第34話 シビルウォー
無限に寄せてくるカニたちを薙ぎ払いながら進むと、ようやく目的地である地底湖が見えてきた。
「おー、なかなか神秘的な場所だなあ」
光る洞窟の壁面が地底湖の水面に反射して幻想的な光景を作り出していた。
「目的の大蛇ってどこにいるんだろ」
「そこの池に住んでるらしいですぜ?」
「蛇なのに?水中に?」
「まあそう地図には書いてありやすね。名前は『大水蛇』って言うみたいっす」
海蛇のように水中で活動する蛇なんだろうか?
そうだとしても地底湖の水温はそれなりに低いので、爬虫類が活動するにはあまり向いていないのではなかろうか。
そのあたりは伝家の宝刀「魔素」で何とかしているのかもしれないが。
まずはもう一度、ギルドの資料室で魔物図鑑を確認してもらったロッコたちに大水蛇の特徴を説明してもらう事にした。
「ええと、私が説明します」
葵ちゃんがそう言って説明を始めた。
大水蛇の体色は黒色をしており、口から鋭い水鉄砲を撃ってくるのが特徴で、身体に穴が開くような威力ではないものの、水鉄砲に当たって地面を転がされたなら大怪我を負うこともある。
また身体には独特のヌメりがあり、斬撃や打撃に対して強く、刺突攻撃のみが有効的に働くそうだ。
「ふむなるほど、ちょっと試してみたいことがあるから手伝ってくれるかい?」
そうみんなに伝え、大水蛇戦の準備を始めた。
◇◇◇◇◇
「これをそこの水に投げ込めばいいのだな?」
ルシティが確認してくる。
「はい、お願いします。奥の方は深くなっているので、なるべく手前の浅場に落としてください」
「心得た」
そう言ってルシティは、片側の脚を切り落とされ、ジタバタ暴れるだけの巨大ガニを掴み、水中へと放り投げた。
水へと落とされたカニは水飛沫をあげて藻搔いている。
「あれで大蛇は来るんですか?」
カニを眺めている奥田がそう質問してくる。
「いやわかんないよ。見たことすらないんだし」
その時、カニが暴れている近くの水面が大きく盛り上がり、水中から黒い影が飛び出してきた。
「おお、出てきた!」
1mほどもある大きな黒い影が口を開けたと思うと、強烈な水流をカニに目掛けて吐き出した。
「おー!あれが大水蛇・・・って、あれって蛇です?」
奥田の質問はもっともだ。
「あれウナギだよな?」
シャくれた下顎、ヌメッた身体、両脇から生えた一対の胸ビレ。それはどうみてもウナギだった。
「ウナギってなんですかい?」
そうロッコが尋ねてくる。
「この世界ではあまり見かけないのかな?あそこに見える黒い魚がそうなんだけど」
「あんなウネウネしてんのに蛇じゃないんすか」
大ウナギは水鉄砲でカニを弱らせたと判断し、口で咥えて水中へ引き摺り込もうとしていた。
「では火魔法で攻撃を!なるべく口内は避けて!」
そう叫ぶと、皆の持つ杖からいくつもの火球が飛び出した。
火球は一斉にウナギのもとへと殺到し、喉、目、ヒレ、辺りで小さな爆発を何度も起こす。
ウナギは水飛沫を上げながら水面へと横倒しとなり、そのまま暫く待っても動かない。
先ほどまでは見えなかったウナギの尾鰭辺りも水面に浮いてきたのが確認できる。
「これは流石に倒しただろ?引き上げようか」
松下さんからグレイヴを借り、腰まで水に浸かりながらウナギの元へ近寄る。
辺りからは魚が焼けたときの香ばしい匂いが漂ってきた。
「めっちゃ良い匂いがする!」
グレイヴの刃をうなぎに引っ掛けて陸まで運ぶ。カニを食べたばかりなのに段々と空腹感が増してきた。
「ほんとだ、良い匂いがしますね」
「これ食べれるの?」
そう隼人くんが質問してくる。
「ウナギの血って確か毒があったと思うから、ちゃんと調理したものじゃないと危ないよ」
その返答を聞いた隼人くんとルシティが残念そうな表情を浮かべた。
◇◇◇◇◇
