國枝 死亡

 真夜中の夜。静寂。俺の心は絶頂に満たされていた。


 浅間山の四合目で各自テントを張り睡眠を取るように指示を受けた。しかし、こんな機会を逃してはいけないだろう。


 俺は他の全員が眠っていることを確認した上で、息を殺し、テントからゆっくりと顔を出した。そして、真っ先に「彼女」の元へ走る。テント越しから、彼女が安らかな眠りについていることは安易に想像できた。


 俺はゆっくりと彼女に向かって囁く。


「まだ起きてるか、冬子」


 しばらく返答は無かったが、冬子はどうやら起きていたようだ。自らテントを開けて顔を覗かせてきた。


「どうしたのよぉ、リョウくん」


「ごめん、まだ寝ていたか」


 俺は彼女のテントに、半ば強引に入った。


「ちょっとリョウくん!女の子の部屋に勝手に入らないでよ」


「良いじゃないか冬子、こういうのも」


 彼女の口調は嫌がっているようだったが、表情から見てどう考えてもその気だった。


「こんな所でするなんて、何考えてるのよぉ」


「おいおい、まだ乗り気じゃ無いのか」


 俺ははやし立てる。


 彼女は嫌がるようなそぶりを見せつつも、内心では期待していたようだ。


 彼女は俺に言われるがままセーターを脱ぎ、ベルトを外してジーンズを下ろした。


 最後にはブラウスを外し、俺は彼女のパンツをゆっくりと下ろす。


「これで良い?」


 彼女の豊満で甘美な肉体に興奮する。勿論、興奮というのには性的な興奮の意味も混じっているが、それ以上に彼女のいつ見ても衰えない体に対し、ある種の感動も憶えていた。


「ほら、次はリョウくんだよ」


「冬子が脱がせてくれ」


 冬子はゆっくりと俺の上半身に触れたかと思うと、シャツを強引に脱がせ、俺の胸毛に手を当てる。続いてズボンを脱がせ、俺の膨らんでいるペニスをパンツ越しに触ってきた。我慢できなくなり、俺は冬子を抱く。


「ああ……リョウくんだめ……」


「ほら、まだこれからだぞ」


 冬子と俺の服が散らばる。熱く、濃厚なキスを俺たちは続ける。徐々に俺のパンツも下ろされ、俺たちは完全に全裸になった。


 冬子の乳房と俺の乳首が交わる。


「ああ、凄い…………」


 冬子は絶望的な喘ぎ声を続けた。段々と、彼女の膣内で俺のペニスが熱くなる。


 自分たちがセックスをしているという自覚が無い。


 駄目だ、絶頂に到達する。


 俺のペニスは限界を迎えていた。


 その刹那だった。


 何か、俺の背中にヌルッとした、がへばりついた。


 なんだ、と後ろを振り返ろうにもいま、人生最大レベルの快楽に浸っている俺は、それを中断させることはできなかった。しかし、あまりにも背中が気になる。


 その時だった。


 冬子がいきなり尋常じゃ無い悲鳴を上げた。喘ぎ声では無い。


「どうしたんだ、冬子」


 俺は後ろを振り替える。


 血だ。赤黒く、熱い体液が、いま俺の背中を浸っている。


 直後、異常なレベルの激痛が背中に走る。たまらず、俺は悶絶した。


 その瞬間だった。


俺の目の前に、冬子では無く、巨体の「男」が現れた。


 その男の左手には、が、右手には、が持たれていた。


「さて」


 男はそう云って、ずん、ずん、と俺に近づく。


「く、くるなぁ」


 言葉をうまく発することができない。恐怖からか?痛みからか?


 突如、男が背中に空いた俺の風穴に指を入れた。


「うあああぁっ」


 たまらず声を出してしまう。指は傷口の奥深くまで食い込み、どぼどぼと熱い血がさらに吹き出てきているのが俺でも分かった。


「ああっ、うぐっ」


 男の表情は見えなかったが、男は俺を痛めつけることに快感を得ているような声を発した。


 はやく、ここから逃げなければ。このままだと、俺は殺される。

 這って前進しようとしたその時、右腕に激痛が走る。確認しようと顔をそらすと、男が斧で、俺の腕の関節部分に刃を食い込ませている。


「ぎゃあぁぁぁ」


 骨を粉砕されそうな勢いで、押し込まれ、もはや悲鳴が悲鳴で無かった。


 ぎりぎり、ぎりぎり、と刃が俺の右腕に、食い込み、食い込んでいく。

 

 肉に刃が食い込みピリピリと腕が痙攣し激痛と云う名の電気信号で体が支配される。


 そして、どん、と鈍く、はじけた音がする。


「お、お、ぉれのぅでがっぁ、ぁあ」


 


 なんて奴だ、こいつは斧で俺の右腕を骨ごとかち割りやがった。


 テントから突き飛ばされる。俺は地べたを這いずり回って助けを呼ぼうとした。


 嫌だ、死にたくない、痛い、痛い、何故だ?こいつは一体……。

 

 いや、この際こんなことはどうでも良い。誰か、俺を助けてくれ……。


 しかし、その願いは玉砕される。


 目にも留まらぬスピードで、冷たい刃が、俺の左足に直撃した。


「ぎゃん」


 ゆうに骨を破壊する力があったようだ。今度は俺の左足が切断され、アキレス腱が、でろん、と不格好に俺の足から飛び出ている。


 粉砕された骨の断面には、赤黒い体液がべっとりと付いており、肉片がおまけのようにひっついている。


 そして、男は俺の首の付け根をつまみ、俺を仰向けにした。


「ふ、ふざけるぅなぁあ」


 男はどうやら、俺のペニスに目をつけたようだ。


 先ほどまで膨張していたペニスからはおびただしい量の熱い尿が放出されていた。

 

 真っ赤に染まって充血した亀頭がピクン、ピクンと跳ねている。


 男はちょうどいい、と言わんばかりに、金玉に猟銃の銃口を押しつけた。


 白銀に輝く銃口を押しつけられ、少し冷たく感じる。


 まさか、と思ったが、男は俺に考える暇すら与えるのを許さなかった。


「パァン」


 弾けるような銃声音が響き渡る。


 


「ぐぁああああぁあああぁ」


 金玉と性器が完全に胴体から分離し、俺の股間には大きな穴が空き、そこから赤黒く、熱い液体が噴き出し続けている。吹っ飛んだ精巣の断面から睾丸が顔を覗かせている。


 激痛が全神経を支配した。


 一体こいつは誰なんだ。何の目的があって俺を殺しに来た?浅間山にはこんなイカれた殺人鬼が棲みついていたというのか。


「お前、一体」


 最後に男はとどめを刺すように俺の頭に向かって斧を勢いよく振り下ろした―。

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