第8話【きっかけ】
「へぇ、中々広いじゃねぇか。」
「別に普通でしょ」
王都中層部。ギルドから道なりに少し上がった場所にある住宅地に並ぶ家のひとつに俺はお邪魔していた。
そう、先程ギルドを出てから俺はミコトに「家が無いなら泊めてあげても良い」と何故か頬を赤らめながら言われ、あらよあらよと気が付けば家に上がっていたのだ。
正直、なんでいきなりあんな事を言ってきたのかはよく分からないが――俺は今所持金も少なければ持ち家も無い。
断る選択肢なんて当然無いよな。
そして、今言った様にこうしてミコトの家の中に居るのだが――両親は家を留守にしているのか姿は無く、玄関を入ってすぐパッと見20畳程のリビングが広がっていた。
こちらから見て右側にはキッチンや食材の入れられたカゴなどがあり、左側には2つの扉(おそらく寝室やトイレ、風呂などだろう)リビングの真ん中にはテーブルと椅子が4つ、並べられている。
今ミコトは俺の中々に広いというセリフに対して「普通」だと発言していたが――ここの4分の1程の家にずっと住んでいた俺から言わせてもらうと、相当に良い家だと思うな。ずっと住みたいくらいだ。
――っと、とりあえず王都で生まれ育った人間に対する田舎者の嫉妬はこのくらいにしておくとしよう。
するとそこでいきなりミコトは俺にこう尋ねてきた。
「ねぇ、お腹空いてる?」
「えっ?ま、まぁもう昼だし空いているが」
なんで家に早々入ったところで言い出すんだ?まさか本気で俺をもてなすつもりか……?
まだ付き合いは浅いから分からなかったが、誰かをもてなす様な考えをこいつも持ってるのか。――――と、ミコトの評価を自分の中で少し見直そうとしたその時、
ぐぅぅ〜〜
家の中でモンスターの唸り声かと思う音がミコトの腹から放たれた。――って、
「あ、お前お腹空いてたのか。」
「……っ!?し、仕方ないでしょ今日はいっぱい動いたんだから!!」
「痛てて」
頬を赤らめながらポカポカと叩いてくるミコト。
――要するに、自分だけお腹が空いているのは恥ずかしいから、俺が空腹かどうか確かめて、さりげなく自分も腹を満たそうとしていた訳か。
はぁ……そんな事せずに普通に作れば良いのによ。
生まれ育った村に居た女性はほぼ全員が60代以上だったから若い女の子の考える事はよく分からんな。
そんなこんなで、それから俺は飯を作るミコトと色々な事を話していた。
そして、これは冒険者あるあるというやつなのだろうか、自然と「なぜ冒険者になろうと思ったのか」という話題になる。
もちろん、そこで俺は「父に憧れて」そう言ったぞ。
すると、それを聞いたミコトは、
「ふぅん、なんだか私の理由とは似ている様で似てないって感じね。」
「なんだそりゃ。まさかミコトも両親に憧れたりしてたのか?」
という事は、ミコトの両親は冒険者だったのか。
「うーん、まぁそうね。というか、ママもパパも冒険者だったから嫌でも憧れちゃうわよ。」
まぁ確かに、強い冒険者は大体がその血筋みんな冒険者とかだろうしな。
「でも、その憧れで冒険者を目指したって訳でもないんだろ?俺のとはまた違うんなら。」
「えぇ、私はパパとママの仇を打つ為に冒険者になったから。」
「仇、打ち?……ッ!!、という事はミコトの両親は――すまん、嫌な事聞いたな。」
俺はこちらに背中を向けて料理をするミコトに謝る。
「良いのよ全然。私も言っていなかったのが悪いし。」
そうしてミコトは言葉を続ける。
「――私の両親はね、数年前ゴブリンの蔓延る洞窟での攫われた人の救出依頼途中で命を落としたの。話では救出依頼というのは大体が攫われた人の家族がギルドにお金を支払って依頼を出してもらうという形が多いらしいのだけど、その時はその攫われた人の家族は決して裕福で無かったらしくて、「報酬金額が少ない」からとギルドには依頼を出すのを断られていたらしいわ。」
「でも、正義感が人一倍強かったパパとママはその家族にどこへ攫われたのかを聞いた。そして直ぐに救出へ向かったらしいの。もちろん、報酬金額なんて提示もせずに。」
「――でも、そこで亡くなってしまったのか……」
「えぇ。それを聞いた時、私はもちろん泣いた。泣いて泣いて涙が枯れても声を荒らげて。でもね、ある一定のところで別の感情が出てきたの。」
「別の感情?」
するとそこでミコトは当時の事を思い出したのか、プルプルと肩を震わせ、フライパンを持つ手をギュッと強める。
