佐原ー覚醒 Ⅳ
「後は…………水下……だけだ」
僕の意識はもうろうとしていた。
右腕が切断され、歯を折られ、頭を鈍器で何度も殴られた。
こうして歩いてることはおろか、生きているだけで奇跡みたいな状態だ。
「……あの……消えそうな」
そう、口にしている。
はやくこの地獄から解放させて欲しい。水下を殺して、さっさと死にたい。
こんな痛みに耐えて生きるのだけは嫌だ。
僕は、空を見上げる。
水下を探して何分、いや、何時間経った?
空には月の代わりに、太陽がまぶしく輝いていた。
血まみれになった腕時計を確認すると、朝の五時だった。
「…………心を……」
口を動かすことも苦痛だ。もう、生きていたくない。
その時だった。
「お、おーい!みんな!?」
小さく、小さな声が山に響いていた。
朦朧としていた意識が正気に戻る。
水下だ。奴が現れた。
「いるなら返事をしてくれ!」
朝になって異変に気づいたのだろう。
それならば、僕がするべき事はただ一つ。
引きずっていた足も元に戻った。
生きる活力が再生し、右腕がいまにも生えてきそうな気分になった。
殺す。必ず奴の息の根を止める。
「おーい」
水下の声は近づいていく。いや、自分が近付いているからだろう。
次第に、奴の声は大きく聞こえてきた。
猟銃はもう使えない。残段数は零。
となれば、この斧を使って、奴を確実に仕留めるしか無い。
「おーい」
声は間近に迫っている。
そして、水下の人影が見えた。
「おー」
僕は、奴の言葉が終わらないうちに、斧を砲丸投げのごとく投げた。
そして、白銀の刃は、水下の方に剔り込んだ。
「うぎゃあああああ」
激痛を感じた水下は、無様にその場に倒れ込んだ。
「ひ、ひ、ひ、ひぃ」
北野と違って威勢の無い奴だ。
僕は、水下に近付いた。そして、奴の方に突き刺さっている斧を勢いよく引き抜いた。
「ぐう゛ぁあああああ」
割れたような皮膚からドバッと熱い血が噴き出す。
もう、こいつだけは許さない。
僕は、水下の左足に狙いを定めた。
そして、閃光のごとく振り下ろす。
「ぎゃぁぁあああああああああ」
続けざまに右腕に向かって、斧を振り下ろす。
「ぐぁぁあああぁぁああぁぁぁ」
骨までは砕けなかったので、足で刃を踏む。
「バキバキバキバキ」
骨にヒビが入る音が響き渡る。そして、
「ドン」
砕け散る。
「ぎぁあああああやゃっっぁあああ」
次は左腕だ―。
「ぐぇえええええええ」
次は右足―。
「ぎあにゃあああああああああ」
最後に―首だ。
僕は水下の首に狙いを定める。
その時だった。
「止まれ!止まらないと撃つぞ!」
咆哮が僕の耳に突き刺さった。
振り返ると、僕は警察に包囲されていた―。
「佐原さん、斧を下ろしてください」
何者かが、頭を掻きながら僕に云う。
そして、呆れたような、また悲しげな口調でこう云った。
「そんなことをしても娘さんは帰ってきませんよ」
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