第3話 初戦闘。その後メロメロ

 思わず変な声を上げてしまった。

 僕は目を白黒させながら、倒れていく木を見送る。


 ……これは一体、どういうことなんだ?

 

 “レベルアップしました”という無機質な声が脳裏に響くのを感じながら、僕は頸を傾げた。

 ステータスが上がったから起きたことだというのは、まあまず間違いない。

 

 ただし、レベルが1から4になっただけで、一時間かけて切り倒していたのと同じ樹木を、一撃で倒せるようになったりするだろうか?

 それは考えにくい。となると、考えられるのは――


「レベルアップにあわせて、スキルも強くなった??」


 ということは、つまり、だ。

 僕のスキル、《コピー》は今まで他のスキルの劣化にしかならないと思っていたのは、実はレベルが低かっただけという話で。

 先に生まれた兄達と同じレベルに上がるまで、家庭教師を付けて特訓してくれていたら、あのクソ兄貴達2人を喰らうほどの撃強スキルに育っていたのではなかろうか?

 まあ、それはそれで平民の愛人に産ませた子と言うことで蔑まれてもいたから、どのみち虐げられていたかもしれないな。


 しかし、この強さ……このスキルは使えるぞ!

 僕はつい楽しくなって、もっと試してみたくなった。

 平たく言えば――調子に乗ってズパズパ木を刈り取って回ったのだ。


“レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました”――


 無機質な音声が、しばらく僕の頭の中で鳴り止まなかった。


――。


「ちょっと、やりすぎたかな」


 30分後。目の前にうず高く積み上げられた丸太の山を見ながら、僕は頬を引きつらせた。

 調子こいて50本近い木を刈ってしまった。うん、どう考えても半分以上余る。

 レベルもいつのまにか15になっているし。(上がれば上がるほど、次のレベルに上がりにくくなるシステムらしい)


「あとはこの木を加工して、家にするだけだな!」


 ここから先は慣れたものである。

 本当ならノコギリやカンナが欲しかったところだが、贅沢は言ってられない。幸いにも、硬い木が豆腐のように切れる《絶対斬撃》のスキルを使える。

 どこかのクソ兄貴と違って、このスキルは本当に優秀だ。


 5本の丸太から、それぞれ柱に使う四角い木材を切り出す。余った箇所は板材に加工して壁に使うのだ。


 一時間ほどかけて柱と板材を用意。

 柱は、予め地面に開けた穴に突き刺し、深く埋めて土と砂利を隙間に流し込んで倒れないようガッチリ固定する。

 それを、家の中央に当たる場所と、四隅に当たる場所の計5箇所に設置。


 あとは、板材を組み合わせて壁を作っていく。

 板材に凹みを作っているから、それに噛み合わせて積み上げていく感じ。

 

「――あれ?」


 夢中になって家を作っていたら、もう暗くなりかけていることに気付いた。

 壁は丁度出来上がり、家というよりも入り口の部分がぽっかりと開いている小屋のようなものが完成した感じだ。ちなみに、ドアと床板と屋根はまだない。

 今日はキリも良いし、これくらいでいいだろう。

 それよりも――


「お腹空いたな」


 お腹に手を当て、そう呟いた。

 と、そのときだ。


 ドンッ! と凄まじい音が遠くから聞こえた。

 驚いて振り返ると、数十メートル先の木が揺れている。あの堅い木が、ゆっさゆっさと。どう考えてもただごとではない!


 僕は、反射的にそこへ向かって駆けだしていた。

 ――そこにいたのは、体長3メートルはあろうかという、イノシシのモンスターだった。

 真っ白な牙と赤い体毛を持ち、もの凄い速度で木に突進したのだとわかる。鋭い目で木のうろを睨んでいるから、何か獲物でも追い詰めたのだろうか?


 しかし、そんなことはどうでもいい。

 僕の目の前には、イノシシ型のモンスターがいる。それも、めちゃくちゃデカい。つまり――


「肉ッ!!」


 よだれを出して叫んだ僕に気付いたのか、イノシシモンスターがこちらを向く。

 僕を新たな獲物だと見繕ったのか、それとも横取りされまいと威嚇してきているのか。

 いずれにせよ、僕には関係ない。だってこいつは肉だ! ありがたき食料だ!


『ブモォオオオオオオッ!』


 イノシシ型モンスターが自慢の白い牙を見せつけ、土煙を上げて突進してくる。

 僕は、チンケな木の棒を握りしめてそれを迎え撃つ。レベルアップに伴い、上がった身体能力に身を任せ、空中に飛び上がる。


 獲物を捕らえ損ねたイノシシ型のモンスターの頭上に位置取った僕は、首に枝をたたき付けた。


「ていっ!」


 ズパンッ! 一撃でイノシシモンスターの首が飛んだ。


“レベルアップしました”の通知が頭に流れ込んでくる。お、一体倒してレベルアップか。随分早いな。もうレベルは上がりにくくなってるはずだが、今回のは結構強かったらしい。

 

「さて。夕飯も確保できたことだし、帰って火を起こして肉を焼――」


 そこまできて、僕は気付く。

 火を、どうやって起こすのか? と。

 僕は火属性どころか魔法全部使えないんだぞ!!


「はぁ、仕方ない。何か食べられる木の実でも探して――ん?」


 メインディッシュがお預けとなり、肩を落として帰ろうとした僕は――そこであるものを見つけた。

 木のうろに、何かがいる。

 

 イノシシ型のモンスターが睨んでいた場所に、オレンジ色の毛を持つ、ふわふわのモンスターが二匹……


「フレア・フォックス……の子ども?」


 僕の呟きに、ふわふわの尻尾を不安げに揺らしながら、二匹のキツネ型の魔獣が、つぶらな瞳を向けてきた。


 ズキュンッ!

 これは、あれだ。完全に堕ちた。メロメロだ。

 よし……この子達は連れて帰ろう。


 心の中で即決した。

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