第2話【オーガVS生活魔法】
「よし、じゃあまずは依頼を受けてみるか」
王都の人たちを生活魔法で助け注目を集めるという作戦が見事功を奏し、通常よりも低い最底辺ランクであるFランクではあるが、何とか冒険者になる事が出来た俺。
冒険者になったらやっぱりまずは依頼を受けないとだよな。
なんと言っても、依頼を受けない限りはお金が稼げない。そして、お金が稼げなければ当然生きて行く事は出来ない。
だから冒険者登録を終えると、俺はすぐに横の冒険者たちが並んでいる受け付けの列に並ぶ。
そして自分の番が来ると、
「おはようございます。本日はどの様な依頼を――」
バン、先程発行してもらったばかりの「冒険者ライセンス」をカウンターに叩き付け「なんでも良い。俺に合った依頼を教えてくれ」正面に立つお姉さんにそう言い放った。
ちなみに冒険者ライセンスは小さなカードの様な物で、自分の冒険者においての身分を現す役割を果たす。
すると、『Fランク』そして俺の名前が書かれている冒険者ライセンスを手に取った受け付けのお姉さんはそれをしばらく見つめた後、後ろに行き、依頼が書かれた紙の山から数枚選び、こちらへ持って来た。
「えーエリック様ですね。これらの依頼はいかがでしょう?」
「どれどれ――」
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酒場での1日アルバイト
・適正ランク:無し
・内容:酒場での皿洗いや料理など
・報酬:銅貨8枚
・場所:王都――(住所が書かれている)
・期限:無し
・依頼主:酒場店主
・備考:動きやすい服装で来ること
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「って、なんだこれ?酒場で働く人の募集じゃねぇか。」
「はい、そうですよ。」
いや、俺はそういうのじゃなくてモンスターの討伐依頼とかを受けたいんだが……
「ほ、他の依頼を見せてもらってもいいか?」
「はい、ではこちらはどうでしょうか?」
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デセル平原での薬草収集
・適正ランク:無し
・内容:デゼル平原にて、ヒール草を3束収集する
・報酬:銅貨6枚
・場所:デゼル平原
・期限:無し
・依頼主:ギルド
・備考:特に無し
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いや、だからこれもモンスター討伐じゃねぇじゃん。
俺はモンスターと戦って報酬を手に入れたいんだがなぁ……
そんなに俺、モンスターと戦いたく無さそうに見えるか?
「すまん、俺はモンスター討伐の依頼を受けたいんだが。」
そこで俺はお姉さんにそう言ってみる。
すると、そこでお姉さんは表情を一切変えないまま、
「申し訳ございませんが、モンスターとの戦闘が要素に含まれる依頼はEランクからとなりますので、Fランクのエリック様にそれを提示する事は出来ません。」
「なっ……!?」
ま、マジで言ってるのか……?
てっきり冒険者になれば大丈夫だと思っていたが――そういう事でも無いのかよ……!?
「じゃ、じゃあ今提示された様な依頼しか受けれないって事か?」
「はい、他ですと家畜の世話や身体の悪い方の掃除代行など――」
「いや、もう言わなくて大丈夫だ!?」
はぁ……でも、Fランクでも良いから冒険者にならしてくれと言ったのは俺自身だしな。
それに、あくまでも俺はギルドの定めた最低基準をクリアしている訳では無い。
だから、仕方ないのかもしれない。
「……分かった。ならその――『デゼル平原での薬草収集』って依頼で大丈夫だ。」
とにかく、今は何としても生きる為にお金を稼がなければ。
きっと父さんの言っていた『冒険者』はモンスターを狩り、みんなを守る人たちだろうから出来ればモンスター討伐の依頼が良かったが、しょうがない。
「分かりました。ではこの欄にフルネームのご記入をお願いします。」
「あぁ」
「デゼル平原の場所は分かりますか?」
「いや、多分分からないから教えてくれ。」
俺が言われた通り依頼の紙に名前を書きながらそう言うと、お姉さんはカウンターのすぐ下から地図を出し、それを広げる。
「まず、王都を正面出口から出て下さい。するとすぐ右側に『ウーマタ森』を直線に切り開いた道がありますので、その道を真っ直ぐ進んでもらうとデゼル平原です。」
地図を指さしながら説明をしてもらった為、すぐに理解する事が出来た。
「なるほど――分かった。ありがとうな。」
「いえ、ではエリック様の記入していただいたフルネームも確認出来ましたのでこれにて依頼の受理完了となります。行ってらっしゃいませ。」
こうして俺は人生で初めて冒険者として依頼を受けた。
♦♦♦♦♦
それから、お姉さんの言っていた通り王都を出ると、ウーマタ森を切り開いた道を見つけ、進み始めた。
「はぁ、初めて受けた依頼がヒール草の収集ってなんだよ。」
これじゃ俺の生活魔法を活かせねぇじゃねぇか。
どこかから突然、モンスターが飛び出しでもしてくれればそれを倒して力を示せるんだが、全然そんな雰囲気も無いしな。
そんなこんなで、俺はぶつぶつとひとり呟きながら道を進んでいく。
――するとそこで、後ろから大勢の人が小走りで近づいて来ている音がした。
ん?なんだ?
