『トート』
『トート』はこちらを向くなり、首を一気に回転させてこちらを向く。
「不調和か。海野源、お前を神『トート』の名の下に排除する。」
「まずいです!『トート』は『時の管理者』、『ラーの心臓と呼ばれる程位の高い神でして、過去には『月』にも勝ったことがあるだとか……」
麗華が一気に喋る中、『トート』は一言。
「『顕現 フラジェルム』」
すると、『トート』の手中に鞭のような武器が現れる。
「倒せるかな?」
「海野。あなたは前に出て『トート』の攻撃を引きつけて。私は後ろから援護を入れる。」
「わかった。」
僕が前に出ようとした瞬間、一瞬時空が歪んだ。そして次の瞬間、先ほどまで『トート』が動かしていなかった筈の『フラジェルム』が僕の顔のすぐ横まで来ていた。素早く反応し、『フラジェルム』を掴む。
なんだ?今の攻撃は。一瞬何かが止まったと思ったら『フラジェルム』が顔のすぐ横に?
「『時の管理者権限』ね。」
遥が呟く。
「『トート』は『時の管理者』つまり、時間操作が可能。今のは『時の管理者』の権限で自分と『フラジェルム』以外の物の時間を止めたのよ。」
「そんなんチートだろ……」
「神はこの世で唯一チートの使用が許された存在って言った方が分かりやすいかしらね。」
僕は掴んでいた『フラジェルム』を引っ張り、『トート』から奪う。
「お前も中々のチートだよ。『顕現 トートの書』」
「援護頼んだ!遥。」
僕は足に力を込めて身体を回転させながら前へ飛ぶ。今回は10回転。
『3600°』
だが、『3600°』は『トート』に命中することはなかった。僕の足と『トート』の身体には磁石同じ極同士をぶつけた時のような反発が生まれ、僕は吹き飛ばされる。
続け様に遥が紫色の槍を何本か出現させて、『トート』に向かって飛ばすが、やはり『トート』には当たらず、やはり謎の壁によって弾かれてしまう。
この見えない壁はなんだ?攻撃に反応して局所的に発動しているのか、それとも常時発動しているのか。そして破壊する事はできるのだろうか。
もしも『物理無効化』と同じならば無効化には上限がある筈だ。
僕は一気に接近して正拳突きを七発連続で打ち込む。
だが、やはり弾かれてしまい、効果はない。
次の策を……と考えていると、『トート』が拳で殴ろうとしてくる。
明らかな素人の突き。力が外に逃げてしまっている。スピードも遅い。全然受けられる。そう思い、『トート』の拳を受けた。
次の瞬間、僕の意識は無くなっていた。
『トート』の拳が当たった瞬間、海野は不自然な程吹き飛ばされた。なんというのだろうか。拳が当たるのと海野が吹っ飛ぶのにはタイムラグあったような……
「反発してる……もしかして斥力?」
斥力とは二つ物質が互いを遠ざけようとする力。
「正解だ。君は中々センスがある。源のことを……いや、なんでもない。とにかくそこをどけ。今から彼を適切に処理する。」
海野は私の後ろまで飛ばされて気絶している。私一人では勝ち目がない。私はもう最強ではない。私に勝った海野が倒れてしまった今、どうすれば……
魔法では『トート』の方が圧倒的に上。近接戦も先ほどの拳を見た所、勝ち目がない。だが、やらねばならない。海野がいなくなった今、次に強いのは私。
せめて海野を守らないと……
それが私の最後の責務だ。
私は一言。
『顕現 魔剣ナハト・シュテルン』
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