第5話【ゴブリン討伐へ】
翌日のギルド。
昨日はミコトに模擬戦で勝利する事ができ、あの後約束通り銀貨5枚をもらったお陰でご飯もしっこり食べれたし、安い宿にも泊まることが出来た。
今日こそは依頼を受けて稼ぐぞ!!
「って、言いたいところなんだが、なんでお前が居るんだよ。」
そこで俺は横を向くとそう言う。
「なんでって、貴方と私がパーティーを組むからに決まってるじゃない。それに、ちゃんと「ミコト」って名前で呼びなさいよね。」
そこには燃えるような真っ赤な長い髪に鋭い瞳の女の子――ミコトが居た。
そう、何故か知らないがさっきギルドに入り受け付けに行こうかというところでどこからかミコトが横に来たのだ。
いや、なんで勝手にお前と俺がパーティーを組むことになってるんだよ……
「……」
「なに!?私とパーティーを組むのは嫌だって言うのッ!?」
「いや、そういう訳じゃ無いが、なんで俺なんだと思ってな。別のやつでも良いんじゃないのか?」
ほら、周りを見てみろよ、俺よりもキラキラした冒険者が沢山いるぞ。
しかし、対してミコトは首を横に振る。
「そんなの、貴方が昨日私に勝ったからに決まってるじゃない。まぁ?あれはたまたまで!!本当にたまたま負けちゃっただけだけど!!」
「あーはいはい、たまたまだな。後、俺にはエリックって名前があるんだ、そう呼んでくれ。」
たく、どんだけ負けず嫌いなんだよ、めんどくさいやつだな。
「で?私と組むの?組まないの?」
「う〜ん、まぁお前――じゃなくてミコト以外に宛があるかって言われても居ないしな。よし、じゃあ組むか。」
英雄を目指すなら、仲間は必要だろうしな。
「ふふんっ!!しょうがないわね!感謝しなさいエリック!!このミコト・ドレースが仲間になってやろうじゃないの!!」
満面の笑みを浮かべるミコト。
……いきなり調子が良くなったよ。
「よし、じゃあとりあえず受け付けで依頼を受けようぜ。」
「えぇ、私と一緒にモンスターを討伐出来る事、有難く思いなさいよね!!」
「へいへい」
こうして俺とミコトは受け付けへ足を進めた。
♦♦♦♦♦
「おはようございます。――って、エリック様にミコト様?なぜお2人が御一緒されているんですか?」
受け付けで自分たちの番が来ると、早速そう聞かれる。
「まぁ、昨日色々あってな。一緒に依頼を受ける事になったんだ。」
「あぁ、そういえば昨日競技場で模擬戦をされたんでしたよね。ギルド内でも小さく話題になっていましたよ。」
「なんで小さくなのよ、普通その話題で持ち切りになるはずでしょう!?」
カウンターをバンと叩くミコト。
お前はなんでそこまで自分に自信があるんだよ。
「あーもう話題の大小なんてどうでも良いだろ。とりあえず依頼を受けるぞ。」
「……ふん」
「――で、今はどんな依頼があるんだ?危険度Dまでのモンスター討伐依頼で残っている物を教えてくれ。」
「はい、かしこまりました。」
そうしてお姉さんは山積みになった依頼の紙の方へ歩いて行った。
さて、どんな依頼があるんだろうな。
しかし、それから俺たちの待つカウンターの前に来たお姉さんは1枚の紙しか持っていなかった。
そして申し訳なさそうな表情でこう言う。
「申し訳ありません、実は今日出ていた討伐依頼はもうほとんど受けられていまして、条件の合う物で探すとひとつしか残りませんでした。」
「そうだったのか。ちなみにその依頼は?」
「こちらになります。」
そうしてお姉さんは1枚の依頼内容が書かれた紙をカウンターの上に置く。
そこには――
=========================
レガロ採掘跡地でのゴブリン討伐
・適正ランク:D
・内容:数体のゴブリンを討伐
・報酬:銀貨2枚
・場所:レガロ採掘跡地
・期限:早め
・依頼主:憲兵団
・備考:無し
=========================
なるほど、ゴブリンの討伐か。
まぁ俺は構わないが、
「ゴブリンの討伐依頼はいつも人気が無くてですね、よくこうして余り物依頼になるんですよ。」
「まぁだれもゴブリンとは戦いたくないもんな。」
全てを見透かしている様な黄色い目に不気味に笑う口、とんがった耳に深緑色の肌。そして性格も極めて凶暴。
ミコトがこんなモンスターの討伐なんてする訳無いだろうし、今日は別の依頼を受けるかひとりでこれを受けるかだろうな。
――しかし、そこでミコトは真剣な表情になると、
「良いわ、その依頼受けるわよ。」
「……え?良いのか?ゴブリンだぞ?てっきりお前はそういうの――」
「良いもなにも、受けるって言ったんだからそれで良いじゃない。」
「まぁ、」
俺的にも受けたかったからそれでも良いが。
「で、その採掘跡地に居るゴブリンは何匹なの?」
「はい、依頼を出された憲兵団は『ゴブリンが数匹、ゴブリンソードマンが2匹』と言っていました。」
「なるほど、それなら大丈夫そうね。それに報酬もそれ相応みたいだし。」
「エリックは大丈夫?」
「あぁ、俺は問題ないぞ。」
「決まりね。ペンを頂戴、名前を書くわ。」
「かしこまりました。」
こうして俺とミコトはゴブリン討伐依頼にフルネームを記入し、受けたのだった。
「よし、じゃあ向かうとするか。」
ギルドを出た俺は空に輝く恒星に向けて伸びをする。
「確か、レガロ採掘跡地はレガロ鉱山の中腹にある穴よね。」
「あぁ、そう言ってたな。」
今回俺たちが討伐するゴブリンの住む穴はレガロ採掘跡地と言って、昔鉄や金を採掘する為に掘られた穴らしい。
そしてそのレガロ鉱山は前オーガを討伐したデゼル平原とは反対側――王都から見ればすぐ左側に見える鉱山だ。
だから、距離的には前の依頼ともさほど変わらないって訳だな。
すると、それから俺たちが歩き始めて数分、そろそろ王都を出るかというところでひとりの男の子が声をかけてきた。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!2人って冒険者さんっ?」
目をキラキラと輝かせながらこちらへ駆け寄ってくる太もも程までの背丈しかない男の子。
「うん、そうだよ〜。お兄ちゃんとミコ――じゃなくて、このお姉ちゃんと一緒にこれから悪いモンスターをやっつけにいくんだ。」
「へ〜っ!!かっこいい!!僕もいつかなりたいな!!冒険者さん!!」
「お、いい夢だね。君ならきっとなれるよ。」
「えへへ」
俺は目線を合わせる為にしゃがむと、頭を撫でる。
「あ!そうだお兄ちゃん!これあげる!僕の武器だよ!」
するとそこで男の子は背中にさしていた短い木の棒を手に取ると、俺に渡してきた。
「ありがとう、大切に使うね。」
「うんっ!!お姉ちゃんも、頑張ってねっ!!」
「え、えぇ」
そうして男の子はどこかへ走って行った。
「……エリック、よくあんな子供の相手を出来るわね。」
「ん?あぁ、なんだか昔の自分を見ているみたいでな。」
あの子くらい俺が小さかった頃は毎日必死に父さんの役にたつ為、生活魔法を練習してたっけな。
「なんだなんだ?まさかミコトは苦手なのか?」
「苦手というか……まぁそうね、苦手かもしれないわ。――それに、その木の棒も要らないでしょう?」
「これか?いや、もしかしたら役にたつ時が来るかもしれないぞ?」
「お前は俺の生活魔法を侮っていたが、負けた。それと同じ様にこれが凄い力を発揮する時が来るかもよ。」
「ふっ、だからあれはたまたまだって言ってるでしょ」
それから再び歩み始めた俺たち。そして数十分後、レガロ鉱山の山道に入り、しばらく登り続けたところでやっと目的地に到着した。
「予想通り、ここには初めて来たけれど採掘跡地というだけあって整備はされているっぽいわね。」
「整備と言っても、最低限穴が崩れない様に木の枠組みで補強しているだけだけどな。」
俺たちは木で縁取りされた穴に近付く。どうやら奥も等間隔で補強されている様だが当然光は入らず、先は全く見えない。
「よし!じゃあ行きましょう!!――――って、あ!?」
すると、そこで上機嫌に穴へ歩いて行ったミコトが素っ頓狂な声を出した。
「なんだ、どうした。」
「い、いや、光源が無いことに今気付いたのよ、、松明とか……」
「……はぁ、」
俺は腰に付けている横長のポーチを開けると予め持ってきていた松明を取り出す。
そして、
「
松明の先端に炎を宿した。
「これで大丈夫か?」
「……ッ!!え、えぇ。まぁ?私はエリックを試しただけなんだからね?冒険者として松明の常備は当たり前よ!!」
「とりあえずは安心したわ」と、大袈裟に笑うミコト。
おいおい、言い訳をするにしてももう少しマシなやつがあるだろうよ。
「ふ、ふふんっ!とにかく早く行くわよ!!」
「……へいへい」
そうして俺とミコトは採掘跡地へと入って行った。
中に入ると、炎の明かりに照らされて少し先の道が姿を現す。
しかし、しばらく歩いても続いているのは単調な一本道だった。
それに、こんなところに本当にゴブリンが居るってのか?と疑ってしまう程に静かだ。
そんなこんなで歩く事数分。
「待って」
「?」
突然松明を持って先頭を歩いていたミコトが静かにそう呟き、歩みを止めた。
「耳をすませてみて、なにか水の様な音が聞こえるわ。」
「水?」
俺は耳をすませる。
すると確かに、「ベチャベチャ」という音が奥から聞こえてきている事が分かった。
そして、その音は段々とこちらへ近付いて来ている。
なんだ……?スライムがこっちへ近付いて来ているのか……?
いや、でもそうだとしたら妙だな。スライムは草原に住んでいるモンスターだぞ……?
しかし、そう考えでいる間にもどんどんその音は近づいて来る。
そして遂に松明の光で分かる距離までその音が近づいたその時、そのモンスターは姿を現した。
「……ッ!?」
「こ、こいつはまさか――」
ゴブリンよりも3倍程高い背丈、だが肌はゴブリンと同じ深い緑色。ボテっと太った腹、片手に持つのは錆びてボロボロになった剣。
そして頭上に王冠。
「ゴブリン……キング……!?」
そう、なんと俺たちの目の前に現れたのはゴブリンキングだったのだ。
「ちょ、ちょっと待って!!話じゃゴブリンが数匹にゴブリンソードマンが2匹だったじゃない!?こいつは――ゴブリンキングは危険度Aのモンスターよ!?」
危険度、A……!?
ゴブリンキング。数多く存在するゴブリン系の中でもかなり上位に位置するモンスターで、討伐件数も少ないと本で読んだ事があったが、危険度Aって事は……ミコトでも『狩るには危険が大きく伴うモンスター』だって事だよな……?
昨日確かに俺はミコトに模擬戦で勝ちはしたが、王都に来てから色々な冒険者の会話を聞いてきたから分かる。
Aランクの冒険者どころかBランクすらこの世界にはほとんど居ないのだ。
要するに、王都の冒険者でもほとんどが狩る事の出来ないモンスターという事。
そこで俺は目の前のモンスターを前にして、産まれて初めて自分の背筋が凍る感覚を覚えた。
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