「夜ご飯持ってきたよー!!」
女の人は使用人に夜ご飯を持ってこさせ、ベッドの横に座った。
それにしても、テンション高いなぁ。
「リンちゃん、持ってきてくれてありがとね!」
「では、私はこれで」
「うん!」
使用人はボクのベッドの傍にあるテーブルに料理を置き、この場を去った。
ボクは上半身を起こし、テーブルの前まで体を動かし、持ってきてくれた料理を見る。
主食はパンが二つ。そこに牛乳で煮込んだ具材たっぷりのシチューに色とりどりのサラダ。極めつけには主菜がハンバーグだ。
至ってバランスの取れた食事だが、これは果たして体全身を痛めているボクに合うのだろうか。
……でも、こんな食事はちっさかった頃以来だ。ここ二年間はこんなご飯は食べてなかったから。
と、何やら女の人はシチューをスプーンで掬い、そのシチューをボクに向けた。
「あーん」
「…………」
……どう反応すればいいのだろう。正直、ボクはそんなことされるのに抵抗がある。気恥しいから。
ボクはそのスプーンを手に取り、そのままシチューを食べた。
美味い。
「あーあ、せっかくあーんしてあげようと思ったのに……」
「
ボクは食べながら、答えた。
「そっか……。ま、ゆっくりお食べ」
女の人はにんまりとボクを見つめた。ボクが子供だからといってその顔はやめて欲しい。
そう言えば、テーブルに二人分の料理が置いてあるんだけど、もう一人は……。
「そうだった……! 私もここで食べるんだった」
「え……」
「何? 嫌なの?」
「……別に」
「やっぱ嫌なんじゃない!」
そりゃそうだろ。ゆっくり食べれないじゃないか。
ボクが嫌そうに食べていると、女の人は「いただきまーす!」と言って食べ始めた。
沈黙が続く。ボクはこのままで良いが、女の人はそうもいかなく、ある提案をした。
「二人で黙々と食べるのも寂しいし、君の話を聞かせてよ」
「…………」
「言いたくなかったら言わなくていいよ。その間私は私の事を話すだけだしー……」
「……わかった」
そんな、いつ終わるかわからない話をされるのなんて真っ平ごめんだ。
だからボクは僕の事を話した。
ボクは名門貴族出身で、その中の落ちこぼれだということ。
そのせいで学校にも行けず、最終的に追放されたこと。
そして、追放先へ向かう前にドラゴンに襲われたこと。
それを聞いた女の人はにんまりとした表情を変えずに、ただ「ふーん」と言った。
「そんな小さいのに苦労してきたんだね」
「ボクは子供じゃない!」
「かっわいいー……!」
ボクの苦労をなんだと思ってるんだ、と言うぐらい女の人は笑った。ボクはその女の人を見て少しムカッときた。
「そうだ、君の名前は?」
女の人はボクに問う。
名前……。ボクは正直、言いたくなかった。だってこの名前はボクにとって「地獄」そのものだから。でも、ボクは言うことにした。
「ノア……ライトマン……」
ボクは唇を噛み締めながら言った。本当に辛い。
女の人はその名前を聞いてポカンと口を開いた。そしてニヤリと笑い、窓に向かう。
「そうか、君がノア・ライトマンか……」
「……?」
なにか知っているような口振りだった。そして、その推測は正しかった。
女の人はボクの方に振り返ってこう言った。
「少年……! 君に朗報だ……! 私の名前はフレイ・ハズラーク……! 今日から君は私の家族だ……!!」
「は……?」
そう、ここは追放先の屋敷であった。
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