第2話 ハズレスキル、覚醒する
「……ここは?」
僕は、自分が転移してきた場所を確かめるために辺りを見まわす。
前には木。後ろにも木。その他、木、木、木――。
なるほど、これは森だ。めっちゃ森だ。
しかも、僕が住んでいたアルルーカ王国では見たこともない植生だから、たぶん王国ではないだろう。
「しかし、暗いな」
僕は空を見上げる。鬱蒼と生い茂る森は、太陽の光を遮っていて、まるで夕闇の中のようだ。
これでちゃんとお昼だというのだから恐れ入る。
「とりあえず、拠点になりそうなところを探すか」
何かしないことには始まらない。第二の人生がここからスタートするのなら、臆せず進むのがいいだろう。
僕はそんな風に考えていた。
――しかし、それはある意味幸運だっただろう。
もし、このときの僕が、ベテランの冒険者も恐れるハイランクモンスターの巣窟である“魔獣の森”と知っていたなら、恐怖で何もできなかっただろうから。
――。
20分ほど歩くと、視界が開けた。
どうやら森の中に、巨大な湖があるみたいだ。
森が途切れているため、太陽の光が降り注ぎ、あまりの明るさから僕は目を細める。
陽光を受けてキラキラと煌めく湖面が美しい。
「うん、ここがいいな」
僕は、直感的にそう思った。
仮になるのか、それとも本拠地になるのか。それはわからないけれど、朝起きたら清々しい朝の空気と共に透き通った湖の水で顔を洗う。うん、悪くない。
目覚まし代わりに汚水を頭からぶっかけられていた日々は、もうないのだ。
少し歩いて喉が渇いたので、湖面の水をすくって口に含む。
森中のミネラルを含んでいるのか、仄かな甘みがして、体中に染み渡っていくようだった。
「よし、じゃあ家を建てるか」
何気なく言っているが、実際僕からしたらなんでもないことである。
だって、兄たちが勝手に壊した小屋を、全部修理させられたのだ。一から小屋を作らされたこともある。
あの地獄のような日々が、こうして生きるとはなんとも皮肉な。
とりあえず、家を建てるには木がいる。幸い木は、ここが森なのだからふんだんにある。
まず家を作る配置を決め、大まかに正方形の線を引く。
それから、正方形の四隅と中央を掘って穴を開ける。そんなに大きな家にするつもりもないし、強度とかは無視。問題が起きたら、そのときに考えよう。
あとは、木を切る!
その変に落ちていた太めの木の枝と、湖の畔に落ちていた大きな石を組み合わせ、草のツルで固定。これで、即席斧の完成だ。
あとはこれを、なんだか
「せいやっ!」
バキンッ! 鋭い音がして、砕けた。
大木が、ではなく斧にしていた石が。粉々に。呆気なく。
「えぇ……」
しかも木の方は無傷だ。どんだけ硬いんだよ、この木。
――これも後から知ったのだが、どうやらこの“魔獣の森”に生えている鈍色の木は、表皮が鉄分を多く含んでいて、鋼鉄並みに硬いらしい。
なんでも、強力な魔獣に突進されても倒れないように進化してきた結果なんだとか、そうでないとか。
「マジか……どうするかな」
ここで思った。
今まで、僕を無能たらしめてきた《コピー》スキルは、ある人物のスキルを覚えているということに。
「《絶対斬撃》……使ってみるか?」
正直、僕を散々こき使ってきた大嫌いな兄のスキルだ。使用するにも少しばかりの抵抗がある。しかし……よくよく考えてみると、嫌いなのは兄であってスキルではない。ここ大事。
この場所で第二の人生を送るなら、もう兄の影に縛られることもないだろう。
「てやっ!」
《絶対斬撃》を模倣した《コピー》のスキルで、手にした木の枝を振るう。すると――
「お?」
ただの木の枝で力一杯殴っただけだが、1センチほど切れ込みが入った。
たった1センチという時点で、自分の無能さに嫌気がさしてくるが、ここは木こりに集中しよう。
僕は、ひたすら枝を振るい、めちゃくちゃ硬い木に挑み続けた。
――それからおよそ一時間後。
遂に、大木が音を立てて倒れた。
「やったぁあああ! やり遂げたぞ!」
僕は思わずガッツポーズ。
冷静に考えれば、この速度でようやく木を切り倒しただけというのも、頭が痛くなってくる話ではあるが――とそのとき、思いもよらないことがおきた。
“レベルアップしました”
不意に、脳裏に今まで聞いたこともない音声が鳴り響く。
へ? レベルアップ? そんな概念あるの?
この世界で15年生きているのに、初めて知った。
意識を集中すると、脳裏に
――
名前:ルーク=マークス
年齢:15
種族:人間
レベル:1→4
体力:20→80
魔力:30→105
魔法:――
スキル:《コピー》(使用可能スキル:《絶対斬撃》《身体能力強化》)
――
という表示が出てきた。
レベルアップって言うからには、モンスターを倒したりとかするとステータスが上がる、ってことなんだろう。
その基準で当てはめると、僕は今、この大木を倒したことでステータスが上がったわけで。
「……まあ、ステータスが上がったからなんだ? って感じだけどね」
僕は肩をすくめる。
魔法を習ったことがあるわけでもなく、スキルもまるで使い物にならない。そんなんでレベルアップしたって、なんの恩恵も得られないだろう。
自嘲気味にため息をつき、僕は次の大木――といっても、今度は一回り細いものを見繕って、力一杯木の棒を振るった。
刹那――スッパーンッ! と、小気味よい音とともに、大木が根元からあっさり折れた。
「……はえ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます