第38話 どうしていつも私の邪魔をするの!
「もしかして勝手に魔道具を作ったり改造しちゃたらダメだったんですかねえ?」
「魔道技適マークが付いていない魔道具の使用及び販売は魔力波法違反に問われるとか?」
「そういった法が取り決められてるって、結構な確率であり得ますよね?」
「あの都市認証板って部品がその辺りのことを見張ってくれてるんじゃないの?許可があれば動かせる、無ければ動かないからOKみたいな」
「何にせよ、あの時リオさんが凄い顔をしてた理由ってのは明日聞かせてもらえるようだし・・・、あそうだ。魔道具技師の講習会とかないんですかね?」
「そうか、確かにそういったスキルもいいな」
早速二人は再び職業訓練棟へと戻り、係員に声を掛けて話を伺った。
本日行われている講習は隼人くんが受講している斥候術のほかに、剣術、槍術、算術、読み書き、神学、薬草学だと教えてもらった。
また明日以降の講習は、年間スケジュールが記された紙が販売されているので、それを見て確認してくれとのことで、1枚購入しておいた。
この場でサングラスを装備するわけにはいけないので、持ち帰って後で確認しようと思う。
係員の方にお礼を言って職業訓練棟を後にした。
◇◇◇◇◇
二人は職業訓練棟を出た後、東区の商店街へと向かっていた。
明日以降ベッドのある生活へと変わるため、商店街に布団などの寝具が売られているかを確かめるためだ。
「今日やってた講習にはピンとくるものはなかったですねえ」
奥田はそう言う。
「強いて言うなら読み書きだな」
「魔道サングラスで文字は読めるようになったので、どうにも緊急性を感じないと言うか」
「まあわかる。つい先日まで生きるか死ぬかの環境で暮らしていたからな。取り敢えず読むことさえできるなら、書く方の出番は後回しにしてもいいように感じちゃうわ」
そんな会話をしながら東区へと続く通りを進んでいると、視線の先にはいくつかの商店が立ち並ぶ様子が見えてきた。
通り沿いには服屋、食器屋、鋳物屋、履物屋、金物屋、蔦籠屋など、様々な種類の商店が見受けられる。
通り沿いの店を外から眺めつつ歩いていると、お目当ての寝具屋を見つけたのでその店に入ってみることにした。
「いらっしゃい」
店の奥からはこの店の者と思われる恰幅の良いおばちゃんが出てきた。
「どうもこんにちは。中を見せてもらっていいですか?」
「ああ、自由に見てやっておくれ」
このやり取りで思い出したが、一昔前までは入店した時に客が店員に対して店内の閲覧許可を求めてから商品を眺め始める流れだったなと。
つまりは店側に主導権があったので、気に食わない客を自由に追い出したりすることが可能だった。
いまでは客が謙虚さを忘れて神だと勘違いしたせいで、無用なトラブルを抱えるようになったんだと感じる。
今日のところは追い出されずに済んだが、小汚い格好で入店しようものなら叩き出されたりもするんだろうなと思った。
「あ、布団ありますね」
「よかったここであってたみたいだ」
「布団の大きさってどれを選べばいいんだ?」
そう話していたら、店のおばちゃんが声を掛けてくれた。
「ベッドの大きさが分からないのかい?普通のベットならこの左端の布団がちょうど良いんだけど、あんたんとこのはどんな大きさだい?」
「いやあ、実はチラッとしかベッドを見ていないので正確な大きさがどれくらいだったか記憶が曖昧なんですよね」
「あらあらなんだい。そんな可愛い娘を貰っておいて頼りにならないねえ」
あ、この流れは不味い。
「こんな可愛い娘を貰ったのに情けない!」
奥田が満面のニヤケ顔で参戦してきた。
「はっは!じゃあこの紐をもってベッドのサイズを測っておいでよ。縦と横の長さで結び目をつけてからうちに持っておいで」
そういっておばちゃんが紐を手渡してきた。
「ではそうさせていただきます。こちらで布団一式を購入したら家まで運んでもらうことってできますか?」
「ああそのときは運ばせてもらうよ」
「明日にまた来ますので、その時はよろしくお願いします」
そういって寝具店を後にし、店を出てからすぐに振り向いて奥田の顔を見る。
・・・予想通りの顔をしていた。
◇◇◇◇◇
寝具店を出てから再び通り沿いの店を冷やかしていると、通りに面した大きな広場に行き当たった。
広場の中には露店が立ち並んでおり、立ったまま食べれるものや、何処で集めてきたかよく分からないような雑貨、大量の布、陶器の壺など実に様々なものが売られていた。
その露店の一つに、文字の書かれた紙片や巻物を大量に売っている店を見かけたので足を止めた。
