第4話【Bランク冒険者VS生活魔法】
「へへ、Dランクになったぞ。」
冒険者ライセンスに記入されたランクをFからDに更新してもらった俺は早速依頼を受ける為、冒険者たちが並ぶ受け付けの最後尾に立つ。
昨日の依頼も内容はあくまでヒール草を集める事のみ。
だからオーガを倒したからって報酬が豪華になった訳じゃ無かったんだよな。
だからその報酬ではご飯を食べれたくらいで、昨日は野宿だった。(と言ってもギルド横にあるベンチだが)
今日はDランクで受けられる中では1番報酬の良い依頼を受けるかね。
「――ねぇ、貴方。」
「……ん?」
するとそこで俺に後ろから誰かが声をかけた。
なんだなんだ?俺はちゃんと列に並んでいるだろう。
「なんだ?」
俺は後ろを向く。
そこに居たのは炎の様な赤髪ロングに鋭い目付きが第一印象の女の子だった。
「貴方、昨日話題になってたわよね?『冒険者を初めて1日目でオーガを討伐』って。」
「あぁ、らしいな。」
まぁ、俺自体その話題にはあまり興味が無いが。
だって、あそこで憲兵と同じ様に逃げていたら王都にオーガが押し寄せていたんだから倒すしか無かったからな。あくまで冒険者として当たり前の事をしたまでだ。
しかし、対して赤髪ロングの女の子は拳を強く握り締めると、怒りの表情をあからさまに顔へ浮かび上がらせる。
「……ふざけないでくれるかしら?貴方がいなければ私は王都の冒険者史上最速オーガ討伐記録を保持していたのに……!!」
「へ?なんの記録だって?」
早口だったからよく聞き取れなか――
「……ッ!?」
その瞬間、赤髪ロングの女の子は俺に身体をグッと近付けると、
「私はミコト・ドレースッ!!冒険者を初めて4日目にオーガを討伐した炎属性魔法を使うBランク冒険者よッ!!」
「貴方――私と決闘しなさいッ!!」
「は、はぁぁぁぁぁ!?!?」
♦♦♦♦♦
「おい、お前今なんて――」
「聞こえなかった?私と決闘しなさいと言ったの。」
「いや、なんでだよ!?」
こいつは一体なにを言ってるんだ……?
それに、冒険者同士での戦いだなんてギルド内で話していい内容なのか……?
「なんでって。貴方がオーガを1日目に倒しちゃうから私より強い、みたいになるじゃない?だからここは決闘で私の方が強いという事を知らしめたいのよ。」
「知らしめるって……そんな事他の冒険者は興味あるのかよ。」
「あるんじゃない?ほら、結構視線集まってるわよ。」
「へ?」
そうして俺は周りを見渡す。すると、確かに数人の冒険者がこちらを見ながらなにやら仲間と話していた。
『あの2人って最近話題になってるやつらじゃないか?』
『決闘するのか?気になるから見に行くか』
おいおい……見に行くってなんだよ……
「で、どうするの?決闘するの?それとも逃げる?」
「いや、まずそんな事冒険者同士でしていいのか……?」
「何言ってるの。冒険者は昔から他の冒険者と決闘で戦い、強くなってきたんだから良いに決まってるじゃない。」
「そうなのか?」
「えぇ、ギルドのすぐ横にそれ専用の闘技場もあるしね。」
そうなのか。う〜んそれなら――いや、それでも今日は依頼を受けると決めたんだ。というか、決闘なんて勝ったから報酬が出る訳でも無いだろ?それだと勝ち負けとかじゃなくて生きていけなくなっちまうじゃねぇか。
しかし、ミコトはそんな俺の心の内を見透かしたかの様に、
「……ふ〜ん?なるほどね。分かったわ。貴方、お金が無いんでしょう?」
「そ、そうだが。なんで分かった?」
「貴方、さっきDランクに昇級するところを見たけれど、噂によればそれまではFランクだったんでしょう?それに今日はまだ冒険者を初めて2日目。終いには家すら持っていないってなると、もうお金が無いのは明らかね。」
「……」
「じゃあ、私に勝ったら賞金としてお金をあげるわよ。う〜んそうね――銀貨5枚でどう?」
「マジかっ!?」
銀貨5枚だって……!?食事代を入れなかったら3日は宿に泊まれるぞ……!!
「マジもなにも大マジよ。私は今このギルドで1番勢いのある駆け出し冒険者なんだから。銀貨5枚くらいなんでもないわ。」
「初期ランクBを舐めないでよね」フンと鼻を鳴らし腕を組むミコト。
確かに、これなら今日依頼を受けるよりはミコトと戦い、勝った方が報酬は大きい。
でも、勝てるかどうかは生活魔法を俺自身が信じているから一度考えないとしても――やっぱり冒険者同士で戦うのは抵抗があるな……
それでも、正直周りからの視線が集まっている事も相まって、断れる状況でも無かった。
「……分かった。やってやるよ。」
「決まりね。じゃあ早速着いてきて。もう闘技場を使う許可は取ってあるから」
(絶対俺と決闘するつもりだったんだな……)
こうして俺は渋々ながらも突然話しかけてきた赤髪ロングの女の子――ミコト・ドレースとの決闘を了承する事になったのだった。
「おぉ、こんな感じなのか。」
それからミコトと共にギルドを出て、すぐ横にある闘技場へ入る。
そして観客席へ続く道とはまた別の道を進むと、そのままアリーナへ出る事が出来た。
地面は砂で、パッと見は直径30メートル程の円形だ。
室内では無い為もちろん屋根は無く、空で輝く恒星の光が燦々と地面を照りつけていた。
そしてアリーナの周りにはここで起きる戦いを観戦する事が出来る観客席があり、チラホラと観客がいる。
そういえば、王都の上層部に住む貴族は闘技場での戦闘観戦を嗜好にしていると本で読んだ事があるぞ。
――だが、なんか見せ物みたいで俺はあまり好きじゃないな。
するとそこでミコトが持っていた木の剣2本の内1本を渡してくる。
「はい、今回は大怪我を負わないように木の武器を使うわ。魔法は自由に使っていい。先に一撃を相手の身体にくらわせた方の勝ち。良いわね。」
「あ、あぁ。大丈夫だが、」
イマイチまだ心の準備が出来ていないんだが――
しかし、俺の返しを聞いたミコトはすぐに数メートル離れていくと、剣を構える。
「じゃあ――行くわよッ!!」
そして、俺の心情はお構い無しに真正面から突っ込んできた。
「……ッ!!いきなりかよ……!!」
俺もすぐに剣を構えると、受けの体勢を取る。――が、
「はぁぁぁっ!!」
「なっ、!?」
ミコトの斬撃を剣で受けた瞬間、俺はあまりの衝撃に後ろへ吹き飛ばされた。
クソ……っ、やっぱり通常状態じゃ力の差があるか……ッ!