俺は歩みを止めると、邪魔にならないように道の隅に移動してその人たちを待ってみる。
どうせヒール草の収集は急を要する物じゃないんだ、もしかしたらなにか運命的な出会いをするかもしれないしな?
ドッドッドッドッド。
足音はどんどん近づいてくる。
「……ッ!、」
そこで遂に、その人たちの姿が見えた。
どうやら全身を青い十字のマークが描かれた金属鎧で纏いヘルムをかぶっているようだ。
その手にはそれぞれが剣や槍や斧を持っている。
そして、俺はその者たちの正体を知っていた。
王都直属の憲兵だ。
色んな人を生活魔法で助けている時、度々王都の出口へ複数人で歩いて行くのを(どこへ行くんだ?)と言った風に見ていたが、まさかこいつらも俺と同じ様にヒール草でも集めに行くのか?
「なぁ」
「ん?なんだ。」
そこで俺は思い切って先頭を歩く憲兵に声を掛けてみた。
「これからどこに行くんだ?」
「デゼル平原だ。これからモンスターが出現していないかを確認する定期巡回へ行く。」
「用がないなら話しかけるな」歩みを止めてそう言う憲兵はヘルム越しで顔が見えないという事も相まってか、とても冷たく思えた。
「なるほど。」
「……」
すると、そのまま憲兵たちはまた歩き始め、道の先へと進んで行った。
定期巡回ねぇ。
でもよ?デゼル平原って多分だがモンスターがポンポン出現する様な場所じゃないんじゃないか?(Fランクでも受けられる依頼があるくらいだし)
多分、ありゃ俺の方が強いな。
立場的には残念ながら絶対に一定の高収入を得られる王都上層部に住む人間と、最底辺ランクの家も無い冒険者だが。
「……とりあえず、進むとしますかね。」
しかし、それからしばらく進み、やっとウーマタ森を抜けデゼル平原に出たかというところでなんと憲兵がモンスターと対峙しているところを俺は目撃する。
「ウォォォォォッッ!!」
「――を倒せ!!――けるな!!」
オレンジ色の皮膚に4メートルはありそうな体格。
頭から巨大なツノを2本生やし、片手に引き抜いたのであろう木を持つあのモンスターは――本でしか見た事が無いがおそらくオーガだろう。
おいおい、大丈夫なのか……?って、しかもなんでこんな平原に強そうなモンスターが居るんだよ。
「って、!?」
すると次の瞬間、信じられない光景が目に入る。
なんとオーガは手に持っていた木を振りかぶり、1番前に立っていた憲兵にそれを叩き付けたのだ。
……金属の鎧を纏っていてもモンスターの前では実に無力である。木を叩きつけられた憲兵はそのまま肉片となり、周りに飛び散った。
「――わぁぁ!?――げろッ!?」
更に、それを目の当たりにした他の憲兵たちは恐怖で叫びながら武器を投げ捨て、こちらへ走って来る。
そのまま俺の横を通り抜けると王都の方へ逃げて行った。――――って、へ……?
