私は一言。

『顕現 魔剣ナハト・シュテルン』

空は先程までの青空と一変し、夜の様に暗くなり、空から一本の剣が落ちてくる。

剣からは禍々しい雰囲気が出ている。

私は地面に刺さった魔剣を抜く。以前とは違う。

海野に教えてもらい、『剣術』スキルも手に入れた。アドバイス通り剣の大きさを小さくした。

多分『トート』は剣を扱ったことがない。つまり、剣術スキルを持つ私にアドバンテージがある。

私はナハト・シュテルンを持ち、『トート』に切り掛かった。


もちろん『トート』に斬撃は通らない。だが、私は止まらず斬撃を浴びせ続ける。

海野は島での修行の時言っていた。

「遥のフィジカルとナハトの火力。これが合わさるだけで十分な脅威だよ。」

と。

海野が脅威だと言う程の私の斬撃。それを『トート』に浴びせ続ける。

2撃目、弾かれる。

3撃目、弾かれる。

6撃目、弾かれる。

9撃目、弾く力が弱くなってくる。

14撃目、刃が通る。

15、16、17撃目、『トート』が倒れた。

『トート』が倒れた地面には彼の血で水溜まりができていた。

私の身体はすでにナハトを使い続けたことにより、限界が来ていた。

ナハトは一回振るだけでもかなりの魔力を消費する。17回ともなると私の魔力は底を突いていた。


でも倒せた……

私は最後の責務をを果たせた……

それにしてもなんだろうか。この違和感。


その時だった。

『トート』が立ち上がった。先程までつけた傷は全て消えている。


「な……なんで……」


エジプトの神。『トート』。魔術に精通しており、別名は『医療の神』。過去には毒殺されたホルスを回復させた程の凄腕の回復術を使ったことがある程。


「心臓を消されていれば危なかったが、このくらいの軽傷ならばすぐに治せる。中々いい剣だった。」


これは齢17の少女の心を折るのには十分すぎる出来事であった。

もう彼女がナハトを振れるのは後1回もない。

それ以上は彼女の命に影響が出てくる。

彼女は絶望しながら、ナハトを握る。

最後に何か成さなければ……

彼女は『トート』を睨みつける。



 彼女が最強の冒険者となったのは4年前。中学一年生の時だった。覚醒した日、彼女は自分のステータスやスキルを知った。それは正に『最強』と言える程のもので、彼女はその力を持つ物として、責任を果たそうと決意した。

それから風吹や麗華、カイやケイと出会い、『LEO』を立ち上げた。

彼女は率先して難易度の高いダンジョンへと出向いた。毎日毎日。

ダンジョンへの恐怖を感じていた世間は彼女のことを『最強』と囃し立て、平和の象徴として崇め始めた。

その頃には彼女には誰にも、どのモンスターにも負けてはならないという使命感、誰もクリア出来ないダンジョンへと出向かなければならないという義務感が生まれていた。

誰にも負けてはならない。負けてはならない。自分が負けたら『最強』の平和の象徴がいなくなってしまう。彼女は心の奥底ではその責任から逃れたいと思っていた。


だが、先日。彼女よりも強い人間が現れた。その男は海野源。始めて彼女は負けた。彼女は『最強』としての責務を果たせなくなってしまったのだ。

だが彼女はせめて最後に『最強』として、何かを成そうとした。

だが成せなかった。彼女はもう『最強』ではない。


彼女はナハトを握ろうとするが振る余力がもう残っていない。

『トート』は手に魔法陣を展開し、彼女に向ける。


「散々苦労したのだ。もう楽になれ。」



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