生活魔法使いは英雄になりたい!〜攻撃性ゼロの【生活魔法】を極めた俺がそれを使って無双する。気付けば周りには沢山の仲間がいました。〜
カツラノエース
第1話【王都で夢の冒険者に】
俺、エリック・フィエールマンが生まれ育った村は1番近くの街まで行くなら数時間は掛かる様な辺境にあった。
村の人間が病気になっても誰かがそれを治す知識を持っている訳でもなく、だからと言って山を越えて街まで行く訳にも行かない。そんな場所だ。
そこで俺は父と2人で暮らしていた。
母は俺を生んだ直後に亡くなったらしい。父は村唯一の戦士で、近くに生息する危険なモンスターを狩る事が仕事。
そんな父に、俺は憧れていた。というか、こんな何も無い村では父を見るしか無かった。
それに、幼いながらに見る剣を背負った父の後ろ姿は正しくヒーローそのものだったのだ。そしてある日、俺は言った。
「俺、父さんみたいに強くなりたい。」
「エリック。これはそんなに良い仕事じゃないぞ。」
しかし、父はいつも俺にそう言ってくる。
今思えば、それは俺が危険な目に会わないで欲しかったからだろう。
だが、先程言ったが父しか見ることが出来なかった俺がそんな一言で諦める訳が無い。
――そんな時に知ったのが「生活魔法」の存在だった。
生活魔法というのはよく聞く戦闘に用いられる「火属性魔法」や「水属性魔法」の様な攻撃性のある物では無く生活して行く上で必要な魔法の事である。
代表的な物を挙げるとするならば料理をする時に使う
そんな生活魔法を使う村の人たちを見て、俺は幼いながらに思ったのだ「これなら父さんの役に立てる……!」と。
それからは努力の日々だった。
数々の生活魔法の使い方を村の人たちに教えて貰い、それを実践する毎日。
――そして、子供の成長力、学習能力は実に凄まじいものだ。
気が付けば俺は基本となる生活魔法をマスターしたのはもちろん。その他にも「
「よし、これなら父さんの役に立てるはず……!!」それまでずっと生活魔法を練習していた事を隠していた俺はその日仕事から帰って来た父にサプライズで披露しようと考える。
――しかし、その日父が帰ってくる事は無かった。
村の近くまで近付いてきていたゴブリンと相討ちになり、死んだのだ。
それを知った俺は酷く絶望した。
「もっと早く俺が生活魔法をマスターしていれば」
何度も何度も自分を責めた。人生そのものを幼い俺は否定した。
そしてそんなある日の事。俺は父の遺品整理の為に父の部屋へ入り、片付けをしているとそこでひとつの日記を見つける。
そこには、言っていないはずなのに俺が生活魔法を習得する為、必死に練習する様子が毎日書き込まれていた。
その中には「毎日頑張っていて偉い」「自慢の息子」といった単語が並んでいる。
そして、父が死んだ前日。最後の日記、そこにはこう書かれていたのだ。
『遂に俺の息子が
『俺は――エリックには冒険者になってもらいたいと思っている。生活魔法を必死に練習する息子が俺は誇りだ。いつか一緒に王都へ行き、冒険者をしたい。』
その文章を読んだ時、俺は涙を堪える事が出来なかった。
ずっと自分は何の役にも立てていないと思っていたが、父の誇りになる事が出来ていたのだ。
そして、冒険者になってもらいたい。これが父が残した最後の俺への望み。
その瞬間、俺の中で「王都へ行き、冒険者をする」という目標が出来た。
――そしてそれから数年が経ち、18歳になった今日。
俺は遂に村を去り、王都へ行く。
「忘れ物は無いわよね?」
「頑張ってね、エリックちゃん。」
「ワシらの事なんて考えずに、この村誇りのエリックの生活魔法でみんなを笑顔にするんじゃぞ。」
村の出口でお世話になって来たおじいさん、おばあさんから口々にエールの言葉を貰う。
「あぁ、みんなありがとうな。じゃあ、行ってくる。」
そうして俺は村を出て王都を目指した。
今は亡き父の使っていた剣を背中に背負って。
♦♦♦♦♦
それから数時間掛けて村から1番近い街へ行き、そしてまた数時間掛けて次の街に行き。と、俺は数日掛けてやっと王都へ着くことが出来た。
「遂に着いたぞ……夢にまで見た王都……!!」
俺の住んでいた村とは違う、装飾された石やレンガで作られた建物群を見上げながら俺はひとりでそう呟く。
だが、ここで止まっちゃいられねぇよな。俺の目標はただ王都に来る事だけじゃねぇ。ここで冒険者になるんだ!