「お、おいちょっとっ!?」
「グォォォォォォォッ!!」
「……ッ!!」
標的が逃げた事により、狙いを俺に変えるとドスンドスンと地鳴りの様な音を鳴らしながらこちらへ走ってくるオーガ。
ちょっと待ってくれ……!?確かにさっき『モンスターが飛び出してくれれば力を示せる』とは言ったがよ!?
だが、それでもここで俺まで逃げてしまうとオーガはそのまま王都まで来ることになるだろう。
そんな事になってしまえば――どうなるかは言わなくても分かるはずだ。
入り口付近は王都と言っても殆ど郊外で、憲兵の見張りがいるのもある程度上層部の人間が住むエリアから。
オーガの討伐も遅れるはずだ。
それなら……ここで食い止めるしかねぇだろ……!!
(父さん、見ててくれ……!!今、誇りに思ってくれた俺の
「来いよ、オーガ……ッ!!」
俺は背中から父の使っていた剣を引き抜くと、それを構えた。そして、
「
物質の重さを軽くする生活魔法を自身に使う。
通常、これは重い荷物に使う魔法で、自身に使うというのは中々に難易度が高いが、俺はそのレベルなら容易に使う事が出来た。
(よしッ、身体が軽いぞ……!!少なくとも一撃は絶対避けられる!!チャンスはそこだッ!!)
「ウォォォォォォッ!!」
そこで、オーガは俺との距離を十分に詰め、手に持つ木を振りかぶると、先程の憲兵同様に叩き潰そうとしてくる。
「ふんっ!」
しかし、その寸前に俺は何倍にも軽くなった身体で地面を蹴り、ふわりと後ろへ飛んで避けた。
(よし……!!ここで2つ目の生活魔法――!!)
「
そして俺は地面にドスンと叩きつけられた木に「
これを使えば、その物質の重さは何倍にもなる――ッ!!
「ウォッ!?ウォォォォ!!」
するとその瞬間、再び木を持ち上げようとしたオーガが声を漏らした。
そう、先程は楽に持ち上げられていた木がビクともしなかったのだ。
驚いたのか、ムキになって両手で木を掴み、持ち上げようとするオーガ。――だが、そうなった時点でもうお前の負けだ……ッ!!
「
そして俺は
これは通常、古くなったレンガとレンガの接着や、柱と柱の接着など、大体は物を作成する時に使ったりするのだが――こうすれば、もうあいつの手は木から離れる事は無い。
そして、その木は今
「お前はもう、自分の両手を自ら引きちぎらない限りはそこから動く事は出来ねぇって事だな。」
「ウォォォォォ!?!?」
全身を無理やり動かそうとするが、身体がその場所から全く動かないオーガ。
おいおい、そんなに暴れるなよ。せめて、楽に死なせてやるから。
そうして俺は動けなくなったオーガに近付くと、手に持った剣で心臓を一突き――貫いた。
♦♦♦♦♦
それから数十分後。
俺は本来の依頼である「ヒール草の収集」をきちんと済ませるとギルドに戻る。
ギルド内に入ると、「デゼル平原で出現したオーガに憲兵がひとり殺された」という話題でザワザワとしていた。
あぁ、多分この感じ、逃げて行った憲兵の誰かがギルドに助けでも求めたんだろうな。
全く、見てる感じ憲兵はいつも収入が不安定な冒険者という職業を下に見てるくせに。
そうして俺は先程依頼を受けたカウンターまで行くと、内容通りヒール草を3束置く。
「はい。これで大丈夫か?」
「――あっ、はい。ですがその――大丈夫でしたか……?」
「なにがだ?」
「今、エリック様の行っていたデゼル平原でオーガが出現し、憲兵の方が1人――」
「あーそれってこいつの事だろ?片付けておいたぞ。」
そうしてポケットからオーガの立派なツノを2本取り出すと、ヒール草の横に並べる。
「「……ッ!?」」
その瞬間、一気にギルド内が静まり返り、視線が俺に集まる感覚がした。
「い、一体Fランクの貴方がどうやって……!?」
だからそこで――みんなが見ている前でこう言ってやったのさ、「生活魔法に決まってるだろ?」ってな。
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