「ん?これは愚者の覚え書きじゃないのか?」
「お客さんバカ言っちゃいけやせんぜ。あんな高級遺物を露店で売りはしないでしょうに」
なるほど。確かにあれは露店向けの商品ではないか。
「じゃあこの書物達は何なんだ?」
「これも一応は迷宮から出土したものではあるんですがね、誰も読めないし使い道もわからないもんですから二束三文で売られるか捨てられるかしてるもんなんですよ。なので割れやすい陶器を包むためのものとして売ってます」
「へー、誰も読めないのか」
我々にはサングラスがあるからこの文字を解読できるかもしれない。
また玉ねぎの切り方とかが書かれてるかもしれないが面白そうにも思う。
「これ買うよ。適当でいいのでいくつか選んでくれ」
こうして巻物と紙片をいくつか購入した。
「面白いもの見つけましたね」
奥田がそう言ってくる。
「だよなあ?宝の在処とか書かれてないかな?」
「絶対に書かれてますって!あとは古代魔法が記されてたりするかもしれません」
「ワクワクしてきたわ」
その後も露店を冷やかし倒しつつ、謎のフルーツジュースを飲んで過ごしていたら、じきに日も落ちる時間となったので宿へと帰った。
◇◇◇◇◇
宿の食堂ではパーティ全員が揃って食事を摂っていた。
ルシティが初めて食べた菓子類の素晴らしさを熱く語っていて、彼をダンジョンから連れ出して本当に良かったと思えた。
また食べ歩き組は南区へ行って、お婆さんの魔道具店でルシティ・オサート・ロッコ用の翻訳の腕輪を購入してきてくれたようだ。費用はパーティの共有金から支払われている。
「それなんですか?」
オサートちゃんがテーブルの隅に積まれた書類をみて尋ねてきた。
「ああそれ?冒険者ギルドの職業訓練棟で買ってきた、年間講習スケジュール表と、東区の市場で買ったガラクタっぽい書類だよ」
「何が書いてあるんですか?」
「あー、それなんだけどね」
そういって、今日冒険者ギルド内でサングラスを使った時のことを皆に話した。
「ロッコはその辺りの決まり事とか知ってる?」
「いや全然知らないっす。普段魔道具を持ち歩いたりもしませんし」
やはり明日リオからの聞くまでは分からないか。
そしてオサートちゃんに再び話しかける。
「だから後で部屋に戻ってから内容を確認するつもりだよ」
「わかりました」
すると今までフムフムモグモクしていたルシティが積まれた書類を見て言う。
「ザナイヤ語か」
「ん?どれのこと言ってるの?」
奥田が聞き返す。
「その一番上の紙以外はそうじゃないか?」
ルシティが指を刺したのは、講習スケジュールが書かれた紙だった。
「え?ってことは市場で買ってきた巻物とかはルシティが読めちゃうんだ?どこで習ったの?」
「習ったわけではない。意識を認識できた時からすでに様々な知識が私の頭の中にはあったのだ」
ルシティはそう言う。
「でも考えてみたら当たり前よね。迷宮の住人なら迷宮にある文字は読めるわよね!」
そう奥田は納得したようだ。
「で、これって何が書いてあるの?」
奥田は市場で買った紙片の一枚をルシティに手渡した。
「ふむどれどれ・・・こ、これはっ!」
紙片を読んでいたルシティが目を見開いた。
「なになに!?封印されし禁呪でも書かれてた?」
「いやそんなものは書かれていない。職場の上司に対する不満がネチネチと書かれているだけだな」
ルシティも「こ、これは!」とか言って態々演出を入れてくれるんだな。器用なヴァンパイアだ。
そして、そんなどうでもいいものにお金を払って買ってしまったのかと少し後悔していると、ルシティが続きを話した。
「これを書いた人物の名前は分からないが、上司は『ヒルハ』という名の女性のようだ。その女上司の仕事の進め方が非効率的すぎるので、代わりに効率的な方法を進言してみたところ、自分のやり方を否定されたと思ったヒルハは感情的になり、声を荒げて今までの進め方を強要してきたそうだ」
「しんどい・・・」
「心臓が痛い・・・」
同じような体験をしたことのある者が胸を押さえて苦しんだ。
「まあその辺りの愚痴がネチネチと綴られているだけだな。しかしこれを書いた者は、ほかの誰かの目に留まるとは考えなかったのか?」
「日記の一部だったりするんですかね?」
そう松下さんが考察する。
謎の古文書に書かれた古代魔法を夢見たワクワクな気持ちが萎んでいく音が聴こえた。
◇◇◇◇◇
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