こうして王都に入った俺は、ここに来るまでの道のりで手に入れた王都の地図を見ながら綺麗に並べられたレンガの道を歩き、冒険者登録をする為ギルドへと向かった。
「ごめんくださ〜い」
それから剣と杖がクロスをしたマークの付いた旗が掲げられていた建物を見つけた俺はここがギルドかと扉を引き、中へと入る。
内装は外見からしたら意外に小さく、昔からあるからか若干古臭かった。
そして、正面には長いカウンターがあり、そこに何人もの受け付けが並んでそれぞれが冒険者たちの対応をしている。
う〜ん、これはどこに並べば良いんだ……?
ずっと育った村にギルドが無かったからか、それとも王都のギルドがややこしいだけか。どちらかは分からないがそこで俺は早速入り口の前で立ち尽くしてしまった。
すると、そこでそんな俺が新人だと分かったのかひとりのお姉さんがこちらへ寄ってくる。
「あの、これから冒険者登録をされる方でしょうか?」
「あ、あぁ。そうなんだが……なんせ初めてで、どこに行けば良いかも分からなくてな」
後頭部を擦りながら苦笑いを浮かべる俺。
「そうでしたか。冒険者登録はこちらから見て1番左手の受け付けですのでそこへ行ってもらえると大丈夫ですよ。」
なるほど、冒険者登録専用の受け付けがあるんだな。
「おぉ、ありがとうな。」
「いえいえ」
そうして俺は笑顔で接してくれたお姉さんに軽く会釈をすると、言われた通り1番左手の受け付けへと歩く。
すると、どうやら今冒険者登録をしようと思っていたのは俺だけだった様で、並ばずに対応を受けられそうだった。
「あの、冒険者登録をしたいんだが。」
俺は正面に立つ落ち着いた顔立ちのメガネをかけたお姉さんにそう言う。
「分かりました。では、この紙に名前、年齢、使用する事の出来る主な魔法、また、自分の適正魔法属性を記入下さい。」
すると、お姉さんはそうして俺に紙とペンを渡してきた。
---《冒険者登録用紙》---
名前: エリック・フィエールマン
年齢:18歳
---《主な使用可能魔法》---
---《適正魔法属性》---
生活魔法
-------------------------
うーん、この「適正魔法属性」ってのがイマイチよく分からんが、多分どんな魔法が使えるかって事だろうからこれで良いよな。
「はい、書いたぞ。」
「ありがとうございます。――――――……?」
しかし、そこで俺が書いた冒険者登録用紙を受け取ったお姉さんはそれを見ながら「魔法ランク一覧辞典」という分厚い本を開こうとするが――そこでそれをすぐにやめ、少し困った顔をしてこう聞いてきた。
「あの、主な使用可能魔法の欄の事なのですが、これって全部生活魔法――で、あってますか……?それに適正魔法属性の欄には適正のある魔法の属性を記入して欲しかったのですが。」
「ん?生活魔法で合っているぞ。あー後、その適正魔法属性ってのよく分かんなかったから俺が使える「生活魔法」って書いたんだが。まずかったか?」
やっぱりダメだな。予め予習をしておいた方が良かったのかもしれない。
「いや、マズいと言うかあの――生活魔法は戦闘には使用出来ないと思いますし、、教会には行かれましたか?そこで自身の適正魔法属性を分かってからだと思うのですが。」
「だから、その適正魔法属性ってのはなんなんだ?」
俺はそう問う。
するとお姉さんは教えてくれた。どうやらこの世界にはいくつもの魔法の「属性」があり、基本的には「火、水、風、土、光、闇」の六系統があるのだそう。
「じゃあ、まずはその教会に行けば良いのか?」
「はい、まずはそこで適正魔法属性を分かってもらい、そこからその属性の魔法などを習得してもらいたいので。」
「分かった、行ってくる。」
そして教会に行き、しばらくしてギルドに帰ってくると、
「無い、らしい。」
「無い――とは……!?」
「いや、俺もよく分からんが、教会の人曰く『適正魔法属性が無い』らしい。」
そう、実はあれから教会で適正魔法属性を見てもらった際、当てはまる属性が無い、というか属性魔法の適正自体が無いと言われたのだ。
これってもしかして俺が幼い頃からずっと生活魔法だけを練習してきたせいで、逆にそれ以外が使えなくなった的なやつか?(幼い頃から筋トレし続けたら身長が伸びなくなる的な)
まぁ、正直属性魔法?が使えても使えなくても使う気は無かったのだが。
だってよ、俺が冒険者になるという目標は父がそう思ってくれていたからで、同じ様に父の好きと言ってくれたこの生活魔法で冒険者をやっていきたいからだ。
