2話 ピアノの音は貴女にだけ

私は鍵盤の上で指を踊らせながらいつも昔のことを思い出す。

「桜~!!全然上手く弾けないよ~」

「このままでも上手だけどここの強弱とかつけたらもっと綺麗に聴こえるんじゃない?」

♩♫~♬♪♩

「ほんとだー!ありがとうっ」

「私は何もしてないよ」

「ううん、桜が教えてくれなかったらきっと今みたいに弾けなかったよ!」

「そうかな、私は純恋のピアノなら何の曲でも綺麗に聴こえる」

「えへへ、嬉しい~」

そこで記憶は途切れた。昔は、ピアノを弾くのはそこまで好きじゃなかった。だけど、桜に褒められるだけで心があたたかくなる。

そこから、私はピアノが好きになった。他の誰かじゃない、桜のために音を紡ぎたいと思った。

♪♩♫♩

いつの間にか弾き終えていた。拍手がなる。

振り返ると花奏と莉緒、桜が手を鳴らしてくれていた。

「純恋~、めっちゃ上手かった!なんか言葉にできないけどめっちゃ感動した!」

「花奏ちゃん、ありがとー!練習したかいがあったよー」

「いつもめちゃくちゃ上手いけど、純恋がほとんど毎日弾くくらいピアノが好きな理由、気になるー」

「わかるー、うちも気になってた。桜子は知ってるー?」

「知らないかな、純恋はどうして好きなの?」

「んー、内緒っ!」

心の中なら全然言えるけど口に出すのは恥ずかしいからここだけの秘密ね。

「えー!気になる~」

「それな~、教えてよー!」

「ほら、予鈴がなるし次小テストあるから帰ろー?」

「あー!誤魔化したなー、てか小テストヤバイし帰るか~」

「確かに~桜子、純恋ここの問題、教えて~!」

「2人ともしてこなかったの?」

少し呆れたように言う桜に苦笑する。

「したけどわかんなかったんだもーん」

「ねー、証明なんて日常生活使わないじゃん」


教室につくと皆、数学の問題を解いていた。

「こんなんわかんねーよ」

「やばいやばい、後3分でチャイムなる!」

「ここの解き方教えてー!!」

色んな声が飛び交う。皆大変だなあと思いながら自分の席で数学の用意をして、2人に桜と教える。「ここはー、この公式を当てはめるから…」「ここをxとおくってことー?」

「そうだね、それで②から①をひいてー」

チャイムがなる。2人はまだ不安そうだったが余程のことがない限り0点ではないだろう。

「桜はいけそうー?」

「ミスしない限りね、純恋はいけるでしょ」

「それこそミスしない限りかなー」

桜とは席が前後だから、問題用紙を配るまで話す。

「じゃあよーいはじめ」

問題を捲る。小テストだし、そこまで難しくない。さらさらと計算式を書く。

解き終わった。時計を見ると残り5分ちょっとだった。良いペースかな。

問題が回収されると、授業が始まる。

もう予習し終えた範囲だから難しくはない。

桜子はきっと小説を読むか考えているふりをして寝てるだろう。暇だなあと思いながらも黒板に書かれていく文字式をノートに移していった。




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