第11話 大きく、ぶ厚く、重く、そして、大雑把すぎた

 運転士である松下千尋さんの話を聞いた限り、この世界へ転移してきた時の様子は我々とそう変わらない事が分かった。


 ただ少しだけ違う点は、我々のように『スマホをポチポチしていたらいつの間にか転移していたよー!』といった曖昧なものではなく、しっかりと前を向いて運転していたので、転移した瞬間のことまではっきりと覚えていたことだ。


 彼女の話によると、転移の前に列車事故に見舞われたり、まばゆい光に包まれたというようなこともなく『テレビのチャンネルを切り替えたように突然景色が一変した』そうだ。


 この神殿に飛ばされた後は、隣の部屋からスケルトンたちがガシャガシャと迫ってきたのが見えたので、身体を低くしながら客席側へと移動したらしい。


「ほんとだ。電車の向こう側に通路が見えますよ」


「正規の入口はあれか」


 我々二人は洞窟に開いた穴を通ってこの部屋にきたので、正しい順路を辿ってはいない。

 他の部屋を調査すれば転移に纏わる仕掛けなどが見つかるかもしれない。

 案外隣の部屋でスイッチを押せばあっさり地球に帰れてしまう、なんてことがあるかもしれないな。

 すぐにでも調査してみたいが、今日のところはこの三人を保護するために一旦地上へと戻るのが良さそうだ。

 全員で装備を整えてから調査した方が効率も上がろう。


 松下さんの話は続く。


 客席側へ移動すると怯えて蹲っている姉弟がいるのを発見する。

 二人を宥めながらも救援を待っていたが一向に事態は好転せず、スケルトンが電車を叩く音に怯えながら車内に伏せていたらしい。

 しばらくスケルトンたちを観察していると、車体を壊すような力は無さそうだと気づき、時折飲食を挟みつつも救援を待っていたそうだ。


 なおこの車両は貨客混載なので長い時間を立て篭もることができたとのこと。


「貨客混載ってなんですか?」


 奥田がそう質問する。


「この列車には黒い猫が運ぶ荷物が積んであるんですよ。運送会社のトラックがA駅まで荷物を運んでくるので、それを列車に積み込み、Z駅まで運んで下す。そこからまた運送会社のトラックに積み込んでお客様の元へ荷物が届けられる、といったシステムですね」


「へー、そんなものがあるんですね!」


「まあ、今回は緊急事態だったこともあり、本来はお客様の荷物なんですけど、その中身を一部、簡単な飲食物を拝借させていただきました」


 その話を聞いて一つ質問を重ねる。


「その荷物ってまだ車内にあります?」


「はいありますよ、でも飲食物はもうほとんど残っていません」


 なにかしらこの野営に使えるものがあるかもしれない。早速車内へと案内してもらった。


◇◇◇◇◇


「冷蔵のものはそこの箱で、それ以外はこっちに入っています。あと・・・その・・・車両の一番奥の方には・・・」


 松下さんが何か言いづらそうしており、続く言葉を待っていると、どうやら車両の最奥部はトイレとして利用していたために、あまり近付いてほしくないそうだ。確かにそれは言いづらかっただろう。申し訳ない。


「松下さん、この荷物の中で使えそうなものって全部持ち出してもいいですかね?今いるこの場所はモンスターが現れるので、一度みんなで地表に向かおうと思うのですが」


「はい、構わないと思います。後ここって地下だったんですね・・・」


 一旦荷物を床に広げて、各々が必要と思うものを抱えてもらった。

 そんな荷物の中から『高御堂シェフ推薦 調味料詰め合わせ』なんてものが見つかり思わず快哉を叫んだ。


 皆が荷物を選別している最中、奥田が隅っこでゴソゴソしていたので何をしているのか観察してみると、電車の揺れで荷物が動いてしまわないようにする為の幅広ベルトを改造して大剣を背負う形で装備していた。

 更には、荷物全体を覆い隠す為の防水シートをマントのように羽織り、だらしない笑みを浮かべながらの決めポーズ。

 その背中にはデカデカと黒い猫のマークが描かれていた。


 やっば!!めちゃくちゃかっこいい!!

 完全に出遅れた!悔しい!!


◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る