「それは「悔しい」という感情だった。――誰にも目も向けられず、救いの手なんて無かった家族に、対価を求めず真正面から救いの手を差し伸べた私のパパとママ。なんでそんな人が死なないといけないのよ。」
「だから、その時私は決心したの。私がパパとママの意志を継いでやるって。地位なんて関係ない。みんなが助け合う世界を私が作ってやるって。――ねぇエリック。貴方たしか生活魔法で英雄になりたいのよね?」
「え?あぁ、まぁそうだが。」
そこでミコトは料理の手を止めるとこちらへ振り向き、俺の目を見つめると八重歯を剥き出しにしてニヤリと笑う。そして、こう言った。
「それなら、私はパパとママから受け継いだこの「正義」で英雄になるわっ!!」
「……ッ!!」
その言葉は俺の心へ大きな衝撃を与える。
……へへ、こいつてっきりただ自分が最強と思っているだけのバカなのかと思っていたが、しっかりと芯を持ってるみたいだな。
こいつとなら、英雄を目指したい。
今のセリフを聞いて、俺はそう思った。
「はいっ!じゃあこれでこの話はおしまいっ!ほら、私特製卵焼きが出来たわよ!」
「お、待ってました。」
そこで一度話をやめると、ミコトはドヤ顔で目玉焼きとパンを載せた皿をこちらへ運んでくる。そして俺の座る椅子の前にあるテーブルにそれを置いた。――って、
「どう?中々の出来でしょう?」
「いや、なんだよこれ……」
「え?まさか初めて見るのかしら?これは卵焼きって言って卵を――」
「それは分かる。なんとなくシルエットでだが。――俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて、焦げ過ぎだろ。」
そう、なんとミコトが自信満々に持ってきた卵焼きとパンはもうそれが食べ物かも分からないくらいに焦げていた。
これ、どっちかって言えば卵焼きとパンじゃなくて炭と炭だよな……
するとそれを聞いたミコトは苦笑いしながら、
「へへ、いつもの癖でちょっと焦がしちゃったけどまぁ、味には問題無いはずよ。」
「うん、これを見て味に問題が無いと言い切れるお前の頭には問題がありそうだがな。」
「はぁっ!?仕方ないでしょう!!私モンスターと戦う時はいつも全力だから弱火とかの調整が苦手なのよ!!」
「なに?それならエリックが作ってみれば良いんじゃない?絶対上手くいかないんだから。」不貞腐れたのか椅子をガンと力ずくで引き、荒々しく座ると皿に乗った目玉焼きとパン
しかし、ひと口食べた瞬間微かにミコトの顔が歪む。
ほら、やっぱり美味しくないだろ。
――はぁ、仕方ないやつだなこいつは。
「俺がやれば良いんだな?」
俺は机から立ち上がると、先程ミコトが立っていたキッチンの前に立つ。
「えぇそうよ!まぁ?貴方には無理だと思うけれど。」
「はは、あんまり俺を侮らない方が良いぜ?」
ミコトは忘れてんのかもしれねぇが、本来なら俺は戦いよりもこっちのが得意分野だからな。なんせ俺は生活魔法をマスターした男だぞ?
それから数分後。
「な、なにこれ……こんなに美味しい卵焼きとパンを食べたのは初めてよ……」
俺は一瞬にしてミコトからの下馬評を覆した。
今日はゴブリンキングとの戦いで魔力を相当失っていたが、少し焼くだけの簡単な料理で良かったぞ。
「おいおいそれは大袈裟だろ、これくらいなら毎日作れるぞ。」
「……ッ!?ま、まぁ?今回の料理勝負は同点という事にしておいてあげても良いわ。」
なんだよその勝負。そんなの始めた覚えもなければミコトに勝ち目なんて絶対無いと思うがまぁそんな事言ったらキレるに決まってるだろうから、今は合わせておくか。
「はいはい、ありがとな。」
「ふふんっ、感謝しなさいよねっ!!」
ほんと、扱いやすいやつだ。
すると、そこですっかり上機嫌になったミコトは卵焼きを口でくわえたまま立ち上がると、
「明日はダンジョンに行くわよっ!!」
いきなり勢いよくそう宣言した。
ダンジョン?よく分からんがまぁ、明日もまたこいつと一緒なんだな。
めんどくさく、いちいち大変だろうなと思いながらも俺は笑っていた。
生活魔法使いは英雄になりたい!〜攻撃性ゼロの【生活魔法】を極めた俺がそれを使って無双する。気付けば周りには沢山の仲間がいました。〜 カツラノエース @katuranoACE
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