だからみんなが使ってる属性魔法が使えなくたって問題ないぜ。
「いや、あの……という事は使える魔法はこの生活魔法のみ、という事で大丈夫でしょうか?」
「あぁ。俺が使えるのは生活魔法のみだ。」
「それならあの……大変言いづらくはなるのですがギルドの定めた「最低基準」を満たしていない為冒険者登録は出来ません。」
「……へ?」
ちょっと待ってくれ。問題があるみたいだ。
「ど、どういう事だ……?その、最低基準というのは?」
「ギルドの定めた最低基準は、まず健康体である事、そして最低限の魔法を使える事です。」
「いや、最低限の魔法って、生活魔法があるだろう!!」
「生活魔法はその……戦いに用いる物ではありませんから。」
そうして、俺は王都に来て早々ギルドから冒険者登録が出来ないという事を告げられた。
♦♦♦♦♦
「はぁ……」
ギルドを出てすぐ横にあるベンチに座り、俺はひとりため息を吐く。
なんだよ「生活魔法は戦いに用いる物じゃない」って。
お前が生活魔法の可能性を知らないだけだろう……
あいつらは知らないかもしれないが、村に居る時は父に変わって何体ものモンスターを討伐してきたんだぞ?もちろん、生活魔法を用いてだ。
だが、王都で生きていく為には冒険者にならないといけない。
なぜなら、冒険者にならないと草原や洞窟内にいるモンスターを狩り、お金を手に入れる事が出来ないからだ。
(勝手に狩るとギルド側から許可無しでモンスターを狩ったという事で訴えられる事もあるのだとか)
「どうしたものか……――って、ん?」
すると、そこでひとりの男が大きな台車を押しているところが目に入った。
台車の上には沢山の食材が乗っており、とても重そうで男も苦しそうな表情をしている。
なにをしてるんだ?
もしかして分かってないのか?
そこで俺はベンチから立ち上がり、男に近づいて言った。
「なぁ、さっきから見ていて思ったんだが、なんで
しかし、はぁはぁと疲労で荒い息を吐く男はこう返す。
「
「いや、ちょっとどいてろ。」
「?」
何言ってんだ。それはお前の
そこで俺は台車に近づき、手をかざす。そして、
「
自慢の生活魔法を発動した。
「ほら、台車を引いてみろ。」
「ん?だから、生活魔法ごときじゃ変わら――ッ!?!?」
男はそんなので変わるかよと言いたげな表情をしながら台車のハンドルを握る。
するとその瞬間、台車に力を少し加えただけでそれは簡単に前へと進んだ。
「な、!?今何をやったんだよ兄ちゃん!?」
「いや、何をしたもなにも
「なっ……!?――へへ、すげぇじゃねぇか。生活魔法だって、侮るもんじゃねぇな。」
「……ッ!!」
「これで酒場まで時間通りに食材を届けられそうだ。ありがとな!」俺に手を振りながら向こうへ去って行く男。
それを見ながら俺はある事を閃いていた。
(これなら行けるかも知れねぇ……!!)
……まだ王都の人間は俺の力を知らないんだ。
それなら行動で力を示せばいいだけの話だろ?
それから、俺は数日間に渡り道行く人の困り事を全て生活魔法で解決して行った。
時には荷物を軽くしたり、時には汚れた水を綺麗にしたり、時には腐った食材を元に戻したり。と、どんな些細な事でもだ。(お礼にその日家に泊めてもらったりしていた)
すると、次第に俺のウワサは王都内で広まって行った。
そう、これが作戦だったのだ。俺がこれだけデキる人間だと王都の人間に知られる事が出来れば、きっとギルド側ももう一度断りずらいはず……!
――そして、そこでもう一度ギルドを訪れる。
「――頼む。依頼を受けられる様になるだけでも良いんだ。それからは自力で何とかする。」
「う〜ん……――――分かりました。」
「……ッ!!本当か!?」
「でも、本来はEランクから始まるところを、貴方は
「こんな事初めてなんですからね」はぁっとため息を吐きながらそう言う受け付けのお姉さん。
あぁ……!!ランクなんてこの際どうでも良い……!!
「それで大丈夫だ!!頼む!!」
「では、冒険者ライセンスを発行いたしますので改めてこの紙に名前をご記入下さい。」
こうして俺は王都で冒険者になるという目標を果たしたのだった。
だが、これだけじゃ終わらねぇ……俺は生活魔法のみで英雄になってやるッ!!
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