第6話 幻想に縋る

桜からメッセージが来た。今日は委員会があるらしい。確かに言ってた気がする。最近はぼっーとしてしまうことが多い。

この前は変な態度を桜にとっちゃった。次、会ったら謝らないとな。

「純恋~、莉緒と桜子委員会だから一緒に帰ろ~」

「うん、もちろん!帰ろー」

スクバに筆箱と教科書を詰め込んで、可愛いキーホルダーが揺れるスクバを肩にかける。

私が通う学校はスクバでもリュックでも良い。私がスクバにしたのは中学生の頃に憧れてたからだ。その憧れは自分が持ってみてすぐに砕かれたのだが。あまりにも重くて驚いた。同時にリュックはこれだけ軽減してくれてたのかとありがたく思ったがせっかく買ったので切れたり、破れたりしない限り使おうと思っている。

「ーでね!」

「そーなんだ、いいよね。あそこの店ー」

「また、おそろでアクセ買おーよ」

「うん!買おーね!」


一段落したところで少し話したいことがあると言ってカフェに行くことにした。

ケーキと紅茶を食べながら聞く。

「それで、どーしたの?花奏ちゃん」

「あのね、言いたくなかったら良いんだけど桜子と何かあった、?最近、顔会わせるたびにしんどそうで」

心配そうな花奏ちゃんの目に私の顔が映る。

どんな表情を私は浮かべてるのだろう。

「うん、大丈夫だよー。うーん、ただの自己嫌悪かな、」

それ以上は言えない。きっと向こうにもその意思は通じたのだろう。

「そっか、辛いことあってもなくても何でも聞くから、私で良かったらまた聞くよ」

「花奏ちゃん、優しいー!ありがと」

きっと今は前より綺麗な作り笑顔ができてるのだろう。相手の少しほっとした顔を見て考える私は最低だ。「ごめんね」口には出さなかったがこれは花奏に向けた言葉か桜子に向けた言葉か。自分でもわからなかった。

家に帰って夕食を食べたら、桜に会って話をしよう。そうしたらいつもの私に戻れるかな。

あっという間に時間は過ぎて分かれ道のところまできた。

「花奏ちゃん、また明日ねー!ありがとー!」

「全然大丈夫ー!また、明日ねー!!」

手を降って見えなくなったところで少し歩みを進めて自宅に入る。

「ただいま」帰ってくることのない空間に形だけの言葉を投げかけた。両親は時々帰ってくるが世界中を仕事で飛び回ってるためほとんど帰ってこない。生活に必要なお金は振り込まれてるし、自分で料理もできるし毎週メッセージで報告しているから何の問題もない。親が雇っている家政婦さんも時々様子を見にきてくれるし何の不満もない。

だけど。「おかえりが恋しいな」なんて。

家族で食卓を囲みたい。今日、あったことを共有したい。休日にお出かけとかもしたかった。ピアノの発表会にもきて欲しかった。

勉強を頑張ったときに『頑張ったね』が欲しかった。子供じみた考え方かもしれないけどきっとそれほど親からの愛情に満たされないのだろう。

「会いたいよ、桜」

やっぱりどうしても私は桜から離れることができない。それは小さい頃、寂しいときずっと桜が慰めてくれたからもあるのだろう。

いつも優しく抱き締めて背中を擦ってくれた。一緒に不安な夜は寝てくれた。

ピアノの発表会に来てくれて称賛してくれた。ずっといるって言ってくれた。

薄い言葉でも、貴女と繋ぐのが細い糸でも手繰り寄せたくなる。

貴女がいないと私はきっと息をとめてしまいそう。

『こんな私でごめんね』メッセージに送ろうかと何回も考えたけれどやっぱりやめて布団に潜って人肌の温もりを求めていた。

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