第3話【昇級】


「エリック様、お待ちしておりました。」


 翌日、俺はギルドに入るとすぐ、一番初めに冒険者登録をする受け付けの場所を教えてくれたお姉さんに話しかけられた。


「お待ちしておりました?別に俺は待っててくれなんて言ってないが。」


 なにか用があるのだろうか?


「はい、そういう事ではないのですが――とにかく、私は詳しい話は知らないので、エリック様から見て一番右側の受け付けへ行ってください。詳しい話が聞けるはずです。」

「?分かった。」


 なんだ?詳しい話?

 俺は言われた通り、一番右側の受け付けへ行く。


「あの、入り口に立ってるお姉さんからここへ行けって言われたんだが。」

「お、来たか。――確か名前はエリックだな。」


 言われた通りの場所へ行き、担当のムキムキスキンヘッド男に話しかける俺。

 すると、それに気が付いた男は片手を腰に当てるともう片方の手をこちらへ伸ばし、


「早速だが、冒険者ライセンスを出してくれ。」

「冒険者ライセンス?なんでだよ?」

「実は昨日、お前がデゼル平原に突如出現したオーガを討伐したと分かってから憲兵の野郎共がギルドうちに駆け込んできてな。『お前を憲兵に入れたい』と言い出したんだよ。」

「はぁ?」


 どういう事だよ、話が急展開過ぎてついていけていないんだが。


「なんで、俺を憲兵に?」

「そりゃあ、生活魔法だけでオーガを倒しちまう人間なんて聞いた事も見た事もねぇ。それに、そいつがまだ冒険者を初めて1日目のひよっこときちゃあ、欲しいに決まってらぁ。」


「それに、ただでさえ冒険者という職業は安定がしないのに、Fランクなんてそれ1本で生きて行くのも大変だろ?だから、要するに憲兵の野郎共は少し金をチラつかせてお前を自分たちの所有物にしようとしてるって訳だよ。今日お前をここに呼んだのは、冒険者ライセンスを返却して冒険者を辞め、憲兵に入るかどうかって話だ。」

「……なるほど」


 だから冒険者ライセンスを出せって言ったんだな。

 ん?でもそれってあたかも俺が冒険者を辞める前提みたいじゃねぇか。


「でもよ?憲兵の人たちには悪いが俺は冒険者を続けるぞ。」

「――へ?そ、そうなのか……?」

「いや、だって俺が王都ここに遥々来たのは『王都で冒険者をする』って目標があったからだ。なのに冒険者を辞めちまったら元も子も無いだろ。」

「まぁそうかもしれないが――憲兵だぞ……?危険度も冒険者に比べれば何倍も低い場所を定期的に巡回するだけで安定して稼げるんだぞ……?今までここの冒険者が憲兵に誘われた時は皆、絶対そっちへ行くからFランクのお前なら尚更だと思ってたが。」


 何言ってんだよ、安定が全てなのか?金を多く稼ぐ事が全てなのか?もし俺がそう思ってるなら、まず王都なんかに来てねぇっつうの。


「まるで俺がずっとFランクのままだみたいな言い方だが――それならランクが上がるように何度も依頼を受ければいい。何体ものモンスターを倒せばいい。金がって言うのなら、憲兵の何倍も稼ぐ冒険者になればいい。――俺は生活魔法で英雄になりたいんだよ。」

「……はは、ほんと、お前みたいなやつは初めてみたぞ。」


「――だが、そういうの嫌いじゃねぇぞ俺は。生活魔法で英雄か、常識的に見れば生活魔法使いの冒険者なんて有り得ないがやってやれば良いじゃねぇかよ。」

「当たり前だ。――で、それで話は終わりか?」


 終わりなら、早く依頼を受けたいんだが。

 しかし、そこで男は笑顔のまま「いや、ちょっと待て。」他の冒険者が並ぶ受け付けの列に並ぼうとする俺を引き止めた。


「なんだ?まだ話があるのか?」

「良いから、冒険者ライセンスを貸せ」

「え?だから俺は冒険者を辞めないって――」


「違うぜ、実は憲兵の野郎共がギルドに来る前、お前の事で会議をしてたんだが――その時出たんだよ、昇格の話が。」

「昇格?」

「あぁ。まぁ正直、冒険者を始めて1日目で昇格なんて話は聞いた事がないが――ギルド長曰く『それ程の力を持った冒険者がFランクなんておかしい。それはギルドのあるべき姿なのか』なんて言い出してな。」


「あのおじさん、一度言い出したら自分の意見を曲げるタイプじゃないからな〜」頭をポリポリと掻きながら言う男。


「――だからまぁ、こうしてお前が冒険者を続けるのなら、昨日の功績によりFランクからDランクへ昇格だ。」

「おぉ……!すごい――のか?」


 正直、いきなり昇格だなんて言われてもよく分からない。

 なんせ冒険者やギルドとは全く無関係な村にずっと住んでいたんだからな。


「凄いかどうかで言えばDランク自体の冒険者は沢山居る。だが、FランクからDランクに一気に上がったのは俺は初めて見たな。というか、Fランク自体初めて見たが。」

「ちなみにだが、そのDランクになればなにかが変わるのか?」


 ただの称号の様にも感じられるが。


 しかし、そのセリフを聞いた男はため息を吐くと、


「お前、ほんとに何も知らないんだな。仕方ねぇ、簡単に説明してやるよ。」


 そう言い、俺にこの『ランク』の説明をしてくれた。



 簡単に言うと、ランクとは『その者がどれだけの力量か』というのをすぐに視覚化出来る様、作られたものだそう。


 下から順番にF、E、D、C、B、Aと上がって行き、現在の最上級はSランク。

 そして、そのランクによって受けられる討伐依頼のモンスターの強さが変わるのだとか。


 例えば、昨日俺が討伐したオーガ。

 こいつは『危険度C』という分類で、討伐依頼を受けられるのはランクがC以上の冒険者だけらしい。


 そう考えたら、俺は昨日まあまあ強いモンスターを倒したっぽいな。


「――じゃあ、俺がこうしてDランクに上がったって事は、危険度Dまでのモンスターの討伐依頼なら受けられるって事か?」

「あぁ、Dランクまでだと、危険度Eのスライムや危険度Dのゴブリンが居るな。」


 お……!!それなら俺もちゃんと依頼を受けてモンスターを討伐出来るって訳か!!


「よしっ!!ほら早くランクをDに変えてくれ!!」

「分かってるからそんなに冒険者ライセンスをカウンターに叩きつけるんじゃねぇ!?」


 そうしてなんだかんだあり――


「――ほら、これが新しい冒険者ライセンスだ。」

「お、ありがとう」


 そうして俺は男から冒険者ライセンスを返してもらうと、すぐにランクの表記がされている部分を見る。

 すると、ちゃんとランクはFからDへ上がっていた。


 よし……!!これでモンスター討伐の依頼を受けられるぞ!!

 理想の冒険者にまたひとつ近づいたからな、父さん……!!

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