「あー、これっすかねえ?」
解体をしてくれていたロッコが、筒状の部位を手に持って見せてくれた。
「それ喉の奥にあったんだよねえ?全然牙じゃないじゃん」
依頼には「大蛇の牙」とあったが、実際には牙ではなさそうだ。
「片側から水を通してみればわかるはず」
それを聞いたロッコは、一掬いの水を筒へと流し込む。
「ぎゃ!!」
ロッコの叫び声と共に筒から水が勢いよく吹き出し、筒は掴んでいた手を離れ天井付近まで吹き飛んだ。
「お、当たりだな!で、その筒が何本必要なんだっけ?」
吹っ飛んでいった筒を拾いにいったロッコに代わって葵ちゃんが答えてくれた。
「3本です・・・」
「う、結構手間だね・・・」
気落ちしていても仕方がないので、残りの筒もさっさと手に入れようとポイントを変えながらウナギ釣りを続けた。
◇◇◇◇◇
既にもう1本追加をして計2本の筒が手に入っている。
残りは後1本。早くウナギ出てこないかな?と水に落としたカニを眺めている時にそいつは現れた。
「なんか変なウナギきたー!!!」
奥田が叫ぶ。
水面から顔を出した黒い影は、シャくれた顎と
一対の胸ビレが見えるのでウナギに近い。
しかし顔から伸びる2本の白いヒゲがウナギであることを否定する。
「ナマズだー!!」
まさかの外道。
ここにきて対象魚以外の獲物がかかるとは思ってもみなかった。
しかし餌だけ取られるのも癪なので、ウナギ同様の方法でナマズを処理し、その死体を陸まで運んだ。
「これも良い匂いがするね」
隼人くんは育ち盛りだ。
「確かにナマズも食べれるはずだけど、今まで一度も食べたことがないからなあ。折角だけどこいつもやめておこう」
再びルシティ・隼人組が悲しそうな顔をした。
「先輩、これピンクマスと同じ魔法発動体じゃないです?」
奥田が手に持っているものは、ナマズから生えていた真っ白なヒゲだ。
確かに黒に近い茶色をしたナマズから生えているのが不自然なほど白い。
「何系統の魔法に関連してるんだろ?」
「白いから、白魔法ですね!」
「そんなざっくりなかんじでいいの!?」
ここでは魔法を試せそうにないので、白いヒゲはビニール袋に詰めて持ち帰ることになった。
「先輩が持ってってくださいよ。それすごく生臭いから・・・」
「あいあい」
背嚢は既にパンパンに物が詰まっていたので、ビニール袋を手に持ったまま移動することになった。
◇◇◇◇◇
3本の大蛇の牙(ウナギの筒)を手に入れ終えた一行は街へ向かっての帰路についていた。
「ルシティはこの後どうするの?」
「うーむ、部屋に戻ってもいいのだが、出来ればカニのような食べ物をもっと食してみたいと考えている」
「んじゃ一緒に街まで行こうか」
「太陽を浴びて死んじゃわない?」
奥田から懸念が挙げられる。
「もしそうなったとしたらまた地下の部屋で復活すると思われる。その時はまた迎えにきてくれ」
「復活するんだったら別にいいけど・・・」
なんだかんだと一緒にウナギ討伐を行ったルシティとは既に浅からぬ縁を感じている。
いつまでも同じ部屋に閉じこもっていた彼ら魔物の気持ちはわからないものの、カニを一緒に食べた時の笑顔に嘘はないだろう。
出来ることならもっと色々な体験を地上でもしてほしい。そう考えるのはこの世界の、この迷宮の理から外れたものなんだろうか。
「なんとかなりますよ!もし太陽で死んじゃうようなら、私たちが『魔道日焼け止めクリーム』を地下9階まで持っていくので!」
さすが先生。凄いものを開発してらっしゃる。
そんな会話をしながら地上を目指し、巨大蛾には腰を抜かしたり、ムカデの群れに意識を刈り取られつつも街への出入り口が見える位置まで戻ってきた。
◇◇◇◇◇
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