「オーガを倒した力はどうしたのっ!!」
「ク……ッ!
そこで、後ろへ弾かれた俺に追撃をしてくるミコトの横一線をなんとか自身に
空を斬ったミコトの剣。
しかし、だからと言ってそこで止まる訳では無い。
決闘が始まってからまだ10秒。
しかし、この短い時間だけで分かる。ミコトは普通の人間よりも明らかに身体能力が高いのだ。
「はぁぁぁぁぁ!!」
なんと空を斬り、その反動でバランスを崩したにも関わらず、無理やり身体をねじって体勢を立て直すと、再び地面を踏み込み、こちらへ突撃してきたのだ。
(マジかよ……ッ!?)
そして、対して俺は
「ぐあぁぁぁぁぁッ!?」
先程の様になんとか剣で受ける事は出来たが、先程よりもものすごく後ろへ吹き飛ばされてしまった。
「はぁ……はぁ……」
吹き飛ばされた事により擦りむけてしまった足を若干気にしながら俺は立ち上がるとすぐに構え直す。
そう、これが
この生活魔法を自身に使えば身体を素早く動かす事は出来るが、それは身体が軽くなっているから。要するに、今のように攻撃を受けた時、体重を利用して踏ん張る事が出来なくなってしまうのだ。
「ふ〜ん?その魔法は自分の体重を軽くする代わりに踏ん張れなくなるのね。でも、それだけじゃ私には勝てないわよッ!!」
そうして、間髪入れずに再びこちらへと剣を構え、走ってくるミコト。
「……ッ!!それなら……ッ!!」
だが、俺にも生活魔法を使う冒険者としてプライドがある。このまま終わる訳にはいかない。
「これならどうだ!!
そこで俺は突っ込んでくるミコトの持つ剣に手を伸ばすと、
「……ッ!?」
途端に驚きながら剣を地面へと落とすミコト。
よし、驚いてるぞ……!!今のうちに――
「……ッ!!負けるかぁ!!
しかし、なんと剣を落としてもミコトは止まらない。
今度はミコトがこちらへ手のひらを向けると、轟々と燃える炎の弾をこちらへ飛ばしてきた。
ほう……っ!!だけどな、炎属性魔法に関してはしっかりと対策があるんだよッ!!
「確かに俺は炎属性魔法を打ち消す水属性魔法は使えない、だがな――」
「
そこで俺は自分の魔力を湿気に変換し、目の前に散布した。
「なっ!?」
すると予想通り、こちらへ飛んで来ていた炎の弾は湿気のある場所に入った途端、勢いを弱めて地面へと落ちた。
「やっぱりだ、炎は湿気に弱い……!!」
本来は喉が痛い時にそれを潤わせたり、キノコを栽培したりする時に使用する生活魔法だが、通常の人間よりも何倍もマスターした俺にならこんな使い方だって出来るんだよ……!!
そして、そんな光景を見て動揺し、ミコトの足が止まった今がチャンスだ!!距離も俺の魔法圏内!!
俺はミコトに向かって手を伸ばすと、
「
身体の重量を何倍にも跳ね上がらせた。
「……ッ!?な、なにこれ……!?身体が重くて……動かない……ッ!?」
「へへ、さっきはあんなに早く動かれたから狙いを定められなかったが――生活魔法に対する対策を取っていなかったお前の負けだな。」
「生活魔法に対策……!?そんなのする訳無いでしょうッ!!」
しかし、こんな負け方は自分のプライドが許さないのだろう、ミコトもなんとか片手を持ち上げこちらへ伸ばすと、
「
何度も何度も、炎の弾を飛ばしてきた。――が、対策法のある攻撃は意味が無いに等しい。
「
そんな攻撃も、俺は涼しい顔で打ち消した。
「なんでッ!?私の炎がたかが湿気ごときに……ッ!!」
「はは、タダの湿気か。」
「普通の人間はそこで終わってもな――極めれば炎を打ち消せるんだよ。俺は生活魔法で英雄になるんだからな、これくらいは当然だ。」
「……ッ!?」
そしてそのまま足が地面に張り付き、全く動けないミコトの元へゆっくりと歩いていくと、木の剣で優しく肩を叩く。
「ほら、これで俺の勝ちだ。」
こうして俺はBランク冒険者、ミコト・ドレースとの模擬戦を制したのだった。
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