第6話【最終手段】
レガロ採掘跡地の奥底。
空に輝く恒星の光も全く届かないこの場所で俺とミコトは危険度Aのモンスター、ゴブリンキングと対峙した。
「ぐぉぉぉ……」
俺たちの姿を見つけたのか、ゆっくりとこちらを見下ろして地鳴りの様な声を響かせるゴブリンキング。
「……ッ!、正直なんでこんなモンスターが適正ランクDなんかの場所にいるのかはよく分かんねぇ」
ランクだけで見りゃ、『危ないから戦ってはいけない存在』だからな。
――でもよ、
「けど、こう対峙しちまった以上、やるしかないよな……!」
俺は覚悟を決めると背中から剣を抜き、構えるとまずはミコトにどう攻めるかを手短に話す為隣を向いた。
「おいミコト。まずは――って、!?」
「はぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、なんとミコトは俺の問いかけを全く聞く気は無いようで、怒りを剥き出しにすると背中から勢いよく剣を抜いてゴブリンキングへ突進して行った。
って、おい!?相手は危険度Aだぞ!?自分勝手に動くなよ!?
だが、こうなってしまったからには仕方がない。というか、正直何となくこんな気がしていたんだよな。
昨日の感じを見て、ミコトが俺の指示を真面目に聞く訳ねぇよ。
「私の一撃をくらいなさいッ!!」
そうしてゴブリンキングを射程圏内に捉えると、剣を振りかぶり、足へ勢いよく斬撃を入れようとするミコト。
が、しかし、それよりも先にゴブリンキングは片手に持ったサビだらけの剣をミコトの頭上に振り下ろそうとしていた。
「……ッ!?」
剣で足を斬ろうとするミコトはすぐにそれに気がつくが、時すでに遅しというやつだ。それを防ごうにも時間が足りないし、剣を振る体勢になっている為今すぐ回避の動きに移る事も出来ない。
――だが、だからって生活魔法ですら助けられないって訳じゃねぇ!!
「
俺は自身の剣を地面に落とすと、どうする事も出来ずにただ固まり、振り下ろされてくる剣を見上げるミコトに空いた手を伸ばし、
一般的にこの生活魔法を取得している人間は長距離移動などをする際、使ったりするが、俺程までにマスターしているとそれを他人に使う事が出来る。
まぁ、その分これは相当魔力を使用する魔法で、対象が他人となると更に魔力を大幅に削られるという点が弱点だが。
「……へ、?」
「大丈夫か?」
俺の横に瞬時に移動し、目が点になって理解が追い付いていない様子のミコト。
だけどまぁ、こうしてひとりを助けられたんなら、背に腹はかえられねぇよな。
「ぐぉぉぉぉ……」
「え、エリック、まさか私を移動させたのは、貴方……?」
いきなり目の前から消えたせいで、そのまま地面をサビた剣で叩き割り、唸り声を出しながら再びこちらへとゆっくり歩いてくるゴブリンキングを見ながらミコトは立ち上がるとそう質問をしてくる。
「
「ふ、ふふふ……」
「?」
すると、それを聞いたミコトは何故か不気味に笑いながら戦意喪失で地面に落としていた自分の剣を拾い直すと、
「良いじゃない、エリック。やっぱり貴方は私の見込んだ通りよ!!」
「見込まれてたんだな、俺。」
そうして俺も剣を拾う。
「やれるだけ、やろうじゃねぇか。」
「えぇ……ッ!!」
「あまり時間が無いから手短に一言だけ言う。」
「分かったわ……ッ!!」
そう言う俺にキラキラとした視線を向けてくるミコト。
なんだよ、さっき助けただけでものすごい変わり様だな。
残念だが、あまり良い情報じゃねぇぞ?
