第7話【ギルドへ報告】


 レガロ採掘跡地をなんとか脱出した後、俺たちは早速その事を報告する為ギルドへと向かった。


「お帰りなさいませ、エリック様ミコト様。本日の依頼は――」


 ギルドに戻り、受け付けへ向かうと今朝依頼を受理してもらったお姉さんが俺たちにそう言う。


 しかし、そのセリフを言い終わる前にミコトがドンとカウンターを強く叩いた。

 その突然の出来事に、お姉さんも言葉を詰まらせる。


「……ッ!!ど、どうされたのですか……?」

「……どうされたもなにも、なに?あの依頼。内容と全然違ったじゃない!!危うく死にかけたのよ!?私たち!!」

「えっ……?す、すいません、よく分からないのですが……」

「ふざけないで!!」


 そこでお姉さんの「本当に分かっていない」という姿勢によっぽど腹が立ったのか、ミコトはカウンターから身を乗り出し胸ぐらを掴もうとする。


「おいおい、やめとけミコト。お姉さんがこの依頼内容を書いた訳でも無いんだ、責めるのはこの人じゃないだろ。」


 それに、仮にも無事には帰ってこれたんだしよ。



 その後、なんとかミコトをなだめた俺は今日レガロ採掘跡地内で依頼内容には書いていなかった危険度Aモンスター、ゴブリンキングと対峙したという事を伝えた。


「そ、その話は本当なのですか……?」

「あぁ、正直あんなモンスターがここら近辺にいるだなんて思っては無かったが、やっぱりいるんだな。」


 俺は苦笑いでそう答える。

 生まれ育った村の周りにも出現するのは弱いモンスターばかりだったからオーガの件と言い今回の件と言い、あまり現実味の無い体験だったが、これも流石は王都ってところだろうか。


 しかし、対してお姉さんは不安な表情のまま、


「いえ、違うのです……」

「ん?なにが違うんだ?」

「実はこの王都近辺は世界の中で見ても平和な地域で、危険度Cはおろか、危険度Aのモンスターの目撃情報なんて……数百年無かったのですよ……?」

「……は?」


 ちょっと待て、それなら話が変わってくるだろ。

 数百年間目撃情報が無かった危険度Aモンスターがたまたま今日レガロ採掘跡地で?いや、それは考えにくい、というかほとんど0パーセントに近いだろう。


 するとそこで俺になだめられ、黙っていたミコトも会話に入ってくる。


「そんな事言って、私たちの力に嫉妬した誰かが召喚魔法でも使っただけじゃないの?」

「おいミコト。お前まだ人の事疑って――」

「……その可能性、あるかもしれないです。」


 ミコトのセリフに反対しようとする俺だったが、それを遮る様にしてお姉さんがそう言った。――って、え?その可能性あるのかよ……!?


 ――いや、でも普通に考えてありえないだろ。

 確かその『召喚魔法』ってのはモンスターや精霊に過去の英雄を魔力でその場所に召喚するって魔法だろ?本の中では見た事があるが、確かそれを使えるのは世界中で見ても極小数なんじゃ無かったか?


「なんでお姉さんはそう思うんだ?」

「はい、正直今回の件はとても偶然そこに居た。という説明では片付かない事なので」

「それは俺も同意だ。」

「だから、もう残る可能性は『誰かが召喚魔法でゴブリンキングをレガロ採掘跡地そこに呼び出した』という事以外考えられないのです。」


「それでもその可能性は低いと思いますが」最後にお姉さんはそう言い加えた。


 うーん、難しいな。

 でも、要するに全てが偶然起きた事、という可能性は考えづらいって訳か。


「――ですがどの道。ここを考えるのは我々ギルドの仕事であり、エリック様やミコト様が心配される必要はありません。本日の件につきましては、本当に申し訳ございませんでした。後はこちらにお任せ下さい。」


 そうしてお詫びとして本来の依頼報酬よりも1枚多い銀貨3枚を俺とミコトに計6枚お姉さんから渡された後、ギルドを出た。


 ♦♦♦♦♦


「ふぅ、なんかもう疲れちまったな。どうする?まだ昼だから他にも依頼は受けられるかもだが。」


 ギルドを出て早速、俺はミコトにそう聞く。

 今日は俺自身2、3回は依頼を受けたいと思っていた事もあり、早朝にギルドへ訪れていた。だから時間はまだまだあるのだ。――まぁ、色々と疲れたから今日のところは休むつもりだが。


 すると、対してミコトは「はぁ……」とため息をつくと、

 

「……私も今日は疲れたわ、とりあえず次の依頼の事は明日考えましょう。」

「そうか、了解だ。」


 まぁ、なんだかんだこいつと組めば効率的に依頼を受けたり出来るだろうから、ゴブリンキングと対峙して死にかけたなんて体験もしたが、収穫もあったって事か。

 (報酬も多めに貰えたし?これなら前の分と合わせてしばらくの間は激安宿なら生活出来るだろう。)


 じゃあ、俺は酒場にでも――


「……ね、ねぇ、」

「ん?」


 するとそこで後ろを振り向こうとしていたところ、ミコトに声をかけられた。

 ん?なんだ?もう用は無いはずだが――あ、まさか「ゴブリンキングとずっと戦ってたのは私だから貰った銀貨を全部よこしなさい」なんて言う気じゃないだろうな?


 絶対無理だぞ!?こっちだって魔力がすっからかんになるまで生活魔法を使ったんだ!!


 しかし、ミコトはそんな俺の想像とは裏腹に穏やかな顔で少し頬を赤らめながら、


「……ゴブリンキングと戦っていた時、無理やりにでも引き上げさせてくれてありがと。きっと私ひとりだったらあのまま戦い続けていたわ。もしかしたら命に関わる大怪我をしてしまっていたかもしれない。」

「……ッ!!お、おう」


 なんだよこいつ、ずっとうるさいと思ってたらいきなり女の子っぽい表情しやがって、


「……」

「……」


 き、気まずい……


「お、俺はもう行くからな!?じゃ、じゃあな!!」


 さすがにその場の微妙な空気に耐えられなくなった俺はそこで急いで去ろうとする。


「もう行くって、どこに行くのよ。私知ってるわよ?貴方家無いんでしょ……」

「ギグッ……し、仕方ないだろ王都に来たばかりなんだ!!」


 はぁ……はぁ……なんなんだよこいつは。一体何を言いたいんだ……?


「で、なんだよ。まだなにかあるのか……?あ、もう今みたいな感謝は要らないからな!?こっちも恥ずかしいんだ。」

「え、えぇ。――――その、良かったら、私の家なら泊めてあげられるわよ?って……」

「……へ?」

「い、いや!!嫌だったら別に大丈夫だからねっ!?」


 いや、嫌じゃねぇけど!!全然嫌じゃねぇけど!!普通いきなりこんなに変わるか!?

 こいつ、初めて話したの昨日だしずっと上から目線だったんだぞ!?


 まさか……チョロいのか……?


 頬を赤らめながら俯くミコトを見ながら、俺は静かにそう思ったのだった。

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