「俺はさっきの
「分かったわ!――って、はぁ!?」
「何やってんのよバカ!!」今度は俺をポカポカと叩いてくるミコト。
いや、お前を助けたんだろうが。
「しょうがねぇだろ、無いもんは無いんだ。捻りも出せねぇ。それに――」
「きゃっ!?」
そこで俺はミコトの身体を掴んで後ろへバックステップをする。
その瞬間、いつの間にか近付いてきていたゴブリンキングの拳が地面に叩き付けられた。
危ねぇ、もう少しで潰されるところだったな。
「気を付けろよミコト。」
「もーう!!なんなのよこいつ!!それに、松明の火も今の動きで消えちゃったじゃない!!」
「……厄介だな、」
そう、ミコトの言う通り今のバックステップで俺が持っていた唯一の光源だった松明の炎が消えてしまった。
真っ暗となったレガロ採掘跡地。
見えるのは目の前で立つゴブリンキングの真っ赤なふたつの瞳だけだ。
これは危ないな……仕方ない、
「
そこで俺はしょうがなく、暗闇でも問題なく周りが見える様にする生活魔法、
「どうだ?これで見えるだろ?まぁ、これでほんとにあと数回しか魔法を使えなくなったが。」
「……ッ、背に腹はかえられないわね、分かったわよ。私が何とかする。」
「お前だけじゃないだろ。俺だって戦う。」
そこで俺は
「生活魔法を使えない貴方が?」
「ふっ、生活魔法が無くても戦えるって見せてやるさ。」
こうして俺たちはゴブリンキングへ突撃して行った。
それから数分後。
「くっ、こいつ、動きが遅いのに全て攻撃を防いでくるわね……ッ!!エリック、今度は一緒に攻撃を合わせるわよ!」
「はぁ……はぁ……もう、ダメだ、」
俺は剣を地面に突き刺すとそれを杖代わりにしてはぁはぁと荒く息を吐く。
魔力量に関してはある程度の自信があったから、なんだかんだ最後まで持つだろうとは思っていたが……さすがにずっと俺とミコトの
それに、魔力はともかく体力を増やす練習はそこまでして来なかった俺には、数分全力で動き続けるだけでももう限界だった。
「ちょっと!?しっかりしなさいよ!!」
対して、ミコトはと言うと最初より若干息が上がってはいるが、まだまだ動けるという感じだ。
やっぱり、これがBランクとDランクの差なんだろうな。
だが、勘違いしないで欲しい。魔力量は増やせる物だし、体力だって増やせる。
そもそも俺たちが危険度Aのゴブリンキングと戦っている事自体がおかしいのだ。
くそ、どんな手違いだったかは知らないが、これはさすがにギルドにクレーム物だぞ。
「すまんが、俺はもう戦えない。所詮はまだ初心者冒険者なんだよ、体力もまだまだだ。」
だから、そこで俺はミコトにそう告げる。
「はぁ!?諦めるっての!?」
「諦めるんじゃない、生き残るんだ。」
すまんが、まだ俺はこんなところで死ねねぇんだよ。
ここで俺が死ねば、『やはり生活魔法の力はたかがしれていた』周りからそう見られちまう。
それじゃダメなんだよ、それじゃ――父さんに自信を持ってあの世で会えないだろ……!
決めたんだ、生活魔法で英雄になると……ッ!!
「ミコト、俺が走れと行ったら走ってくれ。」
「えっ!?どういう――」
「走ってくれ、頼む。」
俺は腰から行き道に男の子がくれた木の棒を取り出す。
「ありがとう、ほんとに助けられるとはな。」
そこで俺は手に持った木の棒に体内で微かに残った魔力を込めると、
「
炎を付ける魔法で木の棒を燃やす。
そして、それをゴブリンキングに向けて全力で投げると、
「
更に風を起こす生活魔法で酸素を送った。
その瞬間、木の棒を囲む程だった小さな炎が何倍にも膨れ上がり轟々と燃え出す。
そうして地面に落ちた木の棒は俺たちとゴブリンキングに壁を作り出した。
よし……ッ!!
「今だ!!走るぞッ!!」
「えっ!?え、えぇ!!」
「ぐぉぉぉぉ……」
そこで俺たちは全速力で来た道を折り返して行く。
ゴブリンキングはすぐにそれを追いかけようとしてきたが、炎のせいでこちらへ来る事